パパLOVE

卯月青澄

文字の大きさ
上 下
135 / 161

135

しおりを挟む
「西島さんっ」

名前を呼ばれ肩を揺さぶられたので重たい目を必死に開いて目の前の人を見た。

「店長…」

来てくれたんだ。

「西島さん、しっかり。今、病院に連れて行ってあげるから」

「はい…」

それから店長の肩をかりて車まで移動した。

私は後部座席に乗せられて、横になった。

「かかりつけの病院はあるの?保険証は持ってる?」

そんな声が運転席から聞こえてきた。

薄れていく意識の中で店長の問いかけに返答したので何て答えたのかよく憶えていない。

「西島さん、病院に着いたよ」

「はい…」

店長が事前に病院に電話をしてくれていたらしく、発熱外来の入口から待合室まで、店長の背中におんぶするような形で連れて行ってもらった。

個室に通されてから熱を測ると38.5度の熱があった。

でも、熱が出始めて数時間しか経っていないため、インフルの検査をすることが出来なかった。

検査は出来なかったけど、熱があり体が弱っているとのことで解熱剤とビタミン剤の点滴をうってから帰ることになった。

1時間近く点滴をしていたような気がする。

それが終わる頃には薬が効いてきたのか、体調がだいぶ良くなっていた。

「自分で起き上がれるかい?」

店長がそう言って手を差し出してきたので、その大きな手を握ろうとした。

あれ?

この傷?

「店長、この手の平の傷って…」

店長の手の平には刃物で切ったような10cm程度の傷があった。

「若い時にできた傷でね…」

「何で切ったんですか?」

「人を助けようとしたんだ。でも…結局は助けられなかった」

「でも助けようとしたんですよね?すごくカッコいいと思います」

「そんなことない。助けられなかったこと、今でも後悔している…」

「店長、私は何があっても店長の味方ですよ」

「そう言ってもらえると、本当に嬉しいよ。ありがとう」

「いいえ」

店長の顔を見上げると、今までに見たことないような暗く沈んだ表情をしていて何も言えなくなった。

それから店長にお金を借りて診察料金を支払った。

ママには帰ってから、病院に行ったからと言ってお金をもらえばいい。

店長にお世話になったなんて言ったら騒ぎになるに決まってる。

それから店長に自宅のマンションまで送ってもらった。

スマホで時刻を確認すると16時近くになっていた。

病院で点滴を打っている時にパパからメールで《19時くらいに駅に着くと思うよ》と連絡があった。

パパを驚かせたくてサプライズで迎えに行こうと考えていた。
しおりを挟む

処理中です...