【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第17話 ②

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「うむ。何を贈るかは俺が決める」

 ジギスヴァルトはどうしてもアンに何かを贈りたいらしい。それが馬車からアクセサリーへと変化したところに、彼の成長が窺える。

「わかった! 術式を刻む素材はジギスヴァルトに任せるよ! 楽しみにしてる!」

「む? 何故お前が楽しみにするのかわからんが……。ああ、そろそろアンの店へ行く時間だな」

「ははは。フロレンティーナがわがままを言ってすまないね。でもジギスヴァルトに頼んで本当にいいの? 忙しかったら他の人間に頼むけど?」

「……いや、構わない。アンの店には俺が行く」

 ジギスヴァルトの言葉にヘルムフリートは「そう? 悪いなぁ」と言ってほくそ笑む。

 フロレンティーナがこれからもアンの花束を部屋に飾りたい、と言っているのは本当だが、常識的に考えて花束の注文は王国騎士団団長の仕事ではない。
 しかしヘルムフリートはフロレンティーナと協力し合い、ジギスヴァルトにわざわざおつかいを頼んだのだ。……全ては幼馴染の初恋を応援するために。

「うん! いってらっしゃい! アンさんによろしくね!」

 騎士団の団舎前でヘルムフリートと別れたジギスヴァルトは、待機させていた馬車に乗り込み、アンの店へと向かわせる。

 馬車の窓から外の景色を眺めていたジギスヴァルトは、アンの店を初めて訪れた時のことを思い出していた。




 ──3ヶ月前。

 フロレンティーナが難病に罹ったと聞かされたジギスヴァルトは『彼女を元気付けたい』と言うヘルムフリートの代わりに、贈り物を用意することになった。

 当のヘルムフリートは特効薬の開発に専念していて、研究室から出ない日がしばらく続いており、時間が出来ればフロレンティーナの面会に訪れていたため、贈り物を買いに行く余裕が全く無かったのだ。

 ジギスヴァルトが贈り物について悩んでいた時、偶然騎士団員達の会話を耳にする。その内容は、”姉に花束を贈ったらすごく喜んだ”、というものであった。

(……む。花束か……全く考えていなかったな……)

 その情報は、綺麗な物好きのフロレンティーナが喜ぶような贈り物を全く思い付かなかったジギスヴァルトに、大いなるヒントを与えてくれた。

 しかしその後すぐ、国境近くの大森林に強力な魔物が現れたと報告を受けたジギスヴァルトは、急遽遠征することになってしまう。

 魔物はS級ランクのグリフィンで、鷲の上半身に獅子の下半身の姿をした強力な魔獣だ。空の支配者と呼ばれるグリフィンは多数の国の騎士団を幾つも全滅させたと聞く。

 今回のグリフィン討伐に、精鋭と讃えられている騎士団員達も流石に死を覚悟した。
 しかしジギスヴァルトによる活躍で、獰猛な肉食獣であるグリフィンの討伐に成功する。しかもS級魔物の討伐で死者が一人も出なかったのは奇跡に近いだろう。

 そうして事後処理を終わらせ、討伐完了の報告するために王宮へ向かう馬車の中で、ジギスヴァルトは疲れを癒やしながら移りゆく景色を眺めていた。

 アレリード王国は所謂工業国で、人々に活気はあるものの、丈夫さを重視した石造りの建物が並ぶ街並みはどことなく殺風景で、ジギスヴァルトの目に世界はいつも灰色に見えていたのだ。

 馬車が王都入りし、もうすぐ王宮に到着すると思ったその時、灰色しか映していなかったジギスヴァルトの目に、突然色鮮やかな景色が飛び込んできた。

 ジギスヴァルトの目に止まったのは『ブルーメ』と看板を掲げている花屋で、小さい店のその一画が、まるで別世界のように色彩豊かに見えたのだ。

「馬車を停めてくれ」

 咄嗟に御者に声を掛け、馬車を停止させたジギスヴァルトは、まるで吸い込まれるかのように花屋へと向かった。

 ジギスヴァルトがドアを開けると、ドアベルの乾いた音が鳴り響き、店員らしき少女が「いらっしゃいませ!」と元気よく出迎えてくれる。

 少女の花が咲くような笑顔を見た瞬間、今まで灰色に見えた世界が、鮮やかに色付いていく。

 ──それは、ジギスヴァルトが生まれて初めて経験する感覚であった。




(……今思えば、あの時の感覚はアンに一目惚れしたからだったのか)

 ヘルムフリートに指摘されたジギスヴァルトは、ようやく自分がアンを好きなのだと自覚することが出来た。
 今まで恋愛経験が無いからといって、気付くのが遅すぎだろうと自分でも思う。

 ──馬車から降りたジギスヴァルトは、グリフォン討伐の時よりも緊張した面持ちで、アンの店の扉を開いたのだった。
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