完璧な惚れ薬を作って、今日こそあの人とラブラブになります!

入海月子

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放っといて!

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「ずいぶん、素材が集まったわね」

 ガイラがレシピと素材を見比べて、感心感心と頷いた。
 必要素材はその都度ガイラから発表されて、全容を教えてくれないので、ラフィーにはあとどれくらい集めればいいのかわからなかった。

「あと残ってるのは何なんですか?」

 ラフィーの問いかけにガイラはふふふと含み笑いをして、「あと少しよ」と答えた。
 ガイラに片想いの相手を特定されているのに遅ればせながら気がついたラフィーは、嫌な予感しかしない。

(あれは完全に楽しんでいる顔だわ!)

「もうリュオを巻き込むのはやめてくださいね!」
「あら、どうして?」

 心底不思議そうに、ガイラは頬に指を当て、首を傾げる。その仕草はいちいち色っぽい。

「……むなしくなるからです」

 近づけば近づくほどに、相手にならない自分を思い知らされて、ラフィーは切なくなるのだ。

「だんだん仲良くなってきたじゃない?」
「どこが、ですかっ!」
「えー? もっぱらの評判よ? あの三角関係から、リュオが一歩抜け出したと」
「ウソでしょー!?」

 あまりに事実と違う噂に、ラフィーは目を覆った。
 
(それじゃあ、まるで、リュオが私を狙ってるみたいじゃない! あり得ないのに! リュオはこの噂を知ってるのかな? 噂に疎そうだし、知らないかも……)

 でも、噂を耳にしたときのリュオのことを考えると、ラフィーはゾッとした。

「きっと素材採取に付き合ってもらったときに見られたんだわ。全然そんなんじゃないのに!」

 そういうのを嫌いそうなリュオのことだから、噂を聞いたら、ラフィーを避けるようになるかもしれない。
 そう思い、起こってもいないことなのに、ラフィーの胸がズキンと痛んだ。

「あのリュオが素材採取なんかに付き合うこと自体がめずらしいと思うけど?」
「あれはリュオも用事があったから付き合ってくれただけで……」
「ふ~ん?」

 ガイラはまたおかしそうに笑った。

「次の素材は、満月の光を浴びて開花したロゼオの花に溜まった夜露よ」
「満月の……?」

 えらく前提が長い。しかも、なかなかハードルの高いことを言われて、ラフィーは固まった。
 まず、満月ということは夜間に行動しないといけないということだ。それに……と、ラフィーは疑問に思った。

「ロゼオの花は昼間しか咲きませんよね?」
「あら、よく知ってるじゃない。そうよ。でも、何も遮るもののない明るい満月のもと、咲く花もあるのよ。この近くで言ったら、サリナの丘にあるはずよ」

 サリナの丘とは、ここから徒歩で四時間ほどかかるところにある。馬に乗っても一時間半ぐらいはかかるだろう。特になにもないところなので、乗合馬車が出ていることもない。
 ラフィーは馬には乗れないから、夜間に徒歩で向かうしかなく、それを考えて青褪めた。

「さすがに遠くて危険だから、リュオが嫌なら、クロードに頼んであげるわよ」
 
 慰めるようにガイラが言い、ラフィーはほっとした。
 彼女にとって、クロードは師匠に言い寄ってる人という認識でしかなく、人当たりのいいお兄さんだし、それだったら気が楽だなぁと、世間の女性が聞いたら目を剥きそうなことを思っていた。

「ありがとうございます。それは助かります」
「それはいいけど、リュオには言わないの?」
「言わないですよ! リュオは関係ないですし!」

 これ以上、噂を煽るようなことをしたくなくて、ラフィーはブンブンと首を横に振った。

「惚れ薬は飲ませないの?」
「飲ませませんよ!」
「つまんないわね~」
「師匠~!」

 いちいち反応がおもしろくて、ガイラはすぐラフィーで遊ぼうとする。それがわかっているラフィーは、じとっとした目でガイラを睨んだ。



 ガイラはラフィーに言った通り、クロードが来たときに、彼女をサリナの丘に連れていってくれるよう頼んでくれた。

「サリのお願いなら、喜んで。満月の夜ってことは明後日だね。スケジュール調整するよ」
「ありがとう。忙しいのに、ごめんね」

 ガイラからの頼みごとがうれしかったようで、クロードはきらびやかな顔をさらに輝かせて頷いた。それでも、ラフィーはすまなさそうに頭を下げる。近衛騎士が忙しくないわけがないから。
 
「いいよ。それに、どうやら私はリュオに遅れを取っているみたいだから、挽回しないとね」

 にこやかな顔からいたずらっぽい表情に変わって、クロードが片目を閉じる。これほどウインクが似合う人をラフィーは知らない。思わず、見入ってしまう。

(違う違う。そんな場合じゃなくて!)

