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20 あなたがなぜ?
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それから、私達は他愛のない話をした。お茶を飲みながら最近読んでいる詩集について話していると、扉がノックされた。「どうぞ」と声をかけると、入ってきたのはお父様だった。
「エドワード殿下、お話中、失礼させていただきます」
お父様は神妙な顔でそう言うと私達の対面に座った。
「何かありましたか」
エドが聞くとお父様は「はい」と言って頷いた。
「先ほど警察から報告を受けました。ベラを襲った男が遺体で発見されたそうです」
お父様の言葉に私は絶句してしまった。
「遺体で?」
「はい。どうやら彼は雇い主に消されたようです」
お父様は私をちらりと見た。本当はもっと詳しいことを警察から聞いているのだろう。でも、私を気にしているのか詳細の説明はしなかった。
「ただ、その雇い主はヘマをしたらしく、雇い主の身元が割り出せたそうです」
「それは誰なんですか?」
エドが言った。
「マダール伯爵家の娘です」
「アイラ嬢?」
エドが反応する前に私の口から彼女の名前が出た。
━━なぜ彼女が?
彼女が私に対して良い印象を持っていないことは分かっていた。でも、命を狙われるほど嫌われていたなんて・・・・・・。
「そう。彼女が」
エドの呟きはこころなしか冷たい声だった。
「彼女について、何か知っていますか」
お父様の問いにエドは頷いた。
「彼女はフィリップに対して一方的に恋心を寄せていました。ベラがフィリップの婚約者だった頃は、見苦しいことにベラに対して嫌がらせをしていましたよ」
エドは嫌悪感を隠すことなく言った。お父様は驚いた顔で私を見た。
「そんな話を聞いたことがないが」
「嫌がらせというほどの事では」
エドは大げさだ。なぜか事あるごとに嫌味なことを言われはしたものの大したことはなかった。
「嫌がらせだよ。ベラを"氷の令嬢"だと揶揄し始めたのは彼女なんだから」
エドの言葉に私はとても驚いた。いつの間にか付けられていたあだ名がアイラ嬢によるものだったなんて思いもしなかった。
「俺達は彼女に再三注意したんですけどね。フィリップの気を引きたいが為に彼の周りの人間を貶めるのはやめろと。彼女が卒業してからは大分落ち着いたと思っていたんですが、まさかこんなことをしでかすとは」
エドは眉間に皺を寄せて言った。
「なるほど。だから、ランベール子爵令嬢に濡れ衣を着せようとしたわけか」
「どういうことです?」
エドは驚いた様子で尋ねた。
「実は、ゴシップ紙にベラやランベール子爵令嬢の情報を流して記事を書かせていたのもマダール伯爵令嬢だったんです」
「なるほど。じゃあ、クビにしたあの下男も」
私が言うとお父様は頷いた。
「マダール伯爵令嬢から金を受け取ってゴシップ紙に情報を売っていたそうだ。そして、もしそのことがバレたらランベール子爵令嬢との関係を匂わせるようなことを言うようにと指示されていたらしい」
「ということは、御者のふりをしたあの男も、わざわざランベール子爵家から引き抜いて来たというところでしょうね」
エドの言葉にお父様は「そうです」と返事をした。
「ただ、これだけのことをアイラ一人でやれるとは思えない。マダール伯爵も関わっているんでしょう?」
「警察はそう見ているそうです」
さらに、お父様は「これはあくまでも自分の憶測ですが」と言ってから話を続けた。
「マダール伯爵は逓信省に勤めています。彼なら手紙の内容を盗み見る事が可能です」
「なるほど。通りでうちの使用人を調べても何も見つからないわけだ」
エドはそう言って、腕を組んで何かを考え込んだ。
「エド? どうしました?」
「いや、何でもないよ。マダール伯爵とアイラの処分は近日中になされるだろうから、この事は俺達から口にするのはやめておこう」
きっとエドは私達の婚約の発表への影響を心配していたのだろう。
「分かりました。警察や王室から発表があるまでは、私達は黙っています」
お父様の言葉に私も同意した。
「エドワード殿下、お話中、失礼させていただきます」
お父様は神妙な顔でそう言うと私達の対面に座った。
「何かありましたか」
エドが聞くとお父様は「はい」と言って頷いた。
「先ほど警察から報告を受けました。ベラを襲った男が遺体で発見されたそうです」
お父様の言葉に私は絶句してしまった。
「遺体で?」
「はい。どうやら彼は雇い主に消されたようです」
お父様は私をちらりと見た。本当はもっと詳しいことを警察から聞いているのだろう。でも、私を気にしているのか詳細の説明はしなかった。
「ただ、その雇い主はヘマをしたらしく、雇い主の身元が割り出せたそうです」
「それは誰なんですか?」
エドが言った。
「マダール伯爵家の娘です」
「アイラ嬢?」
エドが反応する前に私の口から彼女の名前が出た。
━━なぜ彼女が?
