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私達のおままごと
4(終)
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ティアの胸は大きくはないが柔らかくて触り心地がいい。だから時折、無意味に触りたくなることがある。
「んあっ」
胸を弄られるのが好きなティアだけど。身を少し捩らせただけでまだ眠っている。彼女は一度眠ってしまったらなかなか起きない。
「この世界の人間がみんなお前みたいな性格だったら、世界はここまで歪むことはなかったかもしれないね」
耳元で囁いてみても勿論返事はない。
ティアは今も昔も目の前のことに対処するので精一杯で、遠い未来や過去を考えない。ただただ今日の飯と眠れる場所を確保できればそれでいいと考えていた。自分と自分の親しい人が今を生きて無事に明日を迎える。ただそれだけをティアは望んでいる。
「ははっ」
何て原始的で単純な願い何だろう。
貧しさと厳しい環境で育った彼女の願いはこんなにも可愛らしいものなのに。それよりももっと恵まれた環境にいたシトレディスの信徒達ときたら"永遠の生"なんて愚かなものを望んで・・・・・・。
━━考えていたら腹が立ってきた。
シトレディスとシトレディスの惚れたあの男がそもそもの元凶なのは間違いない。でも、シトレディスを信仰し続けた愚かな人間達だって、世界を狂わせる行為に多かれ少なかれ加担していたはずだ。
いくら天界とこの世界を分断する壁が厚くたって、神々を信じて必死に祈れば彼らはこの世界にやって来れるはずなのに。そうせずにシトレディスを盲目的に信じて従い続けた結果が今の状況に繋がっているんじゃないのか?
━━私が苦労をしてまで、この世界を救う意味なんてある?
もういっそのこと、この世界の生命は全て私の血肉へと戻した方がいいのかもしれない。ティア以外の魂を粉々にして、世界をぶっ壊して。彼女の魂を大事に保管してから天界へ戻ろう。そして、また新たに世界を作ればいいんだ。そこでティアの新しい肉体を与えれば━━
ティアの頭ががくりと揺れた。お湯に顔を突っ伏しそうだったから私は慌てて彼女の身体を支えた。
「んっ」
ティアの手がバスタブの縁を握った。
「エルドノアさま・・・・・・」
彼女は私の名前を呼びながらもぞもぞと動いた。身体を横にして腕を私の首に回してきたから、私はティアを横抱きにするように手を回した。
「おはよう、ティア。目覚めが早いね?」
「こわい夢を見たの」
ティアは私の胸に頭を預けた。
「エルドノアさまがお風呂で私に怒ってるの。あやまっても許してくれなくて。・・・・・・シャワーを顔にかけられたの」
ティアの身体から震えが伝わる。あの日のことを断片的に思い出してしまったようだ。
「怖い夢を見たね」
私はティアの頭を撫でてやった。
「でも夢は夢だよ? 私はそんなことをしないから」
正しくは「もうしない」だけど。わざわざそれを伝える必要はない。
「本当に? 怒ってない?」
「うん。怒ってないよ」
「エルドノアさま」
「何?」
「私を、捨てないで」
"━━ずっと一緒にいたいの"
私はティアを強く抱きしめた。
「お前は私の大事な信徒だよ? 捨てるわけがないじゃないか」
ぐずぐずと鼻をすする音がした。ティアの顔を見たら、彼女は泣いていた。
私はティアの頭を撫でてから、口づけをした。
"━━だいすき"
聞き飽きたはずの彼女の愛の言葉が嬉しくてたまらない。
━━愛おしい私のティア。捨ててくれと頼まれたって離してやらない。
長い時間キスをして、ティアは涙を流すのをやめた。
