【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第5話 ②

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「あ、実物を持ってきますので、少々お待ち下さいね」

 私は温室に向かい、育てているアルペンファイルヒェンシクラメンの中から一番元気そうな子を選ぶ。

 たくさん種類があるアルペンファイルヒェンだけど、この品種はシュヴァン白鳥と言って、純白の白鳥が羽を広げて飛び立つような、上品な花弁が特徴だ。

「お待たせしました! こちらになるんですけど、地味でしょうか?」

 人によっては白い花を地味に思うかもしれないけれど、シュヴァンは花弁が上品なフリルにも見えて、とても可愛らしいと思う。

「……いや、これが良い。俺の好みだ」

「良かったです! あ、水やりは表面の土が乾いてからあげて下さいね。その場合は上から水をかけるんじゃなくて、葉を持ち上げて根本から水を注いでください」

「む……そうか。わかった」

「上手く育つと何度でも咲いてくれますよ。春になって花が減って、葉や茎も枯れたり黄色く変色してきたら休眠させてあげるんです。もし良かったら花が枯れた後持ってきてくれたら、私が休眠明けまで面倒を見ますよ」

 騎士団の人にそこまでお手入れさせるのもアレなので、夏越しの間はこちらで預かろうと思う。

「それは助かる。しかし迷惑ではないのか?」

「他の花を育てるついでですから、大丈夫ですよ。それにずっと花を楽しんで貰いたいので、そのお手伝いと思って下さい」

 私はにっこりと微笑んだ。

 これは紛れもなく私の本心だ。私が育てた花が人々の癒やしになるのなら、こんなに嬉しいことはない。

「……有難う。大切に育てると約束しよう」

 ジルさんもにっこりと微笑んだ。
 そして舞い散る花の幻影。
 だけど花が以前よりグレードアップしているような気がするのは、私の欲目なのだろうか。

 ジルさんは花束と鉢植えを大事そうに抱えると、外に待たせていた馬車に乗り込んだ。

「有難うございました。お気をつけて」

「ああ、また来る」

 私はジルさんの乗った馬車を見送って、買ってくれた花が元気でいてくれますように、と祈る。

「さーて、そろそろ閉店しましょうかね」

 ちょっと早い時間だけれど、ジルさんに喜んで貰えた満足感で、今日はもう閉店しようと準備を始める。

(そう言えば、マイグレックヒェンがそろそろ満開かな……)

 一つだけ花を咲かせたマイグレックヒェンは、その後次々と花を咲かせ、今はその名の通り白くて丸い鐘状の花を鈴なりに咲かせている。今日ぐらい最後の蕾を咲かせているだろう。

 新たに植えた種も、以前に比べてずいぶん早く根付いてくれた。一度開花させることに成功したからか、何かのコツを掴んだのかもしれない。

 それに、最近育てている花の成長が早く、しかも開花しても長持ちしているように感じる。

(ま、花達が元気に咲いてくれるなら良いことだよね)

 私は閉店作業を済ませると、ワクワクしながら温室へと向かう。

 今日、以前商業ギルドに注文していた球根たちが店に届いたのだ。
 新しい花を植えるのはとても楽しいし、元気に育つ姿を見るのはとても嬉しい。

 私は寝かしていた区画に球根を植えていく。どうか綺麗な花が咲きますように、と願いを込めて。
 


* * * * * *


❀花の名前解説❀
インカリリエン→アルストロメリア
アドーニスレースヒェン→レースフラワー
アルペンファイルヒェン→シクラメン
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