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第三章

第九話 キングカルディアス討伐

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「キングカルディアス!」

 俺は古城跡地にいたモンスターの名を叫ぶ。

 依頼主のトレジャーハンターが目撃したのは、龍の王と呼ばれるキングカルディアスだったのか。

「リュシアンさん、どうします? 伝龍ではなかったですし、一度退きますか?」

「そうだな。戻ってエレーヌさんに報告しよう」

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォン!』

 戻って報告をすることを二人に伝えたその時、突然キングカルディアスが吠えた。振り返ってみると、龍の王が俺たちを見ている。

「見つかってしまったか。とにかく撤退だ!」

 この場から離れるように言うと、キングカルディアスは上空に向けて顔を上げる。そして口を大きく開けた。

 あのモーションはもしかして!

「ユリヤ、テレーゼ! 俺に捕まってくれ!」

「はい!」

「わかったわ」

 二人が俺にしがみ付いたのを確認して、全力でダッシュする。それと同時に、キングカルディアスは口からいくつもの火球を放ち、火の雨を降らせた。

 やつのあの攻撃は、遠くにいる敵を攻撃するもの。近づけば当たることはない。

 安全圏まで近づくと、俺は背後を見る。城下町跡地に繋がる橋の前は、火の海となっていた。

「退路を断たれちゃいました」

「どうするのリュシアンピグレット

「こうなったら仕方がない。キングカルディアスを討伐する!」

「「了解!」」

 龍の王を討伐することを決め、俺は思考を巡らせる。

 キングカルディアスは、凶暴なモンスターだ。ランクの低い二人は厳しい。ここはサポートに回ってもらった方がいいだろう。

「俺がキングカルディアスを攻撃する。二人はサポートをしてくれ」

「わかりました」

「ここでコンサートを開けってことね。任せて! 最高の歌声で元気にさせてあげる」

 二人にサポートを任せると、俺は鞘から太刀を抜いて構える。

キングカルディアスあなたにも、
ハンター界のヒット曲を聞かせてあげる。例えここが古城跡地であったとしても、あたしが歌えばそこはコンサート会場へと早変わり! あたしの歌声で魅入られなさい!」

 龍の王に接近すると、テレーゼが歌い出す。彼女の声を聞いた途端、不思議と力が湧き上がってくるのを感じた。

 きっと、テレーゼは戦闘に役立つ曲を選別して歌っている。彼女の歌声に合わせて攻撃するんだ。

 耳から入った音楽は脳へと伝わり、全身に影響を及ぼす。

 自律神経系に作用して、心拍や血圧が変化し、興奮や鎮静、リラクゼーションなどの効果がもたらされるからだ。

 同時に心の状態にも影響を与え、感情、知覚、認知を活性化させる。

 音楽そのものに力はないが、音楽を聴くことによって思い起こされる記憶や感情が身体に影響を与える。

 まずはやつの足元に潜り込む。

 普段よりも身体が軽く、足が早いような気がする。

 音楽のお陰で身体能力がいつも以上に上がっているな。

 キングカルディアスの足元に潜り込み、やつの足を切り付けた。

 斬られた場所から鮮血が噴き出すも、転ばせることができない。

「足も頑丈か。龍の王の名は伊達ではないな」

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 キングカルディアスが吠えると、やつは翼を羽ばたかせて風を起こしながら後方に下がる。

 風圧に押された俺は、その場で尻餅をついてしまう。

 まったく、なんて風圧の強さなんだよ。これじゃ接近するのも難しいじゃないか。

「だけど、これくらいで怯む訳にはいかない」

 ここは古城跡地だ。建物の名残であるレンガの壁がまだ残っている。これを風避けにしながら近付く。

 レンガの壁を上手く使って接近すると、やつは翼で強風を作るのをやめ、地面に着地する。そして翼を大きく広げて口を開けた。このモーションはクイーンフレイヤーと同じ。

 龍の王の口から火球が放たれ、俺は横に飛び退く。火球は俺が立っていた場所を通過すると地面に当たり、周辺を燃やした。

 攻撃が外れると、やつはもう一度口を大きく開ける。

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 口を開けたので、もう一度火球が来ると思っていた。だが、キングカルディアスは二本の足で走り、俺に突っ込んで来る。

