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渓谷の翼竜
第16話 聖剣
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俺が片腕を失ってから、二十年が経過した。
――今日は、狩りの日だ。
強力なモンスターを求めて、村からかなり離れた場所まで来ている。
渓谷の上部に登って、敵を探す。
腕試しと修業も兼ねて、遠征している。
俺の手には、木の棒がある。
ここに来るまでの道すがらに、いい感じの枝を見かけたので、それを木から切り取って持ってきた。
「お前、今から聖剣エクスカリバーな!!」
俺はそう言って、木の棒をブンブンと振り回す。
異世界に転生し、竜として生まれた俺は、魔法で人間の身体に変化している。
この姿で、かなりの年月を過ごしてきた。
人間として年を取り、人間として成長し、老化している。
今の俺の肉体年齢は、三十半ばを過ぎくらいだろう。
『聖剣エクスカリバー』で遊んでいて、許される年齢ではない。
俺もさすがに、村の中でこんな真似はしない。
人が誰も見ていないから、出来ることだ。
人以外のギャラリーはいるが、クマなので問題は無いだろう。
正確にはクマの魔物。
俺の体積の、十倍以上はある化け物だ。
俺はクマの魔物に向かって、木の棒を構える。
目の前の魔物は、聖剣を構えた俺を敵と認めたようだ。
闇雲に襲い掛かって来ることもなく、静かに臨戦態勢を取る。
クマの魔物はその身体を、魔法で作った岩で覆う。
急所を守る鎧か……。
さらに、自身の周囲の空間に岩石を浮かべる。
こっちは攻撃用。
熊の魔物は、浮かべた岩石を――
こちらに向かって射出してきた。
ドッ!! ドッ!! ドオッ!!
高速で飛んでくる敵の魔法攻撃を躱しながら、俺は敵に近づいて行く。
前に向かって進み、剣の間合いまで接近した。
俺が肉薄すると、クマの魔物は口を開けて、噛み付こうとしてきた。
俺はスピードを上げて、その攻撃を避ける。
避けた先にあったクマの横腹に、聖剣エクスカリバーで斬りつける。
ザシュッ!!!!!
クマの魔物は魔法で作った岩の鎧で、その身を護っていた。
しかし、俺の聖剣には、闘気が宿っている。
闘気は木の棒の強度を上昇させ、岩の防御を打ち砕き、腹の肉を深々と抉る。
抉った肉から、血が滴る。
俺はそこでエクスカリバーを手放し、数歩後ろに下がる。
態勢を整えて、右腕に闘気を込める。
「ぐぉおおおおっっ!!!!!!」
クマの魔物は腹を斬られた痛みで、叫び声を上げる。
こちらを見て、俺を威嚇するように睨んできた。
俺は構わずに、片腕でクマの腹を殴打する。
闘気を込めた俺の拳は、岩の鎧を打ち砕き、クマの肉を抉る。
クマの魔物は魔法で俺を拘束しようと、魔法の構築を開始する。
土魔法の構成。
岩で俺の動きを封じる気のようだ。
俺は闘気を込めた拳で、それを破壊する。
魔法の発動を阻害されたクマの魔物は、魔法の使用を諦めて、肉弾戦を仕掛けてくる。
「切り替えの早い奴だ――」
その爪と牙と、巨体を生かした体当たりで、俺を襲い続ける。
敵を殺す事しか考えていない、野生全開のなりふり構わぬ攻撃――
俺はそれを躱し、いなし、受け止めて防ぐ。
敵の攻撃を無力化しながら、反撃を行う。
全身を闘気で覆って、拳で敵にダメージを与え、体力を削っていく。
闘気で強度を上昇させていても、攻撃を喰らえばダメージは入る。
命を削り合う泥仕合――
魔法を使えばもっとスマートに勝てただろうが、今は拳で戦いたかった。
そんな気分だったからだ。
俺がクマの魔物の命を絶つまで、殺し合いは続いた。
仕留めたクマの魔物を背負い、俺は村へと帰還した。
クマの魔物の毛皮は高く売れるし、肉も食べられる。
この辺りでは、クマの肉を野菜と一緒に煮込んで食べる。
俺は相変わらず、狩った魔物を村に納めて、住処と食事にありついている。
俺の生活は代り映えは無いが、村は変化し続ける。
村長が引退して、村長の娘が後を継いだ。
あの小さかった少女が、村の長になった。
昔から聡明な娘だったし、村人たちからも慕われていたので、周囲の助けもありよく村を治めている。
出会った頃はクソガキだったドウイチも、すでに三十半ばになっている。
