【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第13話 ②

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 心臓の危機もあったけれど、私とジルさんは馬車が来るまで温室でのんびりと過ごした。
 会話はそう多くなくても、二人の間に流れる空気は柔らかで、ジルさんと一緒にお茶を飲みながら、とても穏やかな時間を過ごす。

 そうしてのんびりしていると、ジルさんを迎えに来た馬車が到着した。
 ジルさんは名残惜しそうに席を立つと、私の方をじっと見る。

「またこの温室に来てもいいだろうか?」

「……もちろんです! 休業日であればいつでもどうぞ! あ、お休みは水の日ですけど……」

 もしかすると騎士団の休日とお店の休日は合わないのでは、と思った私の懸念は一瞬で払拭された。

「休みはどうとでもなる。これからは水の日を俺の休日にしよう」

「え……あ、はい」

 ……そう言えばジルさんは騎士団の長だった。休みなんていくらでも変更出来る立場なのだ。
 とはいえ、ジルさんが温室に来るためにわざわざ休みを合わせてくれるとは思いもよらず、私の心は驚きよりも嬉しさが勝ってしまう。

「じゃあ、また来る」

 ジルさんはそう言うと颯爽と帰って行った。

 私は馬車が見えなくなるまで見送りながら、次の休みの日にはどのお菓子を作ろうかと考える。

 今までお客さんと店主という、いつ無くなるかわからない関係だったけれど、これからは茶飲み友達として新しい関係を築けるのなら、とても嬉しいと思う。




 * * * * * *




 温室でジルさんと一緒にお茶を飲んでから数日後、お店の片付けをしている私のもとへ、再びジルさんとヘルムフリートさんがやって来た。

 私は急いでお店を閉めると、二人を温室へと案内する。

「アンさんのおかげで薬が完成したよ! フロレンティーナの容態も日に日に良くなっているんだ! 本当に有難う!!」

 温室に着くやいなや、ヘルムフリートさんが私に感謝の言葉を述べた。

 ヘルムフリートさんは長年の憂いが晴れたようなスッキリとした顔に、満面の笑みを浮かべている。
 前回見られた疲労の色は全く無く、目の下の隈も綺麗サッパリ無くなっていた。

「俺からも礼を言う。アンのおかげでヘルムフリートも倒れずに済んだからな」

 あのままのペースで薬の開発を進めていたら、ヘルムフリートさんも過労で倒れていただろう、とジルさんからもお礼を言われてしまった。

「本当ですか?! 回復されて良かったです……!」

 私は心の底から喜んだ。王女殿下の快復は王国民全員が望んでいたことなのだ。

「じゃあ、近い内にお二人の婚約式が行われるんですね!」

 王女殿下のお姿を拝見したことはないけれど、「王国の華」と称されているお姫様と優しげな美男子のヘルムフリートさんが並ぶ姿は、それはもう美しい光景に違いない。

「うん、フロレンティーナが全快したらすぐにでもね。身内だけのささやかなものになるだろうけど」

 お医者様から許可が取れ次第、婚約式を行うことになるのだけれど、病み上がりとなる王女殿下を考慮して、大体的に行わず小規模なものにするのだそうだ。

「しばらくは忙しくなるだろうけどね。こうして婚約式を行えるのもアンさんがマイグレックヒェンを譲ってくれたおかげなんだ。アンさんは僕たちの恩人だよ」

「いや、そんな……! たまたま毒のない品種だったのかもしれませんし……」

 私が植えた球根は商業ギルドで購入したものとは違い、お父さんたちが旅行先から送ってくれたものだ。

「それがね、魔術師団の方でアンさんの育てたマイグレックヒェンを調べてみたんだけれど、球根はギルドが扱っているものと産地は同じでね。生体情報からみても間違いないと判断されたんだ」

 ヘルムフリートさんが言う通り、産地が同じなのであればその性質も同じものとなるはずで。
 それなのに私の育てた種に毒がないということは、育った環境の違いになるわけで。

 ──もしかして温室に施されている、お祖父ちゃんの術式が関係しているのかもしれない、と私は思い至る。
 


* * * * * *



❀花の名前解説❀
クラテール→ハーブ
カミル→カモミール
ミンゼ→ミント
クリュザンテーメ→菊
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