偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう

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渓谷の翼竜

第17話 出発

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「なんだ、あの人間は――?」

「俺たちのことを、知ってる風だが……どうする?」

 奴らは訝しそうに、俺を見る。


 二体の超魔人の見た目は、全身真っ白。
 体格は、チビと巨体。

 チビの方は一つ目で、巨体の方は大きな口が付いている。

 それ以外に、顔のパーツは無い。
 以前ここを襲った奴らと、同じ特徴だ。


 あいつらは――
 俺の事どころか、この村の事さえも記憶していないらしい。





「ターゲットではない。適当に痛めつけて、放っておけ」

 そう言って奴らは、自分の身体から剣を取り出す。

 以前見た時は、何時剣を持ったか分からなかった。
 だが今回は、はっきりと見えた。


 …………。

 三十年ぶりに遭遇した超魔人から放たれるプレッシャーは、相変わらず相当なものだった。

 強力な威圧魔法――
 遺伝子に刻まれた原初の恐怖を、強制的に浮かび上がらせてくる。

 魔法の効果範囲にいる生物は、奴らのことを畏れ、身動きが取れなくなる。
 『蛇に睨まれた蛙』のような、精神状態にさせられる。





 道場に来て稽古をしていた年若い者や、レベルの低い剣士は、怯えて身を竦ませている。

 初めてこいつらを見る者も多い。
 顔面が蒼白になり、脂汗を大量に浮かべている。



「……ひょっとして、俺たちを見たことがあるんじゃないか? ここは進化の特異点が、発生しやすいのかもしれん。何か条件があるのだろう」

「だとすれば、この村の住人をすべて、抹殺しておきたいところだ。いちいち、ここまで来るのも面倒だ……」



 皆殺しの相談か――

 奴らの言う進化というのは、この村の剣術のことか……。
 それとも、闘気を用いた戦闘技術のことだろうか?


 あいつらは完全に油断して、ペチャクチャ喋っている。
 その会話から、なるべく多くの情報を収集しておきたいが、おしゃべりはここまでのようだ。


「ダメだ。ターゲット以外の殺害は、許可されていない。ターゲットは、俺が殺る。お前は、あいつだ……」

 『ターゲットを殺る』と言った、超魔人のチビの方が――

 その次の瞬間には、道場の奥のドウイチの目前に移動していた。



 わざわざ、俺の真横を通って行った。

 ――舐めた真似をしてくれる。

 だが、舐めているのは、こっちも同じだ。
 あのチビの方は、わざと通した。 


 俺はチビに構わずに、もう片方のでっぷりとした奴から視線を外さない。

 刀を持った手を、上段に構える。

 刀の周囲には、魔法で空気を固めた鞘がある。


 チビの方がドウイチの前に移動した直後に、デカい方も俺の前まで移動している。

 そいつは、剣を振りかぶって……。


 ヒュッ!!
 
 ――ザシュッ!!!

 超魔人の振りかぶった腕を、俺の『神速の太刀』が切断した。






 三十年以上の年月を、ひたすら素振りをくり返して生きてきた。

 神速の太刀を、連続で繰す。
 腕を斬った次の瞬間には、ほぼ同時に敵の首も刎ねている。

 首の後は、手足を順番に切断していく。
 一秒あれば、敵の両足は粉みじんだ。

 だが奴の急所の、胸のエネルギー源は敢えて狙わない。




 足を失い支えるモノが無くなった敵の胴体は、ドスンと地面に落ちる。

 ――さて、どうなる?


 観察する俺に向かって、地面に転がる敵の胴体から――

 ビュオッ!! 

 腕が伸びてきた。

 腹から腕が飛び出してくる、予想外の攻撃……。
 俺は冷静に刀で、それをバラバラに切断する。


 こいつらの身体からは、生体エネルギーが感じられない。

 無機物の機械のようで、気配を掴みにくい。

 先ほどのような不意打ちは、対処が難しい。
 だが、問題なく処理できた。


 

「なにっ!!」

 俺に攻撃を対処されたのが意外だったのか、超魔人が驚きの声を上げた。

 さっきのビックリ箱のような攻撃が、コイツのとっておきだったのか――?

 もっと何か、出てこないかな。
 俺は神速の太刀で攻撃を続けて、敵の体積を削り続ける。

 ある程度攻撃をした後で、俺は攻撃の手を止めて様子を伺う。


「手の内が他にあるのなら、早く出せ」



 俺が攻撃を緩めると――
 超魔人の身体の切断面から、白い肉が一気に盛り上がり、初期状態の形状に戻る。

 ここまで削ってやれば、元の姿に戻るのに、三秒……。



「だが……詰めが、甘いな人間! 多少はやるようだが、お前に俺は殺せない。何度でも俺の身体を斬るがいい。俺は無限に再生できる!! お前が消耗して、動けなくなってから殺してやる!!」


