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冒険者編
第32話 壁外地区の教会 B
しおりを挟む当面の資金は、引き出せた。
次は、身分証だ。
身分証は魔道具の球体部分に手を触れると、自動的に生み出された。
その時に神父が神に祈りを捧げていたが、たぶんそれが無くても発行されていたと思う。
手に取ってみると、自分の名前が書かれているだけの白色のカードだった。
こんなものが身分証になるのかと不思議に思っていると、神父が説明してくれた。
「このカードの名前の書かれている面が表で、平民や自由民の者は白、王族は黒。身分が上がるにしたがって徐々に色は黒に近づいていきます。そして裏面の色は、善行を積んだ者は白、悪行を重ねた者は赤に染まっていくのです。」
「ああ、それで身分証になるのか──」
神父の説明では、人を助けたりモンスターを倒すなどの善行を積むと得られる『聖科ポイント』と、物を盗んだり、人を殺したりして課される『罪科ポイント』を差し引きして、マイナスになるとカードが徐々に赤く染まっていくのだそうだ。
人の行動の善悪の評価は、女神メルドリアスが行っている。
何が罪になり罪科ポイントが溜まるのかは、この世界で生きるうえでかなり重要なため、教会を筆頭に権力者は情報を蓄積している。
例えば、人殺しは基本は悪とされる。
かなりの罪科ポイントが加算されるが、双方が合意した決闘の結果であったり、盗賊に襲われて返り討ちにした、などの場合であれば罪に問われなかったりする。
それらのケースでも決闘の条件が公平か否かや、パンを盗まれたからといって相手を殺したりすれば、罪に問われることになるそうだ。
俺の場合は、ヤバそうなときは危険感知が知らせてくれる。
発行された身分証の色も白だ。
なのでそこまで気にしなくてもいい、とは思うもののやはり気にはなるので自己鑑定で、罪科と聖科を確認してみる。
*************************
名前 ユージ 身分 自由民
聖科ポイント 006219
罪科ポイント 000390
*************************
鑑定で確認してみたところ、俺の身分は自由民らしい、労働奴隷を辞めて定住していないので、そう分類されているのだろう。
今までの二年間でかなりの魔物を討伐してきたこともあり、聖科ポイントは結構溜まっている。
これを罪科ポイントが越えると、徐々に犯罪者扱いされるようになり、ポイントの多さによって懸賞金が付き、賞金稼ぎに狙われるようになるらしい。
まだまだ余裕はあるが、気を付けておくに越したことはない。
俺は情報収集も兼ねて、神父に話しかける。
教会には他にもなにか、お役立ち機能はあるかな──
「これから冒険者としてやっていくうえで、身につけておいた方がいい事とかはありますか」
「余裕があるようでしたら、ぜひスキルを獲得することをお勧めします」
ああ、そうだ。
教会でスキルを取得できるんだったな。
教会に金貨一枚を寄付すれば、聖職者がスキルの習得を女神メルドリアスに打診してくれるらしい。
対象者がこれまで積んだ経験や、今後の方向性を踏まえて、スキル習得に必要な魔石を用意すれば、女神から新たにスキルを授けられる。
例えば料理人であれば、包丁の切れ味を上げることが出来るスキルや、レシピを記憶できるスキル、食材の鑑定スキル、味を正確に分析できるスキル、などを授けられるという。
お布施と魔石を支払う必要があるが、やってみる価値はある。
「実はこう見えて俺、結構魔石を沢山持ってるんですよ。神父様、おすすめのスキルってありますか?」
「残念ですが、スキルというものは女神様が授けて下さるもので、こちらから選ぶということは出来ないのですよ」
複数の選択肢の中から、選べるわけではないようだ。
──こちらで、スキルの選択は出来ない。
当然、ハズレスキルを与えられる可能性もある。
当たりハズレのあるスキルガチャを、一万円と魔石で引けるようなものだ。
魔石の料金って、いくらくらいなんだ?
神父は値踏みするように俺を見ながら、アドバイスをしてくれた。
「魔石はモンスターを倒せば手に入りますし、魔石屋に行けば売っています。相場は変動しますが、売る場合はおおよそ、魔石値1につき銅貨10枚、買う場合はその十倍位になります」
魔石の魔石値は、鑑定屋で調べて貰うのが一般的らしい。
例えば魔石値二十の『スライムの魔石』を店に売る場合は二百円、買う場合は二千円かかる。
買う場合は十倍の値段になるというのは、ぼったくりのような気もするが、それがこの世界の相場なので従うしかない。
俺の場合は、モンスターを倒して手に入れるので、あまり関係ないか──
しかし魔石を『買う』場合を考えると、魔石値1につき約百円──
とすると、魔石値1000で十万円、魔石値10000で百万円必要になる。
スキルを一つ授けて貰うのに必要な魔石値は、平均で10000は必要らしい。
魔石を買う場合で考えれば、スキルひとつ百万だ。
スキルは本当に『余裕があれば』取得を検討するもののようだ。
「今日はありがとうございました。では魔石を用意してからまた伺います」
俺は神父にお礼を言ってから、教会を後にした。
「身分証も手に入れたし、やっと町の中に入るれるわね」
「服とか買えるかな? あっ、それよりも先に体を洗いたい」
「今までは気にならなかったけど、町を見ると色々したいこと出てくるわね。おいしいものも食べたいわ」
アカネルとモミジリが楽しそうに話をしている。
水を差すようで悪いが──
「二人とも金はどうするんだ? まずはしっかり稼げるようにならないとな」
「あんた、さっきお金を下ろしていたじゃない?」
「いや、金はあるけどさ──ちゃんと稼ぐ手段を確保して、収入に応じて使い方を決めるべきだろ」
「あー、まあ……」
「そう、よね……」
二人ともしょんぼりしてしまったが、最初から甘やかすのは良くない。
とりあえずは──
俺たちはこの壁外地区で、宿を取ることにした。
まずは活動拠点の確保である。
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