結婚して、子供も三人……。
一番上の子供は木刀を持って、剣の練習に精を出すようになった。
ドウイチ以外にも、俺と同じ世代の村の住人が所帯を持ち、子供もいる。
竜として百年を生きた時は感じなかったが、この村で人間として過ごしていると、月日の経つのは早いと感じる。
毎日、同じことの繰り返しで――
代り映えの無い毎日を、過ごしているだけなのになぁ……。
いつの間にか、こんなに変化している。
俺自身も年齢を重ねて、肉体が変化していっている。
世代が移り変わっていくのを眺めていると、歳月の重みを実感する。
俺は少しばかり、センチメンタルな気分で剣を振るった。
この村が超魔人の襲撃を受けてから、三十年以上が経過した。
あの出来事が、遠い昔の事の様だ。
前村長が死んだ。
俺が竜だった時に助けて、長年村長としてこの村をまとめてきた彼女だ。
軽い病気にかかってからの、衰弱死だった。
この国の平均寿命よりは、ずっと長生きだった。
寿命で死んだといっても、差し支えないだろう。
現在村長を務めている娘にも、子供が出来て育っている。
将来はその子たちの誰かが、後を継ぐのだろう。
俺はと言えば、相変わらず剣の稽古に明け暮れている。
毎日お気に入りの滝の側まで出かけては、素振りを続ける。
――だが、この日は村から出ることは無かった。
村から出ずに、道場へと向かった。
朝から嫌な予感を感じたからだ。
水の中に浸かり、身体が重くなるような感じがする。
あの時に感じた、不吉が肌にまとわりつくような――
あの予感だ。
朝食を食べる。
今日は、滝に行くのを取りやめた。
珍しく俺が顔を出したので、道場に居た村人たちは少しざわついた。
剣を教えてくれと言ってくる奴もいたので、そいつらの素振りを見る。
アドバイスをしてやっていると、『あの気配』が接近してくるのを感じた。
道場を見渡すと、何人かの手練れも、気配に気づいているようだった。
――俺だけじゃなく、皆それぞれ成長したな。
気配は空を飛んで、こちらに迫ってくる。
ちょうど道場の真上で止まると、急降下してきた。
地面に激突する寸前に、ふわりと浮かんで音もなく降り立つ。
「いつか、また来るだろうとは、思っていた……」
俺は腰に差した鞘から、刀を引き抜き――
片腕で、刀を構える。
そして……。
道場の入り口に立つ、二体の超魔人にクレームを入れる。
「――もっと、早く来いよ」
――今日は、狩りの日だ。
強力なモンスターを求めて、村からかなり離れた場所まで来ている。
渓谷の上部に登って、敵を探す。
腕試しと修業も兼ねて、遠征している。
俺の手には、木の棒がある。
ここに来るまでの道すがらに、いい感じの枝を見かけたので、それを木から切り取って持ってきた。
「お前、今から聖剣エクスカリバーな!!」
俺はそう言って、木の棒をブンブンと振り回す。
異世界に転生し、竜として生まれた俺は、魔法で人間の身体に変化している。
この姿で、かなりの年月を過ごしてきた。
人間として年を取り、人間として成長し、老化している。
今の俺の肉体年齢は、三十半ばを過ぎくらいだろう。
『聖剣エクスカリバー』で遊んでいて、許される年齢ではない。
俺もさすがに、村の中でこんな真似はしない。
人が誰も見ていないから、出来ることだ。
人以外のギャラリーはいるが、クマなので問題は無いだろう。
正確にはクマの魔物。
俺の体積の、十倍以上はある化け物だ。
俺はクマの魔物に向かって、木の棒を構える。
目の前の魔物は、聖剣を構えた俺を敵と認めたようだ。
闇雲に襲い掛かって来ることもなく、静かに臨戦態勢を取る。
クマの魔物はその身体を、魔法で作った岩で覆う。
急所を守る鎧か……。
さらに、自身の周囲の空間に岩石を浮かべる。
こっちは攻撃用。
熊の魔物は、浮かべた岩石を――
こちらに向かって射出してきた。
ドッ!! ドッ!! ドオッ!!
高速で飛んでくる敵の魔法攻撃を躱しながら、俺は敵に近づいて行く。
前に向かって進み、剣の間合いまで接近した。
俺が肉薄すると、クマの魔物は口を開けて、噛み付こうとしてきた。
俺はスピードを上げて、その攻撃を避ける。
避けた先にあったクマの横腹に、聖剣エクスカリバーで斬りつける。
ザシュッ!!!!!