 クロードの方には噂は耳に入っているようで、焦ってラフィーが問いかける。

「そんな噂、気にする必要ないでしょ?」
「それが、最近、チャンスだと思うのか、女の子たちのアピール合戦が激しくてね……」

 苦笑して、肩を竦めたクロードに、ガイラが釘を刺す。

「あなたの隠れ蓑にラフィーを使わないでよ?」
「じゃあ、私の想い人はサリだって……」
「ラフィー、よろしくね! クロードと仲良しなところを見せつけてきて」
「師匠……!」

 あっさりと人身御供に差し出されて、ラフィーは抗議の声をあげた。それでも、ガイラはしれっともっともらしいことを言う。

「あなたの用事に付き合ってもらうのだから、クロードの役に立ってもいいんじゃない?」
「……それもそうですね」

 あっさり丸め込まれたラフィーに、クロードが笑う。でも、ガイラ最優先の彼は、それに対してはなにも口を挟まない。

「じゃあ、よろしく、ラフィー。当日は馬に乗れる格好をしてくるんだよ?」
「わかったわ。よろしくね!」

 元気よく返事したラフィーだったが、「ん? 馬?」
と聞き返す。

「そうだよ。馬で行くよ? さすがに私も何時間も歩きたくはない」
「でも、私、馬に乗ったことない……」
「大丈夫。私が乗せていくから」

 顔を引き攣らせたラフィーに、ガイラが「何事も経験よ」とのんびり言った。




「おい、リュオ、聞いたか?」
「なにを?」

 紙に魔法陣を描いていたリュオは、同僚の呼びかけに不機嫌そうに応じた。この魔札を週末までに千枚仕上げなくてはならなくて、周囲は殺気立っているというのに、この同僚はお昼から戻ってきたかと思えば、空気を読まず、平気で話しかけてきた。
 彼はおせっかいなタイプで、なにが楽しいのか、やたらとリュオにかまってくる。でも、世情に疎いリュオに世間の常識とやらを教えてくれたり、無愛想な彼と上司や同僚との緩衝材になってくれたり、意外と頭が上がらない。しかも、ときどきどこで仕入れるのか、ラフィー情報をくれたりもする。
 リュオは興味なさそうなスタンスでいつも聞いているが、実は有益な情報も多い。
 今回もまさにそうだった。

「明日の夜さぁ、クロード様とラフィーがサリナの丘に行くんだって」
「……ふぅん」

 かろうじて過剰に反応するのを耐えたが、魔法陣の線が歪んで、リュオは舌打ちをした。
 平静を装うリュオをおもしろそうに眺めながら、同僚は続けた。

「サリナの丘っていったら、ずいぶん遠いよなー。二人は朝まで一緒ってわけかぁ」
「そんな話、よく知ってるな」
「クロード様が二人乗りの鞍の用意を頼んだという話が馬丁から広まって、今、女の子たちが大騒ぎしてるよ」
「暇なやつらばかりだな」

 苦虫を噛み潰したような顔でリュオが言い捨てた。
 二枚の紙を無駄にした。その書き損じをクシャッと握りつぶして、リュオは立ち上がった。

「…………休憩してくる」

 リュオはふらっと勤務室を出た。



 薬剤庫に顔を出してみると、ガイラから「ラフィーならお昼よ」と言われ、「別にラフィーを探しているわけじゃ……」とリュオは口ごもる。
 ゴニョゴニョ言い訳をして、そこを辞し、食堂の方へ向かうと、のん気に歩いているラフィーを見つけた。

「ラフィー!」

 ズンズンと近寄ってくるリュオを見て、ラフィーは目をパチクリさせる。彼は、眉間に深くシワを刻んで、この上なく不機嫌な様子だった。

(なにか怒らせることしたかしら? 魔力回復薬が効かなかったとか? まさか師匠の作ったものがそんなわけないよね? じゃあ、なんだろう?)

 あれこれ考えている間に、腕を引っ張られ、中庭に連れていかれる。

「なに? どうしたの?」

 ラフィーが問いかけると、いきなりリュオが立ち止まるから、つんのめりそうになる。
 くるりと振り向いたリュオが責めるような口調で言った。

「男と丘で一泊するなんて、なに考えてるんだよ!」
「はあ?」

 思いもかけないことを言われて、ラフィーは間抜けな声をあげた。リュオの眉間のシワがさらに深くなる。

「明日、クロードとサリナの丘に行くんだろ?」
「あぁ、そのこと! 行くけど?」

 ようやく話が見えて、ラフィーは頷いた。
 なんでもないという彼女の様子に、リュオは苛ついた。

「だから! 夜に男とそんな人気のないところに向かうなんて、バカじゃないの? 女としての危機意識はないのか?」

 畳み掛けるように言われて、ラフィーはムッとする。 

「やらしいわね! クロードが変なことするはずないでしょ! だいだいこの間、あなたとも出かけたじゃない!」
「僕はいいんだよ! 君に手を出すはずないからね!」

 直球で言われてラフィーの息が止まった。
 
(手を出すはずない……。そっか。リュオにとって、私は女じゃないのね)

 わかってたとラフィーは思う。

(私は見た目も中身も可愛げがないもんね。可愛い子が好きなリュオが私なんかに目もくれないのは当たり前だよね)

 彼女は泣きそうになって、唇を噛んだ。

「おい……?」

 突然黙り込んだラフィーを不審に思って、リュオが顔を覗き込んできた。
 いつもながらに、銀色の中の翠がきらめいて綺麗な瞳。
 それを見つめていると、ふいに切なくて苦しくてたまらなくなった。

 バンッ

 ラフィーはリュオを突き飛ばして、捨て台詞を吐いた。

「バカリュオ! 余計なお世話よ! 放っといて!」

 そして、それ以上なにか言われる前に、そこから走り去った。

 
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