とろんとした目を私に向けてくる愛おしい人。もう一度犯してやりたいけど、彼女の身体はすでに生命の力で満たされている。
「とりあえず、出ようか」
栓を抜いて私達はバスタブから出た。
※
着替えを終えてから寝室へと帰る途中、ティアは眠ってしまった。悪夢で目が覚めてしまっただけで、まだまだ眠り足りなかったようだ。
寝室に戻ると、私は泥人形が片付けを終えたベッドにティアを降ろした。そして横になると彼女の身体を抱きしめる。
今度は嫌な夢をみないように、優しく背中を撫でてやる。
━━ずっと一緒にいたい、か。
ティアが私の傍にいたいと願うなら、世界を壊してやり直すわけにはいかない。それに、ティアはこんな狂った世界でも人間として生きたいと願っている。
「お前さえいなければ物事は単純に進んでいくのに」
愚痴を言ったってティアは眠るだけだ。
今の私にできることは少ない。ティアに対しても世界に対しても。だから、今日までとやることは変わらない。
ティアの愛の言葉を聞いて、彼女を抱く。偶に会うシトレディスの信徒を浄化をする。仕事を終えたら、またティアを抱く。退屈しのぎに彼女とともに出かけて、そこでも抱きたくなったら抱く。ティアが抱いて欲しそうにしていても抱く。単純で単調でつまらない毎日を送るんだ。
そういえば、人間は同じ人間と長期間、肉体関係を持ち続けると"恋人関係"と認識するんだっけ? ということは、私とティアは人間の目から見たら恋人なんだろうか。
馬鹿みたいなことを真剣に考えてみた結果、得た答えは、「違う」だった。何が違うのかは分からない。
でも、私が今までに関わってきた恋人関係にある人間たちと比べて何かが足りなかった。
私とティアは、恋人達の関係を表面的に見て拙くもなぞっているような・・・・・・。まるで、人間の子どもたちが親を真似て遊ぶ"ままごと"をしているみたいだ。
「ははっ」
馬鹿みたいだと思った。人間相手に子ども地味た遊びをするなんて。愚かにも程がある。
でも、それをやめる気は不思議と起こらない。
私はティアの額に口づけた。彼女は相変わらず私の気も知らないで静かに眠っている。
「おやすみ、ティア」
私はそう言って目を閉じた。
「私達のままごと」 了
「んあっ」
胸を弄られるのが好きなティアだけど。身を少し捩らせただけでまだ眠っている。彼女は一度眠ってしまったらなかなか起きない。
「この世界の人間がみんなお前みたいな性格だったら、世界はここまで歪むことはなかったかもしれないね」
耳元で囁いてみても勿論返事はない。
ティアは今も昔も目の前のことに対処するので精一杯で、遠い未来や過去を考えない。ただただ今日の飯と眠れる場所を確保できればそれでいいと考えていた。自分と自分の親しい人が今を生きて無事に明日を迎える。ただそれだけをティアは望んでいる。
「ははっ」
何て原始的で単純な願い何だろう。
貧しさと厳しい環境で育った彼女の願いはこんなにも可愛らしいものなのに。それよりももっと恵まれた環境にいたシトレディスの信徒達ときたら"永遠の生"なんて愚かなものを望んで・・・・・・。
━━考えていたら腹が立ってきた。
シトレディスとシトレディスの惚れたあの男がそもそもの元凶なのは間違いない。でも、シトレディスを信仰し続けた愚かな人間達だって、世界を狂わせる行為に多かれ少なかれ加担していたはずだ。
いくら天界とこの世界を分断する壁が厚くたって、神々を信じて必死に祈れば彼らはこの世界にやって来れるはずなのに。そうせずにシトレディスを盲目的に信じて従い続けた結果が今の状況に繋がっているんじゃないのか?
━━私が苦労をしてまで、この世界を救う意味なんてある?