「突進か」

 早い。普通に回避しては当たってしまう。ここはギリギリまで引き寄せて、倒れるように跳んだ方が回避する可能性が高い。

 ギリギリまで引き寄せ、横に倒れるようにして跳ぶ。

 体に衝撃が来ない。上手く敵の体当たりを回避することができたみたいだ。

 俺は起き上がるとモンスターの行方を確認する。やつは足を滑らせたようで、地面に倒れていた。

 もしかして最初に足を攻撃したのが効いたのか。

 どっちにしろ今が攻撃のチャンスだ!

「ユリヤ! 頼んだ!」

「任せてください!」

 ユリヤがキングカルディアスに接近すると、二つの短剣を使って交互に切り裂く。

 俺も龍の王に近づき、やつの尻尾を攻撃する。

 竜種は尻尾でも攻撃してくるからな。仮に切断することができれば、リーチを短くすることができる。

 尻尾に刃が当たり、鱗を切り裂いて血が噴き出す。

「弾かれない。これならキングカルディアスの尻尾を切断することができる」

 部位破壊を狙い、何度も尻尾を攻撃する。しかし、ダメージを与えても尻尾の切断には至らなかった。

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 とうとう起き上がり、やつは咆哮をあげる。

「口から炎が漏れている。憤怒状態に入った! ユリヤは離れて!」

「はい!」

 ユリヤに離れるように伝える。

リュシアンピグレット! 耳栓を付けて! ユリヤは耳を塞ぐ!」

 歌を歌い終わったようで、テレーゼが音を遮るように言う。

 テレーゼ、もしかして音波攻撃をするのか。

「ユリヤ、耳を塞ぐんだ!」

「わかりました」

 ポーチから耳栓を取り出して耳に嵌めると、全ての音を遮って無音になる。

 その瞬間、キングカルディアスの様子が変わった。

 その場でボーと立ち止まり、白目をむいていた。

 もしかして攻撃のチャンス!

 龍の王に近づき、やつの尻尾に太刀を思いっきり振り下ろす。

 今度は上手く切れ目同士が繋がってくれたようで、切断することができた。

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 尻尾を斬られたことで全身に痛みが走り、我に返ったようだ。

 キングカルディアスは咆哮をあげるも、その場で転倒する。

 まだ俺たちの攻撃するターンは終わっていない。

 今度は背中に周り、やつの翼を攻撃する。翼は尻尾ほど固くはなく、容易に傷つけることができた。

「翼の部位破壊完了! これでやつは飛ぶことはできない」

「私の方も爪を破壊しました!」

 よし、ここまで部位破壊が順調に進んだのなら、やつは息絶え絶えとなっているはずだ。

 龍の王が起き上がると、やつは足を引き摺りながら一番エリアの方に向かおうとする。

 だけどその先にはテレーゼがいる。

「あら、退席されるのかしら? だけどダメよ。まだアンコールがあるのですもの。アー!」

 テレーゼが声を上げると、キングカルディアスは再び転倒する。

「逃すか! 悪いがお前はここで倒させてもらう!」

 龍の王に近づき、跳躍して太刀をモンスターの背中に突き刺す。

『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォン!』

 やつは断末魔の声を上げると、それから動かなくなった。

「よし、キングカルディアス討伐完了だ!」

「リュシアンさん! やりましたね!」

「さすがあたしのリュシアンピグレット! あたしの歌に合わせて戦ってくれていたし、やっぱりあたしたち最高に相性がいいわ!」

 キングカルディアスを討伐すると、離れていた二人が駆け寄って来る。

「二人ともお疲れ。とりあえずは戻ってこの事をエレーヌさんに報告しよう」

 俺たちは手分けしてモンスターの素材を剥ぎ取ると、ギルドへと帰って行く。










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