彼女が私に対して良い印象を持っていないことは分かっていた。でも、命を狙われるほど嫌われていたなんて・・・・・・。
「そう。彼女が」
エドの呟きはこころなしか冷たい声だった。
「彼女について、何か知っていますか」
お父様の問いにエドは頷いた。
「彼女はフィリップに対して一方的に恋心を寄せていました。ベラがフィリップの婚約者だった頃は、見苦しいことにベラに対して嫌がらせをしていましたよ」
エドは嫌悪感を隠すことなく言った。お父様は驚いた顔で私を見た。
「そんな話を聞いたことがないが」
「嫌がらせというほどの事では」
エドは大げさだ。なぜか事あるごとに嫌味なことを言われはしたものの大したことはなかった。
「嫌がらせだよ。ベラを"氷の令嬢"だと揶揄し始めたのは彼女なんだから」
エドの言葉に私はとても驚いた。いつの間にか付けられていたあだ名がアイラ嬢によるものだったなんて思いもしなかった。
「俺達は彼女に再三注意したんですけどね。フィリップの気を引きたいが為に彼の周りの人間を貶めるのはやめろと。彼女が卒業してからは大分落ち着いたと思っていたんですが、まさかこんなことをしでかすとは」
エドは眉間に皺を寄せて言った。
「なるほど。だから、ランベール子爵令嬢に濡れ衣を着せようとしたわけか」
「どういうことです?」
エドは驚いた様子で尋ねた。
「実は、ゴシップ紙にベラやランベール子爵令嬢の情報を流して記事を書かせていたのもマダール伯爵令嬢だったんです」
「なるほど。じゃあ、クビにしたあの下男も」
私が言うとお父様は頷いた。
「マダール伯爵令嬢から金を受け取ってゴシップ紙に情報を売っていたそうだ。そして、もしそのことがバレたらランベール子爵令嬢との関係を匂わせるようなことを言うようにと指示されていたらしい」
「ということは、御者のふりをしたあの男も、わざわざランベール子爵家から引き抜いて来たというところでしょうね」
エドの言葉にお父様は「そうです」と返事をした。
「ただ、これだけのことをアイラ一人でやれるとは思えない。マダール伯爵も関わっているんでしょう?」
「警察はそう見ているそうです」
さらに、お父様は「これはあくまでも自分の憶測ですが」と言ってから話を続けた。
「マダール伯爵は逓信省に勤めています。彼なら手紙の内容を盗み見る事が可能です」
「なるほど。通りでうちの使用人を調べても何も見つからないわけだ」
エドはそう言って、腕を組んで何かを考え込んだ。
「エド? どうしました?」
「いや、何でもないよ。マダール伯爵とアイラの処分は近日中になされるだろうから、この事は俺達から口にするのはやめておこう」
きっとエドは私達の婚約の発表への影響を心配していたのだろう。
「分かりました。警察や王室から発表があるまでは、私達は黙っています」
お父様の言葉に私も同意した。
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