56 / 83
第27話 ②
しおりを挟む
「この重要な仕事を他の店に取られるわけにはいかん!! その指名された店はわかっているのか?!」
「……いえ、それはまだ……」
「チッ!! その店の名前を調べろ!! わかり次第すぐ報告するんだ!!」
「は、はいっ!!」
バラバノフから命令を受けた従業員が慌てて部屋から出ていった。きっとすぐに情報を入手して戻ってくるだろう。
「くそっ……! どこの店かわかったら流通ルートを遮断してやる……!」
バラバノフは完全に逆上していた。そして受注した店に圧力を掛けて、辞退させようと企んだのだ。
それだけ、今回の婚約式は大きなビジネスチャンスなのだ。この絶好の機会を逃がすわけにはいかない、とバラバノフは考えた。
この国で売られている花の殆どが輸入に頼っている。それはアレリード王国の近くに魔物の住む大森林があるため、農作物を生産出来る農地が不足しているからだ。
だからその店の生花の輸入ルートを断ち切れば、たちまち立ち行かなくなり、店を畳むしかなくなるだろう。
それからしばらくして、婚約式を担当する店が判明した。
「店の名前は『ブルーメ』と言いまして、年若い女店主が営む小さい店で、王都の外れにあるとのことです」
「うーむ……。どうしてそんな店が選ばれたんだ? 全く理解できん」
バラバノフは不思議に思いながらも、そんな小さい店なら少しの圧力ですぐに潰れるだろうと考えていたが、その予想は見事に外れることとなる。
何故なら、その小さい生花店『ブルーメ』は、どこからも花を仕入れていなかったからだ。
「な、なぜ……! この店は一体どこから花を……っ?」
「それが、どうやら店の裏で花を生産しているらしい、と報告が」
「何っ?!」
バラバノフは部下からの返答に驚いた。
いくら小さい店舗とは言え、店を運営するならばある程度の品種が必要となる。しかし王都郊外とは言え、そんな場所に花を生産できるような広い土地があるとは聞いたことがない。
生花店の店長代理を務めるバラバノフが、その情報を知らないはずないのだ。
「種や球根などは商業ギルドから購入しているようですが、ギルドに圧力を掛ける訳にもいきませんし」
「くそ……っ!」
商業ギルドは公平性を重んじる。大きな商会がギルドに圧力を掛けようとして、返り討ちに合ったことが過去にあったという。
それに『プフランツェ』も商業ギルドを利用しているので、関係を悪化させるのは得策ではないのだ。
「その花を生産している場所を調べることは出来るか?」
「……それが、何故かあの区画一帯、警備が強化されているようで……怪しい行動をとるとすぐ衛兵がやってくるそうです」
「どういうことだ……? これは偶然か……?」
バラバノフは腕を組んで考える。このタイミングで警備が強化されていることと、例の店が式典の花を受注したことに関係があるのか、と。
「警備が強化されたのは最近か?」
「いえ、二ヶ月ぐらい前からのようです」
「……ふむ。なら気のせいか……」
一瞬、例の店を守るために警備が強化されたのかと思ったバラバノフであったが、どうやらそれは違うらしい。
しかし警備が強化されている以上、下手に例の店に手を出したり調査するのはやめておいた方がいいだろう。捕まった者から自分たちのことがバレたらかなりヤバい。目をつけられて細かく捜査されては困るのだ。
業腹だが、今回の受注は諦めるしか無いとバラバノフは判断した。
「全く……運が良い店だ」
バラバノフはそう呟くと、上司──店長にどう説明するべきか頭を悩ませるのだった。
「……いえ、それはまだ……」
「チッ!! その店の名前を調べろ!! わかり次第すぐ報告するんだ!!」
「は、はいっ!!」
バラバノフから命令を受けた従業員が慌てて部屋から出ていった。きっとすぐに情報を入手して戻ってくるだろう。
「くそっ……! どこの店かわかったら流通ルートを遮断してやる……!」
バラバノフは完全に逆上していた。そして受注した店に圧力を掛けて、辞退させようと企んだのだ。
それだけ、今回の婚約式は大きなビジネスチャンスなのだ。この絶好の機会を逃がすわけにはいかない、とバラバノフは考えた。
この国で売られている花の殆どが輸入に頼っている。それはアレリード王国の近くに魔物の住む大森林があるため、農作物を生産出来る農地が不足しているからだ。
だからその店の生花の輸入ルートを断ち切れば、たちまち立ち行かなくなり、店を畳むしかなくなるだろう。
それからしばらくして、婚約式を担当する店が判明した。
「店の名前は『ブルーメ』と言いまして、年若い女店主が営む小さい店で、王都の外れにあるとのことです」
「うーむ……。どうしてそんな店が選ばれたんだ? 全く理解できん」
バラバノフは不思議に思いながらも、そんな小さい店なら少しの圧力ですぐに潰れるだろうと考えていたが、その予想は見事に外れることとなる。
何故なら、その小さい生花店『ブルーメ』は、どこからも花を仕入れていなかったからだ。
「な、なぜ……! この店は一体どこから花を……っ?」
「それが、どうやら店の裏で花を生産しているらしい、と報告が」
「何っ?!」
バラバノフは部下からの返答に驚いた。
いくら小さい店舗とは言え、店を運営するならばある程度の品種が必要となる。しかし王都郊外とは言え、そんな場所に花を生産できるような広い土地があるとは聞いたことがない。
生花店の店長代理を務めるバラバノフが、その情報を知らないはずないのだ。
「種や球根などは商業ギルドから購入しているようですが、ギルドに圧力を掛ける訳にもいきませんし」
「くそ……っ!」
商業ギルドは公平性を重んじる。大きな商会がギルドに圧力を掛けようとして、返り討ちに合ったことが過去にあったという。
それに『プフランツェ』も商業ギルドを利用しているので、関係を悪化させるのは得策ではないのだ。
「その花を生産している場所を調べることは出来るか?」
「……それが、何故かあの区画一帯、警備が強化されているようで……怪しい行動をとるとすぐ衛兵がやってくるそうです」
「どういうことだ……? これは偶然か……?」
バラバノフは腕を組んで考える。このタイミングで警備が強化されていることと、例の店が式典の花を受注したことに関係があるのか、と。
「警備が強化されたのは最近か?」
「いえ、二ヶ月ぐらい前からのようです」
「……ふむ。なら気のせいか……」
一瞬、例の店を守るために警備が強化されたのかと思ったバラバノフであったが、どうやらそれは違うらしい。
しかし警備が強化されている以上、下手に例の店に手を出したり調査するのはやめておいた方がいいだろう。捕まった者から自分たちのことがバレたらかなりヤバい。目をつけられて細かく捜査されては困るのだ。
業腹だが、今回の受注は諦めるしか無いとバラバノフは判断した。
「全く……運が良い店だ」
バラバノフはそう呟くと、上司──店長にどう説明するべきか頭を悩ませるのだった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,878
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる