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第8話 ②
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「遅くなってすまない。フロレンティーナ、具合はどう?」
「あらあら、ヘルムフリートったらそんなに慌てちゃって。ほら、ジギスヴァルトも来てくれているのよ?」
「ああ、いたのかジギスヴァルト。気配がなかったから気付かなかったよ」
ヘルムフリートと呼ばれた人物はジギスヴァルトと同じぐらいの歳の青年で、騎士服を着用しているジギスヴァルトとは違い、王宮魔術師の証であるローブを纏っていた。
「魔術師団長は随分忙しいみたいだな。目の下に隈ができているぞ」
「まあ、薬を開発するまではね。しばらくこんな調子だろうさ」
ヘルムフリートが肩をすくめて苦笑いを浮かべる。ジギスヴァルトの指摘通り、彼はここしばらく徹夜続きなのだ。
「ヘルムフリート……! まさか私のために……?」
「ああ、フロレンティーナ! 気にしないで! 僕がやりたくてやっているんだから!」
ヘルムフリートはフロレンティーナの白い手を取るとギュッと握りしめる。
「……でも……。貴方まで病気になってしまったら、私……!」
「大丈夫だよ。僕は君を救うまで死なないさ……!」
突如始まった恋人同士のやり取りに、ジギスヴァルトは心の中でゲンナリする。
見ての通り、ヘルムフリートとフロレンティーナは恋人同士で、ジギスヴァルトはこの二人と幼馴染だった。
昔からこの二人はラブラブで、そんな二人を冷めた目で見るというのが定番の光景となっている。
しかし周りの人間はジギスヴァルトとフロレンティーナが恋仲なのではないかと勘違いしているので、正直迷惑ではあるものの、ジギスヴァルトもその方が虫除けになると思い、噂を放置しているのでお互い様な関係ではある。
「それに文献を調べていたら、君の病気に効くかもしれない植物を見付けてね。その植物の球根を買い占めたんだ。土魔法の使い手に栽培を頼んでいるから、すぐ芽がつくと思うよ」
「さすがヘルムフリートだわ! 大好きよ!」
再び二人がイチャイチャしだしたので、ジギスヴァルトは二人を放置して騎士団の詰所へ戻ることにする。
大理石の廊下を歩きながら、ジギスヴァルトはふとアンのことを思い出す。
イチャイチャする幼馴染の二人に当てられたのかもしれない。しかしジギスヴァルトはいつも笑顔で元気なアンの顔を思い出すと、心が温かくなるのを感じていた。
「あれ? 団長お疲れさまです。随分ご機嫌が良さそうですが、なにか良い事でもありましたか?」
アンのことを考えながら歩いていたからだろう、無表情のジギスヴァルトしか知らない団員が驚いた顔で声を掛けてきた。
「……いや、何でも無い。そう言えばお前には店を紹介して貰ったな。礼を言う」
「あ、いえ! お役に立てたのなら良かったです! とは言っても、僕もヴェルナー班長から聞いた情報なんですけど」
「……ヴェルナーか」
騎士団は団長の下に副団長が、更にその下に十二人の班長がいて、それぞれが団員達を取りまとめている。
ヴェルナーは数多い団員の中から班長に選ばれるほどなので、当然ジギスヴァルトはその存在を知っている──そして彼がアンの店の常連だということも。
ヴェルナーとアンが親しくしているところを想像したジギスヴァルトの胸に、言い知れぬ不快感が込み上がってくる。
それは相手がヴェルナーだけでなく、見知らぬ男でも同じ事だった。
(こんなにイライラするとは……どうかしているな……)
ジギスヴァルトは今まで知らなかった感情に戸惑ってしまう。しかし恋愛経験が皆無なジギスヴァルトは、イライラの原因は疲労だろうと判断する。
(こういう時はアルペンファイルヒェンでも見て和むか)
アンが手入れをしてくれたおかげで、枯れそうだったアルペンファイルヒェンはすっかり元気になった。
更にアンのアドバイス通りに、アルペンファイルヒェンを観察しながら世話をすると、綺麗な花を咲かせてくれるようになったのだ。
その出来事は、今まで魔物を討伐するか、植物を枯らすことしか出来なかったジギスヴァルトに衝撃と感動を齎すこととなった。
──それでも彼は気付かない。
無表情で無感動だった自分の、感情や心が動かされる全ての原因に、いつもアンが関わっているということを。
「あらあら、ヘルムフリートったらそんなに慌てちゃって。ほら、ジギスヴァルトも来てくれているのよ?」
「ああ、いたのかジギスヴァルト。気配がなかったから気付かなかったよ」
ヘルムフリートと呼ばれた人物はジギスヴァルトと同じぐらいの歳の青年で、騎士服を着用しているジギスヴァルトとは違い、王宮魔術師の証であるローブを纏っていた。
「魔術師団長は随分忙しいみたいだな。目の下に隈ができているぞ」
「まあ、薬を開発するまではね。しばらくこんな調子だろうさ」
ヘルムフリートが肩をすくめて苦笑いを浮かべる。ジギスヴァルトの指摘通り、彼はここしばらく徹夜続きなのだ。
「ヘルムフリート……! まさか私のために……?」
「ああ、フロレンティーナ! 気にしないで! 僕がやりたくてやっているんだから!」
ヘルムフリートはフロレンティーナの白い手を取るとギュッと握りしめる。
「……でも……。貴方まで病気になってしまったら、私……!」
「大丈夫だよ。僕は君を救うまで死なないさ……!」
突如始まった恋人同士のやり取りに、ジギスヴァルトは心の中でゲンナリする。
見ての通り、ヘルムフリートとフロレンティーナは恋人同士で、ジギスヴァルトはこの二人と幼馴染だった。
昔からこの二人はラブラブで、そんな二人を冷めた目で見るというのが定番の光景となっている。
しかし周りの人間はジギスヴァルトとフロレンティーナが恋仲なのではないかと勘違いしているので、正直迷惑ではあるものの、ジギスヴァルトもその方が虫除けになると思い、噂を放置しているのでお互い様な関係ではある。
「それに文献を調べていたら、君の病気に効くかもしれない植物を見付けてね。その植物の球根を買い占めたんだ。土魔法の使い手に栽培を頼んでいるから、すぐ芽がつくと思うよ」
「さすがヘルムフリートだわ! 大好きよ!」
再び二人がイチャイチャしだしたので、ジギスヴァルトは二人を放置して騎士団の詰所へ戻ることにする。
大理石の廊下を歩きながら、ジギスヴァルトはふとアンのことを思い出す。
イチャイチャする幼馴染の二人に当てられたのかもしれない。しかしジギスヴァルトはいつも笑顔で元気なアンの顔を思い出すと、心が温かくなるのを感じていた。
「あれ? 団長お疲れさまです。随分ご機嫌が良さそうですが、なにか良い事でもありましたか?」
アンのことを考えながら歩いていたからだろう、無表情のジギスヴァルトしか知らない団員が驚いた顔で声を掛けてきた。
「……いや、何でも無い。そう言えばお前には店を紹介して貰ったな。礼を言う」
「あ、いえ! お役に立てたのなら良かったです! とは言っても、僕もヴェルナー班長から聞いた情報なんですけど」
「……ヴェルナーか」
騎士団は団長の下に副団長が、更にその下に十二人の班長がいて、それぞれが団員達を取りまとめている。
ヴェルナーは数多い団員の中から班長に選ばれるほどなので、当然ジギスヴァルトはその存在を知っている──そして彼がアンの店の常連だということも。
ヴェルナーとアンが親しくしているところを想像したジギスヴァルトの胸に、言い知れぬ不快感が込み上がってくる。
それは相手がヴェルナーだけでなく、見知らぬ男でも同じ事だった。
(こんなにイライラするとは……どうかしているな……)
ジギスヴァルトは今まで知らなかった感情に戸惑ってしまう。しかし恋愛経験が皆無なジギスヴァルトは、イライラの原因は疲労だろうと判断する。
(こういう時はアルペンファイルヒェンでも見て和むか)
アンが手入れをしてくれたおかげで、枯れそうだったアルペンファイルヒェンはすっかり元気になった。
更にアンのアドバイス通りに、アルペンファイルヒェンを観察しながら世話をすると、綺麗な花を咲かせてくれるようになったのだ。
その出来事は、今まで魔物を討伐するか、植物を枯らすことしか出来なかったジギスヴァルトに衝撃と感動を齎すこととなった。
──それでも彼は気付かない。
無表情で無感動だった自分の、感情や心が動かされる全ての原因に、いつもアンが関わっているということを。
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