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第三章

第八話 伝龍の調査

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 俺とユリヤは、ドスブルボーアの捕獲任務を終えてギルドに帰った。しかし中はいつも以上に騒々しく、不穏な空気が漂っている。

「これはいったいどうしたのでしょうか?」

「分からない。とにかくエレーヌさんに任務成功の報告をしてから、事情を聞こう」

 ギルドマスター室に向かうと、ちょうど扉が開かれて中からクラシカルストレートの髪型の女性が出てきた。

「エレーヌさん。ちょうど良かった」

「あら、リュシアン君にユリヤ。帰って来たのね」

「はい。これが依頼の薬草です」

「ありがとう。後で依頼者に渡しておくわね」

 エレーヌさんは笑みを浮かべるが、なんだか無理やり表情を作っているように見えた。

「あのう、何かあったのですか? ギルド内が普段以上に慌ただしいのですが」

 訊ねると、彼女は難しい顔をして俺を見る。

「それがね、まだ確定している訳ではないけど、古城跡地に伝龍の目撃情報があったのよ」

「「で、伝龍!」」

 俺とユリヤは同時に声を上げて言葉がハモる。

 伝龍だって、それならこの慌ただしいのにも納得がいく。

 伝龍は別名古龍とも言われ、大昔からこの世界に住んでいるモンスターの一種だ。長年生きていて経験豊富であり、並みのモンスターよりも強い。

 高ランクハンターが十人以上いて、初めて互角に戦える相手だ。だけど普段はなかなか人前には姿を見せず、一度も姿を見ないで人生を終える人が大半だ。

 まさか俺の人生で伝龍の目撃情報が聞けるなんて、それだけでもレアなケースだ。

「まぁ、正確性はないのよ。目撃した人もモンスターを怖がって遠目でしか見ていなかったらしいから。一応討伐の依頼を受けているわ」

 エレーヌさんが胸の谷間に腕を突っ込むと、中から一枚の紙を取り出す。

 どうしてそんなところにしまっている!

 心の中でツッコミを入れつつも、俺は依頼書を見た。

 えーと、依頼者はなんて書いてあるんだ?

『俺は世界中を旅するトレジャーハンターだ。今日もお宝を探して古城跡地に来たのだが、モンスターがいやがった。四足歩行に背中から生えている翼、それに長い首と尻尾! あれは間違いなく伝龍に違いない。だって古城跡地に住んでいるモンスターなんだぞ! 伝龍以外に何があるって言うんだ! 頼むハンター! 俺が安全にお宝を探せるように、伝龍を倒してくれ!』

 依頼者のコメントを読み、俺は苦笑いを浮かべた。

 いやいや、この特徴って竜種なら全て当て嵌まるぞ。これだけで伝龍だと決めつけるのは早計すぎないか?

「本当に伝龍なのか怪しいですね」

「そうなのよね。でも、依頼を受けた以上はやらないといけないから困っているのよ。もし本当に伝龍だったのなら、ここに所属しているハンター全員で向かう必要があるから」

 エレーヌさんは頬に手を当てると小さく息を吐く。

「なら、俺が調査に行きましょうか? 討伐をしないでモンスターの正体を確認するだけなら、危険度はグッと下がります。もし、本当に伝龍だったのなら直ぐに引き返して報告すれば、今後の対策も取れるはずです」

「確かに、このギルドで一番のハンターであるリュシアン君なら、一人でも調査はできそうね。お願いできるかしら?」

「任せてください!」

「なら、私も行きます!」

 調査任務を受けると、ユリヤも一緒に行きたいと言い出す。

「足手纏いにはなりません。これでも一応Bランクハンターです。ちゃんと引き際は心得ています」

 ユリヤが真剣な表情で俺を見つめて来る。

 確かにユリヤはちゃんと自分の実力がわかっている。ドスブルボーアから逃げきれないことを正直に言ってくれたし、危なくなったら自分から引いてくれるだろう。

「わかった。一緒に行こう。だけど危険だと判断したら、大人しく身を引くんだ」

「はい!」

「その話聞かせてもらったわ! あたしもその調査任務に参加する!」

 後方から声が聞こえ、振り返る。すると内巻きモテロングの女の子がこちらに向かって歩いて来る。

「テレーゼ、依頼は終わったの?」

「ほら、依頼の品であるアルカイト鉱石」

 テレーゼは手に持っているアルカイト鉱石をエレーヌさんに渡す。

「せっかくリュシアンピグレットと一緒に依頼を受けられる機会が来たのよ。このチャンスを逃す理由わけはないわ。もちろんユリヤがよくて、あたしはダメなんて言わないわよね?」

 世界の歌姫が挑発的な眼差しを俺に向けてくる。

 いや、お前が自分の欲求を満たしたいだけじゃないか。まぁ、テレーゼらしいと言えばらしいが。

「わかったよ。だけどユリヤと一緒で、危険だと判断したら逃げてくれよ」

「大丈夫よ。もし本当に危険になったらリュシアンピグレットが守ってくれるもの! ね!」

 片目を閉じてテレーゼは俺にウインクする。

 本当に彼女と居ると、時々調子が狂わされる。

「安心してください。テレーゼさんが言うことを聞かなかたときは、私が引き摺ってでも連れて行きますので」

 自身の胸を軽く叩き、ユリヤは自信満々な態度で言う。

「それは助かる。その時は頼んだ」

「はい!」

「ちょっと、本当に引き摺らないわよね。歌姫の体に傷が付いたら、次のコンサートが大変になるじゃない」

「ケガでコンサートを中止にしたくなければ、引き際を弁えるんだ」

「わかったわよ」

 渋々とテレーゼが承諾すると、俺たちはエレーヌさんに顔を向ける。

「それでは今から向かいます」

「ええ、お願いするわね。出発前にポーチの中身を確認してね。補充するアイテムがあるのなら、事前に補充をしておくのよ。武器の切れ味のチェックも前もってしておくのよ。えーと、それから……」

 毎回恒例ではあるけど、またエレーヌさんのお節介が始まったな。まぁ、彼女なりに心配してくれているからこそ、いつも言ってくれているのだろうけど。

「わかっています。出発前に確認しますので安心してください。ユリヤ、テレーゼ行こう」

 ギルドマスターからの言葉を遮り、俺たちはこの場から離れる。

 言われたとおりに準備を整え、ギルドを出ると古城跡に向かった。
 




 馬車で揺られること約二時間、俺たちは古城跡に辿り着いた。

「私、初めて古城跡に来ましたけど、結構広いですね」

「これだけ広いのなら、多くのブタども呼んでコンサートを開くこともできそうね」

 二人が感想を漏らしている中、俺は周辺を見る。

 このエリアには、謎のモンスターは見当たらないな。二番エリアか?

 古城跡地のエリアは二つに分けられている。俺たちがいる城下町があったとされる一番エリア、そして古城があったとされる二番エリアだ。

「二番エリアに居る可能性が高いな。行こう」

 俺たちはボロボロの橋を渡って二番エリアに移動した。

 すると、頭の突起物が王冠のようになっている翼竜が、首を左右に振りながら辺りを警戒している姿が見えた。

「キングカルディアス!」










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