上 下
11 / 32
渓谷の翼竜

第11話 性格

しおりを挟む
 村の討伐隊が、街道を進む。

 俺はその後を、少し離れて付いて行く。

 剣術の手練れで構成された討伐隊が、猿の魔物の生息域へと近付く。
 すると、こちらの接近に気付いた敵勢力から、攻撃を仕掛けてきた。





 猿の魔物の数匹が、縄張りへの侵入者を感知すると、キィーキィーという甲高い警告音でこちらを威嚇しつつ、仲間に敵の接近を知らせる。

 警告を受けた敵集団は、戦闘態勢に移行する。



 敵部隊は森に潜み、こちらを取り囲む。
 投石部隊がすばやく木の上に登るのが、気配で分かった。
 

 ――ヒュッ!! ヒュッ!! ヒュッ!!


 まずは石を投げつけてくる。

 討伐隊は石の軌道を見極めて、小楯でガードする。


 俺は討伐隊から少し離れた位置で、飛んでくる石を刀で斬って防ぐ――
 盾とか、装備してないからな。


 遠距離攻撃が一段落すると、山の中からサルの群れが突撃してきた。

 三方向からそれぞれ約二十の群れが、討伐隊を囲むように現れる。



 猿の魔物は木の上から石を投げつける投石隊と、こちらに接近して、爪や牙で攻撃してくる近接部隊を組織していた。

 魔物の分際で、ちゃんと役割分担が出来ている。




 ザシュッ!!!

 俺は自分に接近する猿の魔物を、順番に切り伏せていく。
 刀を振るい、猿の首、手足、胴……。

 自分の動きが止まらない様に、間合いに入った敵に致命傷を与えていく。
 動きを止めないことが最優先で、止めを刺すのは後回し――

 
 周囲の敵を行動不能にした俺に、一斉に石が投げつけられる。
 投石攻撃の間は、近接部隊は近寄ってこない。
 
 石を避けることに専念する。


 投石が途切れると、近接部隊が突撃を再開する。

 俺がそちらに意識を向けると、死角から、気配を隠した敵が接近――
 良い連携だ、が……。

 俺は敵の足音を拾い、気配で存在に気付いている。 



 不用意に近づいてきた敵の、身体のどこかを振り向きざまに斬りつける。

 ザシュッ――


 どこを斬ったのかを、確かめる余裕はない。
 近接部隊が、迫っていた。


 ……。
 …………。
 十数分の攻防で、俺は猿の魔物を三十匹以上は仕留めた。

 




「他の奴らは、どうかな――?」

 周囲の魔物を、あらかた倒し終えた。
 余裕の出来た俺は、他の討伐隊の様子を確認する。


 討伐隊の周囲には、致命傷を受けて倒れている猿の魔物が、多数転がっている。

 討伐隊の側も、倒れている人間が数名見える。


 死人を蘇らせることは出来ないが――
 傷を負って倒れているだけであれば、回復は可能だ。

「死んでなきゃ、良いけどな……」
 

 早く治してやった方が、生存率は上がる。
 だが今は回復よりも、敵の殲滅の方を優先すべきだろう。 


 治している隙に、攻撃を受ければ対処しきれない。
 楽に倒しているように見えるかもしれないが、少しでも気を抜けば不覚を取る。

 一撃でも食らえば大怪我だ。
 


 敵の身体能力は高い。
 油断があれば、こちらが殺される。


 敵の第二陣が、俺に向かってくる。
 高速で飛来する石を、軽く身のこなしで避ける。

 避け終えて、体勢が崩れたところに――

 敵の群れが、押し寄せてきた。

 



 俺は討伐隊から離れ、一人で複数を相手にしていた。
 他の討伐隊は五人一組で互いの背中を守り、猿の魔物を迎え撃っている。


 それぞれ刀を装備して、腕に小楯を付けている。

 鎧は粗末な革鎧を着込んでいた。


 敵の投石や牙や爪の攻撃を、盾と鎧で防ぎつつ、刀で敵を切り捨てている。
 敵の攻撃にやられて倒れている者が、少し増えている。

 
 俺が受け持っていた敵は、殲滅済みだ。

 治癒能力促進の魔法を遠距離から倒れている者達にかけながら、俺はまだ戦っている者達の動きを見物させて貰う。



 身体捌きや、剣の振り方、敵との間合いの取り方――
 討伐隊の力量には、かなり開きがある。


 強い奴の戦いを見ることにする。
 一番強いのは師匠だ。

 師匠の戦いは参考になる。
 この機会にじっくりと観察して、技を盗ませて貰おう。





 俺が戦いを観察し出してから、五分後――

 敵の投石部隊は玉切れになると、木から降りて近接部隊に加わっていた。


 もう、向かってくる敵はいない。

 討伐隊は敵を、全て倒し終えた。


 ――良い修行になったな。
 俺がそんなことを考えていると、不機嫌そうな怒鳴り声が聞こえて来る。






「オイッ、お前ッ! なに、ボーとしてるんだ。敵と戦いもしないで、ずっと見てるだけだったろ! ったく、何しに来たんだよ。この役立たずがッ!!」


 見当はずれな文句を付けてきたのは、村長のドラ息子のドウイチだった。

 あいつは元々、討伐隊のメンバーでは無かった。
 十二歳未満の子供は、最初から対象外だったのだ。


 ドウイチは『実力は大人にも引けを足らない。それにあいつよりも年上だ。付いていく――』と俺を指さして主張し、強引に付いて来ていた。

 偉そうなことを言うだけあって、ドウイチは最後まで倒れずに戦っていた。



 まあ、そこは立派だと思うよ。

 大人に交じって戦って、遜色なかった。


 だが自分の戦闘で、手一杯だったのだろう。
 俺の活躍と、戦果を見ていないようだ。


 俺は奴の三倍以上は、敵を倒している。

 生意気な糞餓鬼には、『解らせ』が必要だな。

 

 俺は刀に風魔法を纏わせて、剣を振るってそれを放つ。
 風魔法を斬撃として、敵に放つ『空牙』――

 竜の姿の時は、爪を振るって使っていた魔法だ。
 

 ヒュゴォォオオ!!!



 ザシュッ!!!!!

 飛ぶ斬撃は、まっすぐにターゲットへと到達して――
 そいつの身体を、縦に切り裂いた。


 俺の風魔法の刃は、気配を消してドウイチの背後に忍び寄っていた、猿の魔物の身体を半分に切り裂く。




 ドォオンンンン!!!!

 敵の群れの中でも、ひときわ大きな個体が地面に倒れ地響きが起こる。


 俺はたて続けに空牙を放ち、気配を消して接近していた、残りの三匹の猿の魔物を始末した。




 ――魔物の中には、気配を消すのが上手い奴がたまにいる。

 見つけにくいが、感覚器官を魔法で強化できる俺なら、発見は可能だ。
 姿を隠す魔法の精度は個体差があるので、レベルの高い使い手は見つけにくい。

 でも、頑張れば探し出せる。



 ドウイチの奴は、後ろを振り返って驚いていた。
 
「なッ!! ――いつの、間に……」




 馬鹿がアホ面を下げて、驚いていやがる。

「おいおい、何をボーっとしてんだよ。敵がまだ残ってるってのに、油断してんじゃねーよ。クソガキ! お前さ、俺が助けてやらなかったら、死ぬとこだったんだぞ。無理やり付いてきておいて、足引っ張ってんじゃねーぞ。この、役立たず!!」

 がははははっ!!
 
 俺は勝ち誇って笑う。

 クソガキは、凄い形相で睨みつけてくる。
 ――だが、何も言い返せない。

 怒りでプルプルと震えている。



 ――ふう。
 制裁完了。

 俺はひとしきり笑った後で、怪我人の治療に入った。


 ……それにしても、俺の性格は前世から、かなり変ったように思う。

 前世の俺がどんなだったかは、よく覚えていない。

 だが、こうでは無かった。
 


 そう、確か……。

 学校に通っていた時なんかは――

 誰かと張り合っったり、罵り合ったりするのではなく、誰とでも仲良くして、クラスで争いが起きない様に調整する。

 ……そんな奴だったはずだ。
 

 竜に生まれ変わって、百年以上も生きて来た。
 性格も変わるよな――

 それに、この村での俺は『余所者』でしかない。
 集団の中での、立ち位置が違う。

 人との関わり方も変わるか――



 でも、まあ……。

 人との付き合い方が変わっても、魂までは変わらない。
 俺はしつこく睨みつけてくるドウイチを無視して、怪我人の治療を続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...