【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第1話 ①

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 花屋の朝は早い。

 ベッドから降りた私は顔を洗い、動きやすい服にさっと着替えると、一階にあるキッチンへと向かう。

 ちなみに私の店は2階が住居部分になっていて、私が寝起きしている部屋も2階にある。
 部屋は他にもあり、両親が使っていた寝室の方が私の部屋より広いけれど、私はこぢんまりとしたこの狭い空間を気に入っている。
 自分好みの可愛い小物や、お気に入りのファブリックで彩られた部屋はまるで隠れ家みたいで、私だけのお気に入り空間に整えられているからとても居心地が良いのだ。

 キッチンに降りた私は簡単にサラダを作ると、パンを温めながらフライパンで目玉焼きとヴルストを焼き、紅茶を淹れて朝食の準備を完了する。

 こうして料理をしてると、お母さんが「アンネリーエは手際がとても良いいから、食堂で働いても即戦力になるわね」と言ってくれた事があったな、と懐かしく思う。

 普段はお店のことでいっぱいで思い出す暇もないけれど、こうして生活をしていると、ふと一人が寂しいと思う時がある。

 私の両親は魔物が多く出没するこの国に見切りをつけて、自然豊かな国へ移住して行った。私は一緒に行こうと言う両親の申し出を断って、一人この国に残ることにした。
 その理由は、お爺ちゃんが作った温室が大好きで、ここから離れたくなかったのと、大変だけど花屋の仕事がとても楽しいからだ。

「いただきます」

 ここには自分一人だけど、食事前の挨拶は忘れない。
 ほかほかのパンをちぎり、口の中に放り込むと、天然酵母の香りが広がって、噛めば噛むほど旨味が溢れてくる。ヴルストはぷりぷりで肉汁がたっぷりだし、目玉焼きの火加減はちょうど良く、自家製ドレッシングがかかったサラダはシャキシャキと歯ごたえがあって絶品だ。

 私は温室で花を育てるついでにクラテールハーブやレタスも育てているので、サラダはいつも新鮮なものが食べられる。手作りドレッシングとの相性も抜群で我ながらとても美味しいと思う。

 もし花屋じゃなければカフェを経営していたかもしれない程に、私は料理が好きだった。

「ごちそうさまでした」

 手早く食事を終えた私は、使った食器をさっと片付けて温室へと向かう。
 そして魔法で水を出して水やりを済ますと、花を収穫した後の区画の土作りを始める。

 土を耕して石灰や腐葉土を加えて寝かせ、肥料を混ぜて整える。一週間もすれば新しい花の種を植える事が出来るだろう。

「次はどの子を植えようかな」

 私は次にどの花を育てるか考える。温室のおかげで季節関係なく花を選ぶことが出来るので、候補が多すぎるのも嬉しい悩みだ。

「うーん、うーん。……よし! 次の子はアネモーネアネモネに決まり!」

 アネモーネは、はっと目が覚めるような、鮮やかな赤や青紫の花びらが人気の花だ。
 この花は種より球根から栽培する方が簡単で、水はけと日当たりのよい場所に植え、多肥にしないように管理すれば、何年も植えっぱなしで花が咲いてくれるという。

「あ、アネモーネの球根を注文しないと!」

 店で常に売っているような、主力の花の種は保管しているものの、球根の手持ちが無かったことに気付いた私は、商業ギルドにアネモーネの球根を注文する必要があることに気がついた。

「ついでにトゥルペチューリップヒュアツィントヒヤシンスの球根もお願いしてみよう」

 私は注文内容を頭の中にメモし、店の開店準備を始めることにする。

 昨日の夜に水揚げしておいたリシアンサストルコキキョウをバケツから出し、余分な葉を取り除き茎の下を切っていく。
 水揚げした効果か、リシアンサスの花は茎が十分に水を吸ってぴんとしている。これならお客さんも喜んでくれるだろう。

 その後も何種類かの花を処理し、店頭に並べられるよう準備を済ませると、次は昨日から店に並んでいる花の水を交換する作業に取り掛かる。
 元気がない花があればもう一度水揚げをし、傷んだ葉があれば取り除き、茎を切って花が水を吸いやすいようにする。

 一見華やかに見える花屋だが、葉の処理や花の手入れで手は荒れ放題になるし、水が入ったバケツは重いしで、身体が小さく力が強くない私にとってはかなりの重労働だ。
 私の場合は肌が強いのか、あまり手荒れはしないから助かっているけれど。

 花屋はただ綺麗なものを売っているだけの仕事ではないのに、結構勘違いしている人が多かったりする。

 それでも私がこの仕事を続けているのは花が好きだから、というのはもちろんのこと、私が育てた花や作った花束を見て喜んでくれる人の笑顔を見ると、とても嬉しいからだ。

 花の処理が終わり、綺麗に咲き誇る花を店頭に並べ、開店準備が完了する。

「さあ、今日も一日頑張ろう!」

 気合を入れた私は、ドアに掛けたプレートを「閉店」から「営業中」にひっくり返し、花屋「ブルーメ」の営業を始めたのだった。
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