上 下
15 / 62

恋人のふり②

しおりを挟む
 颯⽃ならいくらでも恋⼈役をしてくれる⼥性がいそうだと思った。
 彼はあっさり答える。

「君だったら⼤丈夫そうだからな」
「⼤丈夫そうとは?」
「ミイラ取りがミイラになるっていう⼼配はなさそうだということだ」

(それって、私が颯⽃さんを好きになることはないってこと? まぁ、こんなハイスペックな⼈と⾃分がどうこうなるなんて考えられないから、それはそうかもしれないけど……)

 彼の言葉に納得する気持ちとモヤモヤする気持ちが生まれた。
 でも、颯⽃が⼀花に恋⼈役を頼んでくるほど思い詰めているということは、事態はかなり深刻なのかもしれない。
 そうだとしたら、警備してもらえるのはありがたい話だと思う。
 また、花を台無しにされても困るから。

「わかりました。具体的になにをしたらいいんですか?」
「引き受けてくれるんだな。ありがとう。とりあえずは、休⽇に外⾷したり、買い物したりというように、⼀緒に出歩いてもらうだけでいい」

 明るい表情になった颯⽃に向かって、⼀花はうなずいてみせる。

「それくらいでいいんですね。じゃあ、警護をしてもらえるのは助かるので、報酬なんていりません」
「それでは、⺟に⾔って、いろいろ仕事の便宜を図ってもらうようにしよう」
「ありがとうございます」
「いや、こちらこそだ。犯⼈の⽬星はついてるんだ。だから、そんなに⻑くはかからないはずだ」

 颯⽃はそう⾔って、⼿を差し出してきた。
 取引成⽴とでもいうように。
 ⼀花がその⼿を握ると、⼤きな⼿が握り返してきて、ドキッとした。

「まぁ、これから楽しみね!」

 突然、貴和⼦が現れて、華やいだ声を上げた。
 また、陰から⼆⼈の様⼦を窺っていたらしい。
 颯⽃があきれた顔でたしなめる。

「⺟さん……。おもしろがってる場合じゃない」
「あら、ごめんなさい。それはそうね。⼀花さん、お花がだめになって、残念だったわね」

 貴和⼦は素直に謝った。
 お茶⽬でにくめない⼈だなぁと⼀花は微笑む。

「仕⽅ないです。颯⽃さんに犯⼈を捕まえてもらって、ギャフンと⾔わせてもらいます!」
「ギャフン……。ハハッ、任せとけ」

 ⼀花の⾔い⽅がツボに⼊ったようで、颯⽃は笑いながら、請け負った。
 彼⼥は顔を⾚らめる。
 師匠の⼝癖がうつって、たまに古めかしい⾔い⽅をしてしまうのだ。
 気を取り直して、⼀花は什器を持ち上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

やさしい幼馴染は豹変する。

春密まつり
恋愛
マンションの隣の部屋の喘ぎ声に悩まされている紗江。 そのせいで転職1日目なのに眠くてたまらない。 なんとか遅刻せず会社に着いて挨拶を済ませると、なんと昔大好きだった幼馴染と再会した。 けれど、王子様みたいだった彼は昔の彼とは違っていてーー ▼全6話 ▼ムーンライト、pixiv、エブリスタにも投稿しています

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

【R18】マーキングしてきた虎獣人と結婚した後の話

象の居る
恋愛
異世界転移したユキとムキムキ虎獣人のアランが結婚して半年。ユキが束縛されてないか、勤務先の奥さまに心配されるも自覚がないため意味がわからず。それは獣人のマーキング事情によるものらしく……。 前作『助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話』の続きです。これだけでも読めますが、前作を読んだほうが楽しめると思います。↓にリンク貼りました。 表紙はAKIRA33(@33comic)さんからいただいた、前作のファンアートです。 アランとユキ!! ムキムキトラ獣人とエロ可愛いユキ……(;▽;) サイコーです

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

処理中です...