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19 これは本当に私?
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「そういえば、俺もベラに渡したい物があったんだ」
そう言ってエドは私に封筒を差し出した。受け取って中身を見ると、2枚の写真が入っていた。その2枚とも私が写っていた。
1枚目は自然公園で不意に写真を撮られた時のものだった。そしてもう1枚は家で絵を描いている時のものだ。
━━笑ってる。
決して分かりやすい満面の笑みではない。でも、写真の中の私は僅かながらも微笑んでいた。
「これって、本当に私?」
鏡に映る無表情の私との違いに戸惑いを隠せない。
「やっと分かった? ベラだって楽しい時は笑っているんだよ」
前に言われた時はそうとは思わなかったけれど、写真という明確な証拠があるのなら、納得せざるを得ない。
「私、本当に笑っていたんですね」
表情がないと言われることが多かったから、自分はそういう人間なのだとばかり思っていた。
「うん。今も笑っているよ」
エドはそう言うと私の手を取った。
「ベラ、他人の悪口を受け入れないで。君は笑えるし悲しめる。優しい性格をしているから怒ることは少ないかもしれないけど、それでも君にはちゃんと感情があるんだ」
「はい」
私は写真を封筒の中にしまった。
「素敵なプレゼントをありがとうございます」
お世辞ではなく、本当に素敵なプレゼントだった。長年悩まされ続けた"氷の令嬢"をいとも簡単に壊してくれたから。
「私、もっと笑えるようになりたいです」
私の言葉にエドは驚いていた。
「どうして? ベラは笑っているって言っているだろう」
「全然足りないです。もっとみんなの前で笑って、"氷の令嬢"のイメージを払拭したいですから」
「ああ、そういうことか」
エドは安心したのか、またにこりと笑った。
「そう思ってくれるなら嬉しいけど、ちょっと複雑だな」
エドの言葉に私は首を傾げた。
「どうしてでしょう?」
「みんなにベラの可愛らしい笑顔を見られる機会が増えるんだよ? 焼きもちやいちゃうよ」
「何ですかそれ」
恋愛小説のようなキザなセリフに笑みが溢れたのが自分でも分かった。
「笑うなんて心外だよ。俺は真面目に言ってるのに」
エドは怒ったような口ぶりなのに笑っていた。
━━楽しい。
エドとこうやって話せることが、楽しいと今の私ははっきりと自信を持って言えた。
「また、貰い物をしたのでお返しをしないといけませんね」
「そんな、お返しが欲しくて渡したわけじゃないからいいよ」
エドはそう言いながらも、どこか落ち着きがなく、期待した目で私を見ている。
━━本当は欲しいのかしら?
「遠慮しないで下さい。本当に嬉しかったんですから。お返しがしたいんです」
「そう? それなら貰おうかな」
エドは顔を綻ばせて言った。いつも私をエスコートしてくれているけれど、意外と子供っぽいところがあるのかもしれない。
「何かリクエストはありますか?」
「ベラの作ったお菓子を食べてみたい」
「お菓子?」
お菓子は、学園の授業で作ったきりだ。それもたったの数回。
「上手く作れないかもしれませんよ」
「大丈夫。美味しそうだったから」
「え?」
意味が分からず戸惑っていると、エドが教えてくれた。
「学生の時に授業で作っただろう? あの時のやつ、とっても美味しそうだった」
「そうでしたか」
実習で作ったお菓子を、みんなは婚約者や恋人にあげていた。エリナがフィリップ様にあげているのを見たから、私は家に持って帰って家族で食べた。
「欲しいと言ってくれれば渡しましたのに」
「婚約者がいる人に、そんなお願いはできないよ」
エドは苦笑いをして言った。
「ああ。そうでした」
「でも、これからはたくさんわがままが言える」
エドはそう言って私の手を取った。
「クッキーがいいな」
「分かりました。練習をしたいので、渡すまでに日があくかもしれませんがよろしいでしょうか」
「うん。楽しみにしてる」
そう言うとエドは嬉しそうに笑った。
そう言ってエドは私に封筒を差し出した。受け取って中身を見ると、2枚の写真が入っていた。その2枚とも私が写っていた。
1枚目は自然公園で不意に写真を撮られた時のものだった。そしてもう1枚は家で絵を描いている時のものだ。
━━笑ってる。
決して分かりやすい満面の笑みではない。でも、写真の中の私は僅かながらも微笑んでいた。
「これって、本当に私?」
鏡に映る無表情の私との違いに戸惑いを隠せない。
「やっと分かった? ベラだって楽しい時は笑っているんだよ」
前に言われた時はそうとは思わなかったけれど、写真という明確な証拠があるのなら、納得せざるを得ない。
「私、本当に笑っていたんですね」
表情がないと言われることが多かったから、自分はそういう人間なのだとばかり思っていた。
「うん。今も笑っているよ」
エドはそう言うと私の手を取った。
「ベラ、他人の悪口を受け入れないで。君は笑えるし悲しめる。優しい性格をしているから怒ることは少ないかもしれないけど、それでも君にはちゃんと感情があるんだ」
「はい」
私は写真を封筒の中にしまった。
「素敵なプレゼントをありがとうございます」
お世辞ではなく、本当に素敵なプレゼントだった。長年悩まされ続けた"氷の令嬢"をいとも簡単に壊してくれたから。
「私、もっと笑えるようになりたいです」
私の言葉にエドは驚いていた。
「どうして? ベラは笑っているって言っているだろう」
「全然足りないです。もっとみんなの前で笑って、"氷の令嬢"のイメージを払拭したいですから」
「ああ、そういうことか」
エドは安心したのか、またにこりと笑った。
「そう思ってくれるなら嬉しいけど、ちょっと複雑だな」
エドの言葉に私は首を傾げた。
「どうしてでしょう?」
「みんなにベラの可愛らしい笑顔を見られる機会が増えるんだよ? 焼きもちやいちゃうよ」
「何ですかそれ」
恋愛小説のようなキザなセリフに笑みが溢れたのが自分でも分かった。
「笑うなんて心外だよ。俺は真面目に言ってるのに」
エドは怒ったような口ぶりなのに笑っていた。
━━楽しい。
エドとこうやって話せることが、楽しいと今の私ははっきりと自信を持って言えた。
「また、貰い物をしたのでお返しをしないといけませんね」
「そんな、お返しが欲しくて渡したわけじゃないからいいよ」
エドはそう言いながらも、どこか落ち着きがなく、期待した目で私を見ている。
━━本当は欲しいのかしら?
「遠慮しないで下さい。本当に嬉しかったんですから。お返しがしたいんです」
「そう? それなら貰おうかな」
エドは顔を綻ばせて言った。いつも私をエスコートしてくれているけれど、意外と子供っぽいところがあるのかもしれない。
「何かリクエストはありますか?」
「ベラの作ったお菓子を食べてみたい」
「お菓子?」
お菓子は、学園の授業で作ったきりだ。それもたったの数回。
「上手く作れないかもしれませんよ」
「大丈夫。美味しそうだったから」
「え?」
意味が分からず戸惑っていると、エドが教えてくれた。
「学生の時に授業で作っただろう? あの時のやつ、とっても美味しそうだった」
「そうでしたか」
実習で作ったお菓子を、みんなは婚約者や恋人にあげていた。エリナがフィリップ様にあげているのを見たから、私は家に持って帰って家族で食べた。
「欲しいと言ってくれれば渡しましたのに」
「婚約者がいる人に、そんなお願いはできないよ」
エドは苦笑いをして言った。
「ああ。そうでした」
「でも、これからはたくさんわがままが言える」
エドはそう言って私の手を取った。
「クッキーがいいな」
「分かりました。練習をしたいので、渡すまでに日があくかもしれませんがよろしいでしょうか」
「うん。楽しみにしてる」
そう言うとエドは嬉しそうに笑った。
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