最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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秩序の牢獄編

うつくしいまち

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その場所は"秩序"という名で閉鎖された牢獄である。

なんの悩みも不安も抱くことはない。

ただ何も考えずに、時の流れに身を任せて過ごしてさえいれば生涯は安泰であろう。

精巧に作られし秩序を乱す者は何人たりとも許されはしない。

なぜなら、この牢獄は誰もが望む平和なのだから。


____________



ナイト・ガイのメンバーは北の砦ベンツォードを出発してコーブライドという町を目指していた。

雪が降り続く中、ひたすらに歩き続ける3人。

数日ほど歩くと雪の勢いは消え、地面は茶色の肌を見せ始めていた。

会話はほとんど無く、ただただ無言の旅であった。
なにせ仲間を救うために赴いたヨルデアンでは成果は得られず。
ローラが死亡したという事実を受け入れるしかなかった。

ここまでは順調な旅だったが、毎回上手くいくわけではない。
そんな教訓を仲間の死をもって味わうことになるとは思わなかったのだ。

だがガイとメイアは立ち止まるわけにはいかなかった。
大切な家族である兄が助けを求めている。
様々な感情はあったが、2人は前に進むしかなった。


到着まであと1日ほどのところで、ちょうど荷馬車が通りかかった。
コーブライドに運ぶ食物と一緒ではあったが、御者が快く乗せてくれたことによって疲労を軽減することができた。

「あの町に冒険者が行くなんて珍しいね」

御者が不意に言った。
眉を顰めてガイが聞き返す。

「なんでだ?冒険者ギルドはあるんだろ?」

「あるよ。でも冒険者がやるような仕事があるかどうか……」

「どういう意味だよ」

「だってコーブライド周辺は魔物もあまり出ないし、町も平和だしね」

「町が平和?」

ガイとメイアは数日前にアッシュから聞いた話を思い出す。

"コーブライドは治安が悪い"

間違いなくそう言ったし、クロードもそのことは知っていた。

ガイはさらに身を乗り出して聞く。

「治安が悪いって聞いたけどな。確か冒険者ギルドと騎士団の仲が悪いって」

「それは数ヶ月前の話さ。世代交代のおかげかな」

「世代交代?」

「ああ。この数ヶ月の間にギルドマスターも騎士団長もいなくなったからさ。ついでに領主も変わったし」

クロードとメイアは顔を見合わせていた。
たった数ヶ月の間にギルドマスターと騎士団団長、さらに領主も変わったというのだ。

メイアがたまらず口を開く。

「いなくなったとはどういうことでしょうか?」

「行方不明になったんだよ」

「え?」

「まぁ、でもそのおかげで"美しい街"になったからよかったんじゃないかな」

御者はニコニコしながら言った。
クロードは眉を顰め、ガイとメイアは首を傾げる。
この短期間のあいだに一体どんな町になったというのだろうか?

だが、それ以上に御者の言動が妙に薄気味悪かった。


____________



陽がちょうど真上に来る頃、ナイト・ガイのメンバーは荷馬車と共にコーブライドに到着した。

コーブライドの町は高く黒い石造りの壁に覆われており強固に見える。
高さは20メートルはあろうか、町の中は外からだと全く見えなかった。

御者に促されて3人は馬車の荷台を降りる。
石造りの壁に埋め込まれる形の門扉が開き、馬車が中へと消えていった。

「僕たちも行こうか」

「ああ」

意を決して……と表現してもいい、息を呑むような緊張感の中で3人は門扉へと向かう。

黒鉄でできた扉の中には銀色の鎧を身に纏った騎士らしき男が少しだけ顔を出している。

「冒険者か。君たちランクは?」

「Cランクだが……」

「立ち去れ」

騎士の無愛想な対応にガイは頭に血が昇りそうになる。
クロードが察して前に出ると懐をゴソゴソと弄って手紙を出した。

「まだ話は終わってない。これを」

「なんだこれは」

「読めばわかる」

騎士は手紙を奪い取るようにして受け取ると、中身を見る。
するとみるみる顔色を変えて、最後には素早く道を開けた。

「し、失礼しました。どうぞ」

「お勤め、ご苦労様」

クロードはニヤリと笑い、騎士の横を通り過ぎて町の中へと入る。
ガイとメイアもそれに続いた。

「なんだよ、どこが平和なんだ?思いっきり嫌な顔してたじゃないか」

「やっぱりアッシュ団長が言ってたことは本当だったのかしら?」

「さぁ、どうだろうね。とにかくギルドへ行ってみよう」

ガイはため息混じりにメイアと共にクロードに続いた。
周囲の風景も少し見て歩くが、妙な違和感があった。

「綺麗な街……だな」

「ええ。建物がみんな綺麗」

芸術の町して知られる大都市フィラ・ルクスを超えるのではないかというほどだった。
どの家屋も屋根や外壁には傷一つ無く、さらには道端に少しのゴミすらも落ちてはいない。

