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第26話 ②

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「アンさん、もしお時間がありましたらテラスでお茶をしませんか?」

 私の居た堪れない気持ちを察したのか、フィーネちゃんが提案してくれる。

(もうフィーネちゃんってばなんて良い子なの……っ!!)

 私はフィーネちゃんのために、プレッツヒェンを多めに用意しようと心に決めた。

「そうね! そこでデザートを頂きましょう!」

「そうしましょう、そうしましょう!」

 雰囲気を切り替えるかのように、お姉様方もフィーネちゃんの提案に乗ってくれた。

「あ、俺も……」

「あら、ヴェルナーは駄目よ!」

「帰ってきたばかりでしょ! 早く着替えていらっしゃい!」

「そうそう、まずは汗を流さないと!」

「汗臭い男は敬遠されるわよ~~!」

 一緒に来ようとしたヴェルナーさんをお姉様方が追い返してしまう。こうしてみるとやっぱりお姉様方は強いなぁ、と感心する。

 そうして伯爵様に挨拶をした私はお姉様方とテラスに移動し、素敵な庭園を眺めながらお茶とデザートを頂いた。
 てっきりヴェルナーさんのことでからかわれるかと身構えていたけれど、お姉様方は私のお店や仕事のことに興味があるらしく、色々と質問に答えている内に結構な時間になってしまった。

「あ、そろそろお暇させていただきます。明日の準備もしないといけませんので」

「あら、もうそんな時間?」

「まあ、本当だわ。引き止めてごめんなさいね」

「これからお仕事だなんて……。じゃあ、お着替えをしなくちゃね」

「帰りは弟に送らせるから~~安心して~~」

「アンさんにお泊りしていただきたかったのに……残念ですわ!」

「お泊りは流石に出来ないかな。ごめんね」

 私はしゅんとするフィーネちゃんを宥めた後、ドレスをお返しして着てきた服に着替え、メイクを落として貰った。せっかくのメイクだったけれど、服と顔が釣り合わなかったのだ。

「じゃあ、失礼します。たくさんご馳走していただき有難うございました」

 すっかりいつもの姿に戻り、伯爵家御一行様に見送られ、用意して貰った馬車に乗ろうと振り返ると、馬車の前にヴェルナーさんが立っていた。
 騎士団の制服とは違うラフな姿に、やっぱり格好良いな、と思う。

「アンちゃん、店まで送るよ」

「えっ、お疲れではないですか?」

「全然平気! それに姉ちゃんたちに邪魔されてアンちゃんと全然話せなかったし!」

「有難うございます、じゃあよろしくお願いします」

「喜んで」

 ヴェルナーさんはそう言うと、私に向かって手を差し伸べた。その所作があまりに自然だったので、私も自然とヴェルナーさんの手に自分の手を重ねていた。

 お貴族様から二回もエスコートされた平民なんて私ぐらいかもしれない。

 馬車の窓から伯爵家の人達に小さく手を振ってお別れする。フィーネちゃんやお姉様方だけでなく、伯爵様まで手を振ってくれて、とても温かいご家族だな、とほっこりする。

「うちの家族はすっかりアンちゃんが気に入ったみたいだね。良かったらまた遊びに来て欲しいな。あ、今度は俺が休みの日だったら嬉しいんだけど」

「私もとても楽しかったです! 皆さんとても良い人達で……。あ、プレッツヒェンをお作りする約束もしていますし、近い内にお伺いするかもです」

「え! 本当?! アンちゃんのプレッツヒェン楽しみだな! ……あ、確かお店が休みの日って水の日だったよね?」

「はい、そうですけど……」

「水の日は団長も休みだけど、俺もその日を休みにして貰えるようにするよ!」

「え、大丈夫なんですか?」

「うん、大丈夫大丈夫!」

 ジルさんは団長だから休日を自由に出来るだろうけど……。もしかしてヴェルナーさんも結構位が高いのかな? なんて思う。

「じゃあ、私も予定がわかり次第フィーネちゃんに伝言をお願いしますね」

「うん、楽しみにしてる!」

 ヴェルナーさんはニコニコと笑顔を浮かべてとても嬉しそうだ。そんなにプレッツヒェンを気に入って貰えるとは思わなかった。
 伯爵家で頂いたデザートはとても綺麗で美味しかったけど、たまには素朴な味のものが欲しくなる的なアレなのかもしれない。

「今日はいい日だなぁ。アンちゃんの着飾った姿も見られたし」

「あ、それは……その、お姉様方が頑張って下さったので……」

「うん、姉ちゃんたちも良い仕事してくれたなって。アンちゃん、とても綺麗だった」

 改めてヴェルナーさんに褒められた私は、またもや顔が赤くなってしまう。
 今まで自分の容姿に無頓着だったし、こうして褒められることなんてなかったので、どう反応すればいいのか未だによくわからない。

「……あ、有難うございます……っ」

「……でも──」

 思わず俯いてしまったものの、何とかお礼を言った私に、ヴェルナーさんが何かを言い掛けた。

 何だろう、と思いながら顔を上げた私の目に映ったのは、

「──俺はお店で働いている時のアンちゃんの笑顔が、一番綺麗だと思うよ」

 そう言って微笑みながらも、真剣な目をしたヴェルナーさんだった。
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