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冒険者編

第32話 壁外地区の教会 A

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 俺達六人は農場を出発して街道を北へと進み、サイザルの町へと辿り着いた。

 サイザルの町は、魔物の侵入を阻むための壁で周囲を囲んでいる。
 壁は石造りの、立派なものだ。
 農場の貧相な木の柵とは、大違いだ。

 さて、とりあえず町の中に入るかと、門の所へ向かう。
 しかし、俺たちは門から、町の中へと入ることは出来なかった。

 門番が言うには、町の中に入るには、身分証を提示する必要があるらしい。

 身分証……
 そんなものはない。

 盲点だった。
 いきなり躓くとは──



「持ってないんだったら、壁外地区にある教会で発行して貰いなさい」

 親切な門番から、助言して貰えた。
 俺たちのような、放浪者は扱い慣れているのかもしれない。

「そういえば、イルギットは持ってないのか? 身分証──」

「あったけど、あの瓦礫の下から探すのは無理よ。再発行して貰った方がいいわ」

 それもそうか。
 イルギットも農場からほとんど出たことが無いし、外では常に大人と一緒だった。
 外での知識は、俺たちと大差ない。



 というわけで、俺たち六人は町を囲っている壁伝いに『壁外地区』があるという町の北側へと移動する。

 魔物を寄せ付けない女神の加護の効果は、壁の中だけではなく、その周囲にも影響を及ぼす。
 そのため村よりも大きな町では、壁の周囲にも住居がある。
 住民税も取られないので、町の中に住めない貧民や低ランク冒険者が、壁外集落を作っているそうだ。

 要するに、スラム街ということだろう。




 サイザルの場合は、町の北の門を中心に、扇状に壁外地区が広がっていた。
 教会は町の中にもあるが、壁の外にも低所得者向けの施設として設置されている。

 壁外地区の中心部の建物は、石造りで頑丈にできているものが多い。
 モンスターが出現するリスクがあるだけに、頑丈に作ってあるのだろう。

 だが中心から離れるにしたがって、造りが雑に安っぽくなっていき、一番端の方には、テントを張って暮らしているのもかなりいる。

 周辺の農場から物資が集まる流通拠点のサイザル。
 人口は、壁の中に三千人。
 壁外に、ざっと五百人といったところだそうだ。

 流通を担う冒険者や商会の人間が多いので、定住者はそれほど多くはないそうだ。



 俺たちはまず、門の側にある立派な建物へと入る。
 女神メルドリアスを、神と崇める教会だ。

 俺たちは碌に風呂に入っていないので、見た目は薄汚れていて貧相だし、自分たちでは気にならないが、匂いも相当だと思う。

 邪険にされるかもと心配したが、意外にも歓迎された。
 教会は冒険者志望の人間に対して好意的だった。


 この世界の教会は、女神の意向に従い、人類の敵である魔物と戦おうとする冒険者を、積極的に支援する傾向にあるようだ。
 反対に貴族は、平民が力を持つことを快く思わない。
 力を付けた冒険者を自分の陣営に取り込むことはあっても、積極的に育てることは無いそうだ。

 俺はずっと自分の力を、農場主に知られない様に気を配ってきたが──
 それで正解だったようだ。



 俺たちは対応してくれた教会の神父に頼んで、身分証を発行して貰うことにした。
 身分証の発行にかかる手数料は、一人につき銀貨五枚だった。

 金が足りなければ、仕事を紹介すると言われたが、その必要はないので丁寧に断る。俺達六人の共有財産は、金貨二百枚以上ある。

 確か教会で、金を下ろせたはずだ。
 まずは、金を下ろそう。

 教会の教壇の横に、魔道具が設置されている。

「この神具から硬貨を引き出すことが出来ます。お金を引き出したい時には、教会を訪ねなさい」

 その魔道具の球体部分に手を触れて、引き出したい金額を告げると硬貨が出現するらしい。
 俺はとりあえず、六人分の手数料分の金貨三枚を引き出して、神父に支払った。

 これから、何かと買い物もしなければいけない。
 その分の金も、ついでに引き出しておくことにする。

 店によって使用できる硬貨の種類が決まっていたりするそうで、銅貨商売をしている露天に金貨を持ち込んで、断られるケースもあったりするそうだ。

 なので、引き出すのは金貨二十枚、銀貨五十枚、銅貨二百枚にしておく。



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