クマの魔物は魔法で作った岩の鎧で、その身を護っていた。
しかし、俺の聖剣には、闘気が宿っている。
闘気は木の棒の強度を上昇させ、岩の防御を打ち砕き、腹の肉を深々と抉る。
抉った肉から、血が滴る。
俺はそこでエクスカリバーを手放し、数歩後ろに下がる。
態勢を整えて、右腕に闘気を込める。
「ぐぉおおおおっっ!!!!!!」
クマの魔物は腹を斬られた痛みで、叫び声を上げる。
こちらを見て、俺を威嚇するように睨んできた。
俺は構わずに、片腕でクマの腹を殴打する。
闘気を込めた俺の拳は、岩の鎧を打ち砕き、クマの肉を抉る。
クマの魔物は魔法で俺を拘束しようと、魔法の構築を開始する。
土魔法の構成。
岩で俺の動きを封じる気のようだ。
俺は闘気を込めた拳で、それを破壊する。
魔法の発動を阻害されたクマの魔物は、魔法の使用を諦めて、肉弾戦を仕掛けてくる。
「切り替えの早い奴だ――」
その爪と牙と、巨体を生かした体当たりで、俺を襲い続ける。
敵を殺す事しか考えていない、野生全開のなりふり構わぬ攻撃――
俺はそれを躱し、いなし、受け止めて防ぐ。
敵の攻撃を無力化しながら、反撃を行う。
全身を闘気で覆って、拳で敵にダメージを与え、体力を削っていく。
闘気で強度を上昇させていても、攻撃を喰らえばダメージは入る。
命を削り合う泥仕合――
魔法を使えばもっとスマートに勝てただろうが、今は拳で戦いたかった。
そんな気分だったからだ。
俺がクマの魔物の命を絶つまで、殺し合いは続いた。
仕留めたクマの魔物を背負い、俺は村へと帰還した。
クマの魔物の毛皮は高く売れるし、肉も食べられる。
この辺りでは、クマの肉を野菜と一緒に煮込んで食べる。
俺は相変わらず、狩った魔物を村に納めて、住処と食事にありついている。
俺の生活は代り映えは無いが、村は変化し続ける。
村長が引退して、村長の娘が後を継いだ。
あの小さかった少女が、村の長になった。
昔から聡明な娘だったし、村人たちからも慕われていたので、周囲の助けもありよく村を治めている。
出会った頃はクソガキだったドウイチも、すでに三十半ばになっている。
結婚して、子供も三人……。
一番上の子供は木刀を持って、剣の練習に精を出すようになった。
ドウイチ以外にも、俺と同じ世代の村の住人が所帯を持ち、子供もいる。
竜として百年を生きた時は感じなかったが、この村で人間として過ごしていると、月日の経つのは早いと感じる。
毎日、同じことの繰り返しで――
代り映えの無い毎日を、過ごしているだけなのになぁ……。
いつの間にか、こんなに変化している。
俺自身も年齢を重ねて、肉体が変化していっている。
世代が移り変わっていくのを眺めていると、歳月の重みを実感する。
俺は少しばかり、センチメンタルな気分で剣を振るった。
この村が超魔人の襲撃を受けてから、三十年以上が経過した。
あの出来事が、遠い昔の事の様だ。
前村長が死んだ。
俺が竜だった時に助けて、長年村長としてこの村をまとめてきた彼女だ。
軽い病気にかかってからの、衰弱死だった。
この国の平均寿命よりは、ずっと長生きだった。
寿命で死んだといっても、差し支えないだろう。
現在村長を務めている娘にも、子供が出来て育っている。
将来はその子たちの誰かが、後を継ぐのだろう。
俺はと言えば、相変わらず剣の稽古に明け暮れている。
毎日お気に入りの滝の側まで出かけては、素振りを続ける。
――だが、この日は村から出ることは無かった。
村から出ずに、道場へと向かった。
朝から嫌な予感を感じたからだ。
水の中に浸かり、身体が重くなるような感じがする。
あの時に感じた、不吉が肌にまとわりつくような――
あの予感だ。
朝食を食べる。
今日は、滝に行くのを取りやめた。
珍しく俺が顔を出したので、道場に居た村人たちは少しざわついた。
剣を教えてくれと言ってくる奴もいたので、そいつらの素振りを見る。
アドバイスをしてやっていると、『あの気配』が接近してくるのを感じた。
道場を見渡すと、何人かの手練れも、気配に気づいているようだった。
――俺だけじゃなく、皆それぞれ成長したな。
気配は空を飛んで、こちらに迫ってくる。
ちょうど道場の真上で止まると、急降下してきた。
地面に激突する寸前に、ふわりと浮かんで音もなく降り立つ。
「いつか、また来るだろうとは、思っていた……」
俺は腰に差した鞘から、刀を引き抜き――
片腕で、刀を構える。
そして……。
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「――もっと、早く来いよ」
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