上 下
51 / 149
第四章

第十一話 手紙の送り主の居場所

しおりを挟む
 告白を断るために、俺たちは手紙の解読に取り掛かる。

 手紙には、【ナゾナ~ゾ♡ 騎手が求めた時、それに応えてくれる場所ってどこナゾ? 17時までに来て欲しいナゾ? 伝えたいことがあるナゾ? 待っているナゾ?】と書かれてある。

「うーん、関係ない場所は省くと、騎手が求めた時に、それに応えてくれる場所に向かえば良いんだよね」

「アタイは考えるのは面倒臭い。考えるよりも行動する派だから、片っ端から探そうぜ。これだけの人数が居るんだ。人海戦術の方が早いと思う」

 クロが暗号文の解読をしようとすると、魚華ウオッカが行動した方が早いと言った。

「これだから魚華ウオッカバカあれなのよ。指定している場所が校舎内とは限らないわ。学園の敷地内を全て探そうとすると、時間以内に見つけ出すのは難しいわ。なら、手紙の内容を推理した方が早いに決まっている」

「何だと! アタイの考えが悪いって言うのかよ!」

 魚華ウオッカの案に対して、大和鮮赤ダイワスカーレットが反論する。しかし、彼女の言い方にトゲがあったからか、魚華ウオッカは声を荒げてしまった。

「別に悪いとは言っていないわよ。少しは頭を使えって言っているの」

「バカにしやがって! もう良い! こうなったら、アタイが先に見つけてやる! 大和鮮赤ダイワスカーレット、勝負だ! どっちが先に手紙の送り主を見つけるか競ってやる」

「別に良いわよ。どうせ先に見つけ出すのはあたしだから。どうせ魚華ウオッカには見つけられないでしょうから、その勝負に乗って上げるわ」

「言質取ったからな! アタイが先に見つけて後悔しても知らないからな! ブオン! ブオン! ブオオオン!」

 魚華ウオッカ大和鮮赤ダイワスカーレットが、どちらが先に手紙の送り主を見つけられるか、勝負をすると言いだし、魚華ウオッカは手首を回してバイクのアクセルを回す動作をすると、エンジン音を口に出しながら校舎の外へと走って行く。

魚華ウオッカには負けられないわ。早く手紙の内容を解読しましょう」

 大和鮮赤ダイワスカーレットが手紙の解読を始めるように促し、俺たちは話し合う。

「騎手が求める時、それに応えてくれる場所。うーん、どこだろうか」

「きっと、騎手って言うのが解読の鍵になっているんじゃない? みんなは、どんな時にどんな場所を求めているの?」

 クロがこの場にいる全員に質問をした。

「俺はハルウララがうざ絡みをしてくる時、彼女の居ない場所を求めるな」

『帝王酷いよ! 私は帝王と仲良くなりたいから話しかけているのに、それをうざ絡みって言うなんて!』

 クロの質問に答えた瞬間、俺の頭に体重をかけていたハルウララが、前足を使って頭を叩いてくる。

 けれど、ヌイグルミの状態なので、いくら叩かれても痛くはない。

「あたしはレース前だと、落ち着くために紅茶を飲むから、リラックスできるような空間を求めてしまうわね」

「私はファンの方からぁ、しつこく付き纏われる時があるのですぅ。そんな時にぃ、誰もいないようなぁ、静かな場所に逃げ込みたいと思いますぅ」

「因みに私は、気分が落ち込んだときに、楽しい気分になれるところを求めるかな?」

 それぞれが自分の求めている場所を言うが、大和鮮赤ダイワスカーレット明日屯麻茶无アストンマーチャンが共通するくらいだ。

 共通点がバラバラ。これでは、答えに辿り着きそうにないな。

 悩んでいると、明日屯麻茶无アストンマーチャンが小さく手を上げた。

「ちょっと提案があるのですぅ。聞いてもらえますぅ?」

「ああ、何だ? 言ってみてくれ」

「ありがとうございますぅ。ではぁ、言わせてもらいますねぇ。騎手が求めている時なのですがぁ、それを別の言葉に変換してみてはどうでしょうかぁ? 例えばぁ『時』を『物』にしてみるとかですぅ」

 明日屯麻茶无アストンマーチャンの意見に、それもありだなと思った。

 確かに、そのまま本文の意味で考えても答えに辿り着けそうにない。

 騎手が求めているものがある場所、そう考えると答えに辿り着けそうな気がするな。

「騎手が求めている物ってなると、レースに必要な道具とかかな? 鞭やゴーグルがある場所に行ってみる?」

「そうだな。一応まだ時間はあるし、用具室に行ってみるか」

「そうね、そうしましょう」

「ではぁ、用具室に向けてぇ、レッツゴーですねぇ」

 クロの言葉をヒントに、俺たちは鞭やゴーグルが置かれてある用具室へと向かった。

 用具室は1階にあるので、玄関から徒歩1分程で用具室へと辿り着く。

 この部屋の中にいるのであれば、扉に鍵はかかっていないはず。

 扉の取手を掴み、横にスライドさせようとする。だが、扉には鍵がかかっていたようで、いくら力を入れてもびくともしない。

「どうやら外れのようだな」

 再び振り出しに戻った。用具室ではないとすると、答えはどこなのだろうか?

