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第四章

第九話 動き出す恋のオッズ

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 ハルウララと共に初夢特別を優勝した俺たちは、あの後仲直りをした。

 俺から謝るべきかと思っていたが、意外とハルウララの方から謝ってきたので、拍子抜けつつも、俺も謝罪の言葉を言って謝った。

 こうしてひとつの困難を乗り越えた俺たちだったが、安心してはいられない。次はいつ、新たな刺客が送り込まれるのか分からないからな。

 廊下を歩いていると、電子掲示板の前に人集ひとだかりができていた。

「ついに始まるな」

「ああ、今年はどんな名馬が出場して、桜の女王の称号を得るのか楽しみだな」

 聞こえてくる生徒たちの言葉を聞く限り、今週末に行われる桜花賞の話をしているのだろう。

 GIレースの桜花賞、牝馬のみ参加ができるレースだ。霊馬競馬となった今では、騎手の成績により選ばれた全国の騎手が集まり、桜の女王の座を賭けて競い合う。

 親父が何かしらの手段を用いた場合、俺が選ばれる可能性がある。そうなれば、ハルウララで桜花賞に挑むことになるが、このレースに出場することになった場合、勝率は10パーセントもないだろう。

 丸善好マルゼンスキー学園長も俺の事情は知っている。彼女が裏回しをして、俺が選ばれないようにしてくれることを祈るしかないな。

 思考を巡らせながら廊下を歩いていると、軽くパーマを当てられ、緩くウェーブがかけられている赤いロングヘアーの女の子が視界に入る。

 大和鮮赤ダイワスカーレットじゃないか。彼女も電子掲示板を見ているようだな。

「よぉ、可憐なる貴族」

 周囲には他の生徒もいるため、真名が暴かれないために、彼女の二つ名で声をかける。

「あ、東海帝王トウカイテイオウじゃない。今日は珍しく1人なのね」

 俺とは違い、大和鮮赤ダイワスカーレットは俺のことを真名で言う。内巣自然ナイスネイチャが俺の真名を暴いたことで、奇跡の名馬の真名は東海帝王トウカイテイオウだと学園中に広まってしまった。なので、無理に二つ名で語る必要性がなくなってしまったのだ。

「まるでいつもは誰かと連んでいるような言い方だな」

「だって、基本的にはコアラの親子のように、ハルウララが引っ付いていることが多いじゃない」

「コアラの親子って」

 苦笑いを浮かべながらも、彼女の言葉を聞いて確かにそうだなと思った。

 ハルウララは、珍しく寮の部屋でお留守番をすると言っていたので、今日は付いて来ていない。まぁ、いつもの気まぐれだと思うから、飽きたら俺のところに来るだろうとは思っている。

「もう直ぐ桜花賞だな、可憐なる貴族は出馬するんだろう?」

「どうかしらね。まぁ、本音を言えば出馬できるのならしたいけれど。そこは白羽の矢が立つかどうかだから、分からないわ。選ばれたら当然出馬するわよ。第67回桜花賞の桜の女王と契約している者としてね」

 ダイワスカーレットと契約しており、同じ名を持つ者として、選ばれたら出馬する意思を示す大和鮮赤ダイワスカーレット

 そう言えば、俺とレースで競い合って以来、彼女が走っているところを見たところがないな。彼女が桜花賞の出馬メンバーに選ばれると良いのだが。

東海帝王トウカイテイオウは、今から教室に向かうところなの?」

「ああ」

「そう、ちょうどあたしも教室に戻ろうと思っていたから、一緒に行きましょうか」

 大和鮮赤ダイワスカーレットと共に教室に向かい、廊下を歩いて教室の前に辿り着く。そして扉を開けると、机に座っていた黒髪セミロングの女の子と目が合う。

「帝王! ねぇ、これを見てよ!」

 クロが椅子から立ち上がると、俺たちのところに来た。そして自身のタブレットの画面を俺に見せる。

「恋の倍率オッズ占い?」

「そう、性格診断の一種で、相手の特徴を記入して質問に答えると、その人との相性が倍率オッズとして出てくるのよ。倍率が低い程相性が良くって、高いほど相性が悪いんだって! 今、学園の女の子たちの間で流行っているの!」

「へぇ、そうなんだ」

 本当に女の子はこういうのが好きだな。

「ねぇ、帝王もやってみてよ! 面白いよ!」

 目を輝かしてクロが俺にもやってみるように促してくる。恋は別として、クロは占いとかも好きだから、純粋に俺と誰かの倍率オッズを調べて楽しみたいのだろう。

「まぁ、授業開始までまだ時間があるし、別に良いが」

「本当! ならお願い!」

 クロが素早くタブレットを操作すると、俺に手渡してきた。画面には質問内容が書かれ、『はい』か『いいえ』で答えるシンプルな選択肢の質問が出されていた。

 質問に答えていき、最後の質問を答える。

「全部の質問に答えてやったぞ。後は診断結果を待つだけだ」

「ありがとう。返して」

 全ての質問に答えたと伝えると、クロは礼を言いつつ、タブレットを奪い取る感じで引ったくった。

 俺も診断結果が見てみたかったが。まぁ、良いか。

 診断結果が出るまでの間、クロはワクワクした感じで朗らかな笑みを浮かべていたが、暫くすると渋面を作り出した。

「そんな……倍率オッズが思っていたよりも高い。でも、倍率だから可能性は0ではないし、大穴狙いだと思えば」

 どうやら診断結果がお気に召さなかったようだ。

 クロはなんやかんやで、占い結果を信じるタイプだからな。

 さて、そろそろ授業が始まる時間だし、席に座るか。

 自分の席に向かおうとしたところで、大和鮮赤ダイワスカーレットが自身のタブレットを前に差し出す。彼女の持っているタブレットの画面は、先ほどと同じやつだった。

「こっちにも答えてみてよ」

「いや、もう直ぐ授業が始まるから」

「何? お祭り娘にはしてあげるのに、あたしのは答えてくれないの? 幼馴染にはして、クラスメートにはしないって差別じゃないかしら?」

「分かった。やるよ。やれば良いんだろう」

 赤い瞳で睨まれ、俺は折れると彼女のタブレットに表示してある質問に素早く答える。時間があまりなかったので、良く考えずに直感で答えた。

 全ての質問が終わると、クロ同様に俺の手からタブレットを奪い取る。

 すると、診断結果が出たのか、彼女は若干口の端を引き上げた。

「なぁ、倍率オッズはどれくらいだったんだ?」

「内緒よ。所詮は占いだから」

 答えを教えてもらえないと言う意地悪をされ、俺は若干の虚しさを感じる。

 2人はいったい誰と俺との相性を調べたのだろうか?
 





 その日の放課後、俺はクロと大和鮮赤ダイワスカーレット、そして偶然廊下で合った明日屯麻茶无アストンマーチャン魚華ウオッカと一緒に玄関へと向かった。

 自分の下駄箱の前に向かい、扉を開けると、中から一枚の封筒が落ちてきた。その封筒のフタの部分には、赤いハートのシールで止められている。

 これ、なんだ?
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