 こいつ……。
 俺が手加減してるのが、解ってないのか――

「うーん、こんなもんでいいか……」


 敵の形状変化と、再生速度が分かった。
 胸のコアの魔力を消費して、活動して再生する。

 この戦闘で、敵から引き出せる情報はこんなものだろう。


 俺は『無造作』に振り上げた刀を、『適当』に振り下ろす。

 ザシュッ――

「えっ――?」

 俺の刀は超魔人を、真っ二つにした。
 胸にあった、敵のエネルギー源ごと切断した。

「あっ、アッ……」

 超魔人の身体が、崩れ去っていく。

 後には、二つに割れた球状の何かと、剣だけが残っていた。






 俺の横を通って、ドウイチへと接近した、もう一体の方は――

 すでに死んでいた。



 敵の接近を感知したドウイチは、居合抜きで迎撃した。
 ドウイチの闘気を込めた一太刀は、超魔人の身体をエネルギーの核ごと切断した。

 三十年前――
 師匠が斬ることの出来なかった超魔人の核を、ドウイチは斬った。


 俺はそれを見届けてから、この村を去ることにした。





 敵が消滅した後に残された、二本の剣と『魔核』は俺が回収しておいた。
 あいつらの動力源は、人工的に作られた魔石のようだった。


 剣を調べてみたところ――
 斬った人間から、魔力を根こそぎ奪い、吸収する性質を持った剣だった。

 放置すると危険なので、海の底に投げ捨てることにする。



 二度目の超魔人襲撃から、三日後――
 俺は村長の家に赴き、この村を出ると告げた。

「俺はここを出て、世界を旅することにした」


 家の奥に居たドウイチが『……そうか』と、小さく呟いた。

 これが奴との、最後の会話になった。




 俺は、村長に別れを告げる。

「長い間、世話になった。達者でな……」

 村長とその子供たちは、突然のことに驚いていた。
 旅に出る俺に餞別として、路銀と保存食を用立ててくれた。




 俺が旅に出ると聞いた村人たちが、見送りに門まで来てくれていた。


 皆が、手を振っている。

 俺も片手を軽く振って応え、歩き出す。

 名残惜しくはあるが――
 後ろは振り返らない。

 真っすぐに、前を向いて歩いて行く。





 村を出た俺は、疑似転生魔法『輪廻流転』で、再び竜へと戻る。
 村の守り神として、その姿で数百年生きた。



 その間に、一度だけ超魔人がやって来た。

 ターゲットは、俺らしい。
 数百体くらいが、束になって一度に来た。


 竜を殺そうというのだから、そのくらいは必要だろう。
 
 だが、問題ない。
 全滅させておいた。






 俺が竜となり、数百年――。
 その間、俺たちが育てたあの村の剣術は、受け継がれていっている。

 この国の端々に伝わり、魔物の脅威に対抗する手段として、人を守り続けている。


 ヤト皇国は剣術という力を持った平民を、統治機関に取り入れた。

 剣の実力者は『武士』という身分が与えられて、地方の統治や治安の維持を任せられる。武士は一代限りではあるが、下級貴族と同等の身分だ。

 剣の稽古に精を出す平民は、さらに増えた。


 闘気を扱える実力者には『剣豪』という称号が与えられ、さらに上位の実力者は『剣聖』と呼ばれて称えられている。
 

 
 俺が暮らしていた村が、脅かされることはもうない。

 俺はそれを見届けると、もう一度人の姿へと戻ることにした。
 今度こそ本当に、世界を見て回る旅に出る。

 




 再び人間の姿になった。
 年齢は、三十前後くらいだろう。
 
 そのくらいになるように調整した。
 自身の肉体年齢のピークに、変化し固定する。
 

 腕も、二本ある。

 腰には、愛刀を差す。
 それと、竜だった時に爪を変化させて作った、白い棒を背負う。



 準備は完了した。

 この国を出て、世界を旅する。
 手始めに外洋船に乗る為に、首都に向かう。

 その途中で、魔物に襲われている商隊を助けた。

 そいつらはデルドセフ商会という海運業を営む大商会の傘下らしく、俺が世界を旅するつもりだと言うと、船を紹介してくれた。

 商隊の護衛をすれば、只で載せてくれるらしい。

 やったぜ!!
 俺は引き受けることにした。




 俺が護衛する船というのは、なんと空を飛ぶ飛空船らしい。

 空を飛ぶ船か――!
 いいなっ!!

 俺は年甲斐もなく、わくわくした。


 竜の姿で散々自在に空を飛んでいたが、それとはまた別腹なんだ。

 空飛ぶ船。
 そういうのがあると、ファンタジー世界に転生したって気になる。



 飛空船はこの国を出て、西の大陸の北方向へと進み、各地を回るらしい。

 出発の日、船に乗り込んだ俺は、例の嫌な予感を感じ取った。

 ――超魔人の襲来。

 
 今度はこの船がターゲット、ということか……。

 奴らの狙いが何かは、まだはっきりとは分からないが――
 俺がそれを、切り刻んでやる。
 
 護衛として乗船する以上、この船に手出しはさせない。



 船が浮かび上がり、前進を開始する。

 嫌な予感は、変わらずにまとわりついているが――

 不安は無い。


 天気は快晴。
 船の上から見上げる空は、透き通る青がどこまでも広がる。

 俺は海を渡り、世界を巡る旅へと出発した。


 -END-
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