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恋人のふり

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「本当にすまない。君にまで被害が及ぶとは思ってなかったんだ」

 もう⼀度頭を下げかけた颯⽃を⼀花は制⽌する。
 彼に謝られるのは筋違いだと思ったのだ。

「まだ本当にそうと決まったわけじゃないし、もしその⼈が犯人だとしても、颯⽃さんが悪いわけではありません」

 ⼀花がきっぱり⾔うと、颯⽃はなぜか虚を衝かれたような顔をした。
 そして、なにか考えるように顎に⼿を当て、少し黙った。
 それは考えるときの彼の癖のようだ。

「……しばらく君の家を警備させよう」
「⼤げさですよ!」
「いや、なにかあってからでは遅いから」
「でも……」

 深刻な被害があるかもしれないと思っているのだとしたら恐ろしいが、だからといって、警備員を派遣してもらうなんて申し訳ないと⼀花は思った。
 彼⼥のためらいを察したようで、颯⽃が⾔う。

「それではこうしないか? 俺は決定的な証拠を押さえて、嫌がらせをしているやつを捕まえたい。だから、恋⼈のふりをしてそいつを炙り出すのに協⼒してもらえないか? その代わりに君の⾝辺警護をするし、報酬も出そう」
「えぇー! 恋⼈のふり!?」
「付き合ってる相⼿がいるのか?」
「それはいないですけど……」

 突然湧いて出た突拍⼦もない話に⼀花は⽬を⽩黒させる。
 思わず颯⽃をまじまじと⾒つめてしまう。

(この⼈の恋⼈役!?)

 昔からフラワーデザイナーになりたくて、勉強や花屋のバイトに励んでいた⼀花には恋愛をする暇も余裕もなかった。だから、恋⼈がいたのははるか昔だ。いつもひっつめ髪で最低限の化粧に、作業優先のジーンズ姿の⾃分に⾊気がないのも⾃覚している。
 そんな自分が演技だとしても颯斗のような素敵な男性に釣り合うとは思えなかったのだ。

「どうして私なんですか?」
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