もういっそのこと、この世界の生命は全て私の血肉へと戻した方がいいのかもしれない。ティア以外の魂を粉々にして、世界をぶっ壊して。彼女の魂を大事に保管してから天界へ戻ろう。そして、また新たに世界を作ればいいんだ。そこでティアの新しい肉体を与えれば━━
ティアの頭ががくりと揺れた。お湯に顔を突っ伏しそうだったから私は慌てて彼女の身体を支えた。
「んっ」
ティアの手がバスタブの縁を握った。
「エルドノアさま・・・・・・」
彼女は私の名前を呼びながらもぞもぞと動いた。身体を横にして腕を私の首に回してきたから、私はティアを横抱きにするように手を回した。
「おはよう、ティア。目覚めが早いね?」
「こわい夢を見たの」
ティアは私の胸に頭を預けた。
「エルドノアさまがお風呂で私に怒ってるの。あやまっても許してくれなくて。・・・・・・シャワーを顔にかけられたの」
ティアの身体から震えが伝わる。あの日のことを断片的に思い出してしまったようだ。
「怖い夢を見たね」
私はティアの頭を撫でてやった。
「でも夢は夢だよ? 私はそんなことをしないから」
正しくは「もうしない」だけど。わざわざそれを伝える必要はない。
「本当に? 怒ってない?」
「うん。怒ってないよ」
「エルドノアさま」
「何?」
「私を、捨てないで」
"━━ずっと一緒にいたいの"
私はティアを強く抱きしめた。
「お前は私の大事な信徒だよ? 捨てるわけがないじゃないか」
ぐずぐずと鼻をすする音がした。ティアの顔を見たら、彼女は泣いていた。
私はティアの頭を撫でてから、口づけをした。
"━━だいすき"
聞き飽きたはずの彼女の愛の言葉が嬉しくてたまらない。
━━愛おしい私のティア。捨ててくれと頼まれたって離してやらない。
長い時間キスをして、ティアは涙を流すのをやめた。
とろんとした目を私に向けてくる愛おしい人。もう一度犯してやりたいけど、彼女の身体はすでに生命の力で満たされている。
「とりあえず、出ようか」
栓を抜いて私達はバスタブから出た。
※
着替えを終えてから寝室へと帰る途中、ティアは眠ってしまった。悪夢で目が覚めてしまっただけで、まだまだ眠り足りなかったようだ。
寝室に戻ると、私は泥人形が片付けを終えたベッドにティアを降ろした。そして横になると彼女の身体を抱きしめる。
今度は嫌な夢をみないように、優しく背中を撫でてやる。
━━ずっと一緒にいたい、か。
ティアが私の傍にいたいと願うなら、世界を壊してやり直すわけにはいかない。それに、ティアはこんな狂った世界でも人間として生きたいと願っている。
「お前さえいなければ物事は単純に進んでいくのに」
愚痴を言ったってティアは眠るだけだ。
今の私にできることは少ない。ティアに対しても世界に対しても。だから、今日までとやることは変わらない。
ティアの愛の言葉を聞いて、彼女を抱く。偶に会うシトレディスの信徒を浄化をする。仕事を終えたら、またティアを抱く。退屈しのぎに彼女とともに出かけて、そこでも抱きたくなったら抱く。ティアが抱いて欲しそうにしていても抱く。単純で単調でつまらない毎日を送るんだ。
そういえば、人間は同じ人間と長期間、肉体関係を持ち続けると"恋人関係"と認識するんだっけ? ということは、私とティアは人間の目から見たら恋人なんだろうか。
馬鹿みたいなことを真剣に考えてみた結果、得た答えは、「違う」だった。何が違うのかは分からない。
でも、私が今までに関わってきた恋人関係にある人間たちと比べて何かが足りなかった。
私とティアは、恋人達の関係を表面的に見て拙くもなぞっているような・・・・・・。まるで、人間の子どもたちが親を真似て遊ぶ"ままごと"をしているみたいだ。
「ははっ」
馬鹿みたいだと思った。人間相手に子ども地味た遊びをするなんて。愚かにも程がある。
でも、それをやめる気は不思議と起こらない。
私はティアの額に口づけた。彼女は相変わらず私の気も知らないで静かに眠っている。
「おやすみ、ティア」
私はそう言って目を閉じた。
「私達のままごと」 了
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