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休養の期間、ほぼ毎日ヴェルナーは私の部屋に来てくれた。大抵はこの間みたいにゲームをしたり、雑談をしたりした。一人でずっと部屋に閉じ込められていたら息が詰まっていたかもしれない。
ーーさすがに、何かお礼をしないといけないわね。
試験前からヴェルナーには助けてもらってばかりだ。彼にお礼をしたらそれを変な形で吹聴して回られるかもしれないから、何もしないでいたけど。でも、ここまで彼の世話になったなら、借りを作りっぱなしになる。それに、人としてもどうかとも思うし。
お礼をどうしようかと考えていたら、リタが部屋に入ってきた。
「お嬢様、ケラー公爵令嬢からお手紙です」
「ありがとう」
手渡された封筒は少しボロボロになっている気がする。封の部分が不自然なほどよれていて、少し破れている。
「どうかなさいましたか」
「アンナ様の字がきれいだなって思ったの。私ももっと字の練習をしないとね」
何も知らないフリをして、明るく笑って言った。リタがほっとした顔になったのを見逃さなかった。
ーーあなたが開けたのね。
リタが部屋を出ていくと、私は手紙を読んだ。手紙は、見舞いの言葉から始まり、私を心配する内容だった。それから、またアンナの寮でお茶をしたいと書いてあった。わざわざ"時間を作って欲しい"とまで書いてあるのだから、社交辞令ではないだろう。
私は返事を書いた。前の時と違って迷いはない。「またお茶をしましょう。休養が明けた日に伺ってもよろしいでしょうか」と書いた。
それからすぐにリタに手紙を渡した。中身を見られたところで差し障りはないからだ。アンナとお茶をすれば寮に帰ってくる時間が遅くなるからリタにはすぐにバレてしまう。それなら、気がついていないフリを続けていた方がいい。
その日の夜もヴェルナーはやって来た。
「やあ。今日は試験の結果が廊下に貼り出されていたよ」
部屋に入ってくるなりヴェルナーは言った。
「筆記試験はどの科目も上位20入りだったよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
「珍しく素直に喜ぶんだね」
「あれだけ苦労しましたから」
今はお礼がしたい旨を伝えるのにいい機会だ。
「これもヴェルナー様のおかげですね。お礼をしたいのですが、何かご希望はありますか」
「結婚」
「それはダメです」
あははとヴェルナーは笑った。折角、人がお礼をすると言っているんだから真面目に考えて欲しい。
「そう言うと思ったけど、間合いもなく断るんだから」
「結婚や交際は絶対に無理ですから」
「それなら、デートは?」
「デート?」
「とは言っても、今度の休みに街に出かけるだけなんだけど」
「何をしに行くのです」
「特別な用事はないよ。ただ、学園の中にずっといたら息が詰まるから気分転換に出かけるだけ」
ここ最近は試験勉強に追われて街に出る機会もなかった。流行のチェックと話題作りを兼ねて出かけるのも悪くない。
「1つ条件をつけても?」
「どんな?」
「私とヴェルナー様が一緒にお出かけすることを言いふらさないで下さい。匂わせたり意図的に人に知られるように仕向けるのもだめです」
「それは残念。まあ、でもいいよ。君の条件を呑んであげる」
アンナとのお茶と、ヴェルナーとの外出。思ってもみない予定が立て続けに入った。
「俺とのデート、楽しみだったりする?」
ヴェルナーはヘラヘラと笑いながら聞いてきた。
悔しいけど、ちょっとだけ待ち遠しいと思っている自分がいる。これは、きっと軟禁生活のせいだ。
私はエマの微笑みを浮かべて、ヴェルナーの質問に返事をしなかった。
ーーさすがに、何かお礼をしないといけないわね。
試験前からヴェルナーには助けてもらってばかりだ。彼にお礼をしたらそれを変な形で吹聴して回られるかもしれないから、何もしないでいたけど。でも、ここまで彼の世話になったなら、借りを作りっぱなしになる。それに、人としてもどうかとも思うし。
お礼をどうしようかと考えていたら、リタが部屋に入ってきた。
「お嬢様、ケラー公爵令嬢からお手紙です」
「ありがとう」
手渡された封筒は少しボロボロになっている気がする。封の部分が不自然なほどよれていて、少し破れている。
「どうかなさいましたか」
「アンナ様の字がきれいだなって思ったの。私ももっと字の練習をしないとね」
何も知らないフリをして、明るく笑って言った。リタがほっとした顔になったのを見逃さなかった。
ーーあなたが開けたのね。
リタが部屋を出ていくと、私は手紙を読んだ。手紙は、見舞いの言葉から始まり、私を心配する内容だった。それから、またアンナの寮でお茶をしたいと書いてあった。わざわざ"時間を作って欲しい"とまで書いてあるのだから、社交辞令ではないだろう。
私は返事を書いた。前の時と違って迷いはない。「またお茶をしましょう。休養が明けた日に伺ってもよろしいでしょうか」と書いた。
それからすぐにリタに手紙を渡した。中身を見られたところで差し障りはないからだ。アンナとお茶をすれば寮に帰ってくる時間が遅くなるからリタにはすぐにバレてしまう。それなら、気がついていないフリを続けていた方がいい。
その日の夜もヴェルナーはやって来た。
「やあ。今日は試験の結果が廊下に貼り出されていたよ」
部屋に入ってくるなりヴェルナーは言った。
「筆記試験はどの科目も上位20入りだったよ。おめでとう」
「ありがとうございます」
「珍しく素直に喜ぶんだね」
「あれだけ苦労しましたから」
今はお礼がしたい旨を伝えるのにいい機会だ。
「これもヴェルナー様のおかげですね。お礼をしたいのですが、何かご希望はありますか」
「結婚」
「それはダメです」
あははとヴェルナーは笑った。折角、人がお礼をすると言っているんだから真面目に考えて欲しい。
「そう言うと思ったけど、間合いもなく断るんだから」
「結婚や交際は絶対に無理ですから」
「それなら、デートは?」
「デート?」
「とは言っても、今度の休みに街に出かけるだけなんだけど」
「何をしに行くのです」
「特別な用事はないよ。ただ、学園の中にずっといたら息が詰まるから気分転換に出かけるだけ」
ここ最近は試験勉強に追われて街に出る機会もなかった。流行のチェックと話題作りを兼ねて出かけるのも悪くない。
「1つ条件をつけても?」
「どんな?」
「私とヴェルナー様が一緒にお出かけすることを言いふらさないで下さい。匂わせたり意図的に人に知られるように仕向けるのもだめです」
「それは残念。まあ、でもいいよ。君の条件を呑んであげる」
アンナとのお茶と、ヴェルナーとの外出。思ってもみない予定が立て続けに入った。
「俺とのデート、楽しみだったりする?」
ヴェルナーはヘラヘラと笑いながら聞いてきた。
悔しいけど、ちょっとだけ待ち遠しいと思っている自分がいる。これは、きっと軟禁生活のせいだ。
私はエマの微笑みを浮かべて、ヴェルナーの質問に返事をしなかった。
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