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第二章

第十四話 まさか、帝王ここまでの天才だったとは!

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 ~新堀シンボリ学園長視点~





 ワシは今、盛大に悩んでいた。

 現在、ワシが主催しているパーティーの真っ最中であるのだが、どいつもこいつも話題は勘当した帝王の話ばかりをしている。

 はっきり言って、この場に居づらい。だが、主催者である以上、パーティーから抜け出す訳にはいかないのだ。

 このパーティーには、学園に寄付をしてくださっている金持ちの社長たちも参加している。寄付を継続してもらうためにも、挨拶くらいはしておかなければならない。

 重い足取りの中、ワシは参加者たちに挨拶回りをした。

「どうですかな? みなさん? 楽しんでいただけておりますかな?」

「お、これは新堀シンボリ学園長ではないですか。いやー、先ほどもあなたのご子息の話をしていたところなのですよ。息子の帝王君は凄いですね。あのハルウララを2連勝させるなんて。まさに霊馬界の天才ここにありと言った感じです。父親として、鼻が高いのではないですか?」

「そ、そうだな。これもワシが指導した教育の結果だとは思っておる。だが、あのハルウララを連勝させたのは、やつ自身の努力もあってこそ成し遂げたことだ」

 参加客の言葉に返答するも、内心イライラが治らなかった。

 どうしてこのワシが勘当したやつのことを誉めなければならない。だが、寄付金を貰うためにも、今は耐えなければならないのも事実だ。

「それにしても、どうしてトレイセント学園なんかに入学させたのですか? 新堀シンボリ学園長の学園に入学するべきですのに?」

「あ、それは私も思っていました。普通なら、自身の経営する学園に入学させるものなのですが?」

「もはや、彼の有能さを見抜けず、追い出したなんてことはありませんよね?」

 参加客たちが疑いの眼差しを向けてきた。これはまずい。直ぐに言い訳を言わねば。

「そのように疑ってしまうのは致し方がないでしょう。実は、ワシの学園に入学させては、親としての甘さが出てしまうと思いましてな。そこで知己ちきであるトレイセント学園の学園長の丸善(マルゼンスキーに頼んで、あちらに入学させたのですよ。ワシの読み通り、彼女は帝王を素晴らしい霊馬騎手として育ててくれました」

 苦し紛れではあるが、即興で作り話をでっち上げた。

「なるほど、そのような理由でしたか。それなら納得です。ですが?」

「まだ何か?」

 寄付をしてくれている参加客が再び訝しんだ目でワシを見てきた。今度は何を言うつもりだ。

「どうして彼はこのパーティーに参加していないのですか? 私は彼と会うのが楽しみで、このパーティーに参加したのですよ。彼のサインをもらうためにね。それなのに、忙しいスケジュールの中、時間を作って足を運んだその結果が無駄足に終わるとは、こんな悲しいことはありません」

「そ、そうだったのですか。それは誠に申し訳ありませんでしたな。一応帝王には声をかけていたのですが、なに分忙しいようでして、時間を作ることができなったのですよ」

 帝王にはこのパーティーの話はしてはいないが、咄嗟に嘘を付いた。とにかく、この場を切り抜ければそれで良い。ワシがこのパーティーを開いたのも、寄付金の継続を約束させるためだ。それさえできれば、後のことはどうとでもできる。

 額から脂汗を流していると、1人の老紳士がこちらにやって来る。

「旦那様、ご歓談の最中に申し訳ありませんが、時間が来てしまいました。あと5分以内に此処から立ち去らなければ、次の予定に支障が出てしまいます」

 どうやら老紳士は寄付金をくれる金持ちの執事のようで、彼に時間がないことを告げた。

「何? もうそんな時間か。まだ10分程度の感覚であったよ。それでは皆さん、そして新堀シンボリ学園長、私はこれにて失礼いたします」

 男は軽く一礼をすると、踵を返した。

 良かった。どうにかこれで切り抜けられそうだ。

「あ、そうそう。これだけは言っておかなければ。もし、次のパーティーで帝王君が参加していないことが分かれば、今度からはトレイセイント学園に寄付をする。もし、帝王君がパーティーに参加していた暁には、寄付金を3割り増しにしよう。自身の経営している学園を潰したくなければ、努努ゆめゆめ忘れることなく」

 最後に捨て台詞を吐き捨て、金持ちの男は去って行った。

 くそう。まさか帝王が金のなる木だったとは! このままではまずい。あの男は寄付者の中でも一番高額な寄付をくれる。あの男から金を毟り取ることができなくなれば、ワシの学年の経営は右肩下がりとなってしまうだろう。

 とにかく、他の寄付者たちにも声をかけて、寄付の継続を約束してもらわなければ。

「それでは、ワシはこれにて失礼します。他にも挨拶を済ませておかなければならない人たちがおりますので」

 参加客たちに軽く頭を下げると、急いでその場から去った。そしてポケットからハンカチを取り出し、額の脂汗を拭う。

 そして他の寄付者たちにも声をかけたが、全員が同じ反応を示した。

 帝王を褒め、帝王が居ないことに落胆し、次のパーティーで帝王が居なければ寄付先を変えると忠告してきた。

 本当にこのままではまずい。早く対策を考えなければ。

 パーティーが終わり、1人会場の中に残ったワシは、思考を巡らせる。しかし、年老いたワシの頭では、良い策が思い浮かばなかった。

 仕方がない。不本意ではあるが、帝王を連れ戻そう。あやつは優しく、そしてお人好しな所がある。あの勘当は本気ではなかった。つい、頭に血が昇って追い出してしまったと言って謝罪をすれば、ワシの所に戻って来るはずだ。

 仮に無理だったとしても、望みのものをやると言えば、考えは変わるはず。金が欲しければ寄付金の一部を与え、女が欲しければ国中から美女を集め、与えてやれば良い。あいつも年頃の男だ。よこしまな考えのひとつやふたつは持っておるはず。このワシのように。

 戻って来たその後は、あいつを客寄せパンダにすれば良い。帝王さえ戻れば、この学園を維持することができる。

 誰にもワシの学園を潰させてたまるか。

「そうと決まれば、早速明日にでもトレイセント学園に向かうとしよう。待っていろよ、東海帝王トウカイテイオウ
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