『今度は騎手を変換してみたらどう? 騎手をモテない男に変換してみたら、求めているものは彼女、つまり、女子トイレか女子更衣室だよ』

「お前、本気で手紙の答えを探そうとはしていないだろう。どうして女の子が女子トイレや女子更衣室に呼び出すんだよ。それじゃ変態じゃないか。解読に飽きちゃったのなら、先に帰ってくれても良いんだぞ」

 こいつは何を言っているんだよ。

『チ、チ、チ。帝王はまだまだだね。私の言いたいことを理解できていないなんて。きっとこの手紙の送り主は、新堀シンボリ学園長の刺客なんだよ。帝王に手紙を送って、女子更衣室へと誘導させ、着替え中の女の子を覗く。すると帝王は覗き魔扱いされて、この学園を退学にさせられる。そうなると、帝王は霊馬学園に編入するしかないと言う訳さ』

 ハルウララが推理を披露した。

 あながち的外れではない回答に、驚きを隠せなかった。

 義父はどんな手を使ってでも、俺を自分の経営する学園に編入させようとしてきた。

 一応約束ではレースでの敗北が条件となっているが、義父のことだ。約束を守らずに、他の手段を用いってきた可能性は否定できない。

『どう? 私の灰色の脳細胞から導き出した答えは?』

「正直に言って驚いた。お前がそこまで考えられるとは」

『どうだ! 参ったか! 今度から私のことをシャーロックウララと呼ぶが良い!』

「ウララ仮面の次はシャーロックウララか。お前、次から次へとバリエーションを増やしてくるな」

 さて、あながち間違えではないハルウララの怖い回答だが、どうしたものか。もし、彼女の言ったことが本当に起きているとするのであれば、向かう訳にはいかない。

「なら、私たちで手分けして女子トイレを探してくるよ。私は1階のトイレを調べてみるね」

「そうね、なら、わたしは2階のトイレを調べてみるわ」

「ではぁ、私は3階と女子更衣室を調べてみますねぇ、奇跡の名馬さんがぁ、犯罪者となって退学させられるのはぁ、私も嫌ですぅ」

『みんな! 帝王を変態にしないためによろしくね!』

 ハルウララがお願いをすると、女性陣がそれぞれの持ち場へと向かって行く。

 さらっとディスられているような気がするのは、気のせいだろうか?

 それからしばらく待つと、クロが戻ってきた。彼女は無言で首を左右に振る。どうやら1階の女子トイレは誰もいなかったようだ。

 続いて2階を捜索していた大和鮮赤ダイワスカーレットも戻って来たが、結果は同じだった。そして最後に明日屯麻茶无アストンマーチャンが戻って来る。

「3階トイレにいましたぁ」

「何だって!」

 思わず驚きの声が出てしまった。

『ほら見たことか! シャーロックウララの灰色の脳細胞は凄いんだぞ!』

 まさか、義父が俺を変態に陥れようとしていたとは思わなかった。あの男、そこまでして、俺を自分の経営する学園に編入させたかったのか。

明日屯麻茶无アストンマーチャン、それで、手紙を送ったのは誰だったんだ?」

 学園のアイドルに訊ねてみる。すると、彼女は苦笑いを浮かべた。

「誤解を招く言い方をしてすみません。トイレに居たのは虎石さんですぅ。扉を叩いたらぁ『直ぐに出るので待っていてください。同意があったので、直ぐに向かいますから』って言っていました」

 またしても用を足している最中に、レースの同意があったのか。彼女も大変だな。

「念のために手紙のことを聞いてみましたがぁ、彼女は知らないと言っていましたぁ。因みに女子更衣室にはぁ、学園の制服を着ている丸善好マルゼンスキー学園長がいましたがぁ、私は何も見ていないフリをしましたぁ」

 何故に丸善好マルゼンスキー学園長が、女子の制服を着ていたんだ? まぁ、趣味は人それぞれだ。俺も聞かなかったことにしよう。

 流石に丸善好マルゼンスキー学園長が刺客な訳がない。そうなると、ハルウララの推理は外れていたことになる。

「ハルウララが変なことを言ったから、余計な時間を使ってしまったな」

「どうしてそんなことを言うのさ! 帝王が答えを求めていたから、私はそれに応えてあげようとして、一生懸命に考えたんだよ!」

 ハルウララが再び頭を叩いてきた。

「すまない。今のは半分冗談だ」

『半分は本気じゃないか! もう怒った! シャーロックウララはもうやめる! もし、私が死んで消えても、再召喚に応じてあげないのだからね』

「え、今なんて言った!」

 ハルウララの言葉に引っかかるものを感じ、もう一度言ってもらうようにお願いする。

『だから、再召喚には応じて上げないって言っているの! もし、さっきの言葉を訂正するって言うのなら、万が一死んで消えても、再召喚に応じて上げるよ』

 再召喚……騎手が求めて馬が応じる。

 彼女の言葉がヒントとなり、全てのピースが揃った。そして答えと言う名のパズルが完成する。

「手紙の送り主の居場所が分かった! あそこだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

処理中です...