【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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プロローグ ②

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 西に傾いた陽の光を受け、街中がオレンジ色に染まる頃、花屋「ブルーメ」は少し早い閉店時間を迎える。
 今日も一日の業務を終え、閉店準備を済ませたアンネリーエは店の裏口の扉を開く。扉の先には小さなキッチンとダイニングがあり、更にその先にもう一つ扉があった。

 奥の扉を開くと、そこには色とりどりの花が育てられている花畑が広がっている。
 そこはアンネリーエの店で売るための花々が栽培されている温室で、アンネリーエは花を仕入れるのではなく、自分で育てていたのだ。

 花畑の天井はガラスで覆われており、温度管理がされているため、害虫や気候に左右される事が無く、屋外で花を育てるより安定した生産が出来るようになっている。

 この温室はアンネリーエの祖父の時代から使われていて、アンネリーエの両親が他国に移り住んだ後、彼女へ相続されたものだった。

「さーて。明日はどの子にしましょうかね」

 アンネリーエは花畑を見渡すと、店で売るための花の選別を始める。
 店の敷地の10倍ほどある花畑には、アンネリーエが種や苗から育てた花が区画ごとに分けられ、すくすくと育っていた。
 その花の種類や量は、小さい店で売るには十分だ。

「あ、この子にしよう! きれいな色だしボリュームもあって丁度良いかも!」

 アンネリーエが見つけたのはリシアンサストルコキキョウという花だ。大きめの花弁には枝分かれした蕾が幾つかついているので、しばらく花を楽しむことが出来る。

 それからアンネリーエは頃合いの花を幾つか選ぶと、簡単に下処理をしてから、それぞれの花に合った水揚げを行う準備をする。

 ちなみに水揚げとは、花の茎が水を吸収しやすくなるように手助けをする作業で、「水切り」「水折り」「湯揚げ」などの処理の事をいう。

<我が生命の源よ 清らかなる水となりて 我が手に集い給え アクア=クリエイト>

 アンネリーエが呪文を唱えると、キラキラと光る粒子──魔力が手のひらに集まり、そしてうずまきながら水に変化する。

 大きなバケツに魔法で出した水を注ぐと、アンネリーエは下処理をした花達を入れていく。

 水が大量に必要なこの作業は、普通であればかなりの重労働なのだが、幸運にもアンネリーエは水属性の魔力持っているおかげで、比較的楽に作業を終わらせることが出来ていた。

 明日売る花の準備が出来たアンネリーエは、花畑の隣にある鉢物が置いている場所へと向かう。
 そこには、観葉植物や蘭が植わった鉢が沢山並んでいた。

 アンネリーエは半日陰になる場所に置いている一つの鉢を見ると、喜色の声を上げる。

「あ! 蕾がついてる! やった! どんなお花が咲くのか楽しみ!」

 その鉢は、他国に移住した両親が旅行中に送ってくれた種を植えたものなのだが、発芽するまで随分時間がかかっていた。
 だからちゃんと花がつくか心配だったアンネリーエは、ようやくついた蕾を見て大喜びしたのだ。

 この植物の名前は「マイグレックヒェンすずらん」と言い、北の方の国に自生しており、花と根に毒をもっているから注意するように、とアンネリーエは両親から教えられている。
 何故アンネリーエが毒を持つマイグレックヒェンを栽培しているのかというと、マイグレックヒェンはその愛らしく可憐で素朴なその姿が「幸せを呼ぶ花」として北方の国で親しまれているからだ。

 可愛い花でも毒を持つのに「幸せを呼ぶ花」と呼ばれ、花言葉が「純潔、純粋、幸福」というマイグレックヒェンに、アンネリーエは心惹かれるものがあったのだ。

 マイグレックヒェンは紫色で釣り鐘状の、壷状に丸まった花が咲くという。

 アンネリーエは花が開花するのを楽しみにしながら、温室を後にしたのだった。
 


* * * * * *


❀花の名前解説❀
リシアンサス→トルコキキョウ
マイグレックヒェン→すずらん
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