そして道ゆく人々は、みながニコニコと幸せそうな顔をしており、すれ違い様の挨拶は欠かさなようだ。

「聞いてた話と違うじゃないか。やっぱり平和なんじゃないか?」

「私にもそう見える。治安が悪いどころか、レベルの高い秩序が保たれているわね」

2人は関心していた。
今まで見てきた町が比にならないほど綺麗で平和なものだったからだ。

しかし先頭を進むクロードだけは鋭い視線を周囲に向けていた。

___________


冒険者ギルドも木造の二階建てで綺麗な作りだった。
古い建物ではあったが補修の跡が目立たないほどの仕上がり。
白を基調としてはいるが、ブラウンも入り混じるモダンな色彩であった。

「入ろか」

感嘆の声を上げるメイアをよそにクロードはギルドへと入っていた。
ガイとメイアは慌ててあとに続く。


ギルド内も綺麗に整備されていた。
正面にはカウンターが二つだけ並び、受付に女性が2人いる。
真横のテーブル席の方で冒険者と見られる数人が談笑し、向かい合う依頼書が貼られた掲示板の前には誰もいない。

3人は掲示板まで進んだ。
見ると依頼書が縦5枚、横5枚と綺麗に正方形を描くように貼られている。

さらに依頼書に目をやるとガイとメイアは唖然とした。

「"迷い猫探し"」

「"家の棚を動かしてほしい"」

その他にも、

"1日だけ子供の面倒を見てほしい"
"家の食材の買い出し"
"レストランが人手不足のため応援"

など、他愛もない内容の依頼が並んでおり、その仕事の軽さからか報酬は安いものだ。

「どうなってる?」

「魔物討伐とかの依頼は無いのかよ」

そんな会話をしていると談笑していた冒険者の1人がガイたちに近づいた。
気配を感じた3人が振り向くと、そこにいたのは屈強な体つきをした男だった。

「どうした?この街のギルドの依頼書に文句でもあるのか?」

「文句ってほどではないけど……他の町とは違うっていうか。こんな依頼受けてもなぁ」

「別に違いなぞないだろう。依頼は依頼だ。お前は"大きい"、"小さい"で依頼を見ているのか?」

ガイはその言葉を聞いてハッとした。
一番最初の町で依頼を受けた時のことだ。
単なる薬草採取の依頼ではあったが、どこかで必要としている人がいたのは確かだ。

今の自分は、あの時にヤジを飛ばした冒険者たちと一緒になっていたことに気づいた。

「そう……だな」

屈強な冒険者の言う通りだ。
すると、その背後からもう1人、若い痩せた冒険者が顔を出した。

ゴールドの花の模様が刻まれた黒の鎧、黒のマントを羽織った男だ。
髪の色はブラウンで肩まで伸びるロングヘア。
腰には細剣を差しており、ガイが見るになかなかの闘気を放っている。

「まぁまぁ、そこまでにしておこうか。若いんだからまだまだ学ぶことは多いからね」

「デュランさんがそう言うのであれば」

デュランと呼ばれた男はニコニコとした笑顔を浮かべてガイ、メイア、クロードと視線を移した。

「私はデュラン。パーティの名は"グレート・スレイヴ"というんだ。君たちは?」

「僕たちはナイト・ガイ。この街は初めてでね。リーダーが失礼をした」

「ナイト……ガイ……」

「どうかしたのか?」

「いや、何も」

デュランは笑みを崩すことはなかった。

「それで、この街に何用なのかな?」

「少し稼ぎに来たのと、ギルドマスターに会いにね」

「そうか……なら受付に行くといい。彼女が案内をしてくれるだろうから」

「ああ。そうするよ」

「私たちは先に行くよ。また会える事を楽しみにしている」

「そうだな」

デュランは笑顔で手を差し出してきた。
応えるようにクロードがその手を取って握手する。
それが終わると数人の冒険者たちはデュランと共にギルドを出て行った。

「さて色々と疑問は残るが、まずはギルドマスターに会おうか」

「そうですね」

クロードとメイアは受付へ向かう。
続くよにしてガイも歩みを進めるが、その足取りは重かった。
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