最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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フレイム・ビースト編

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北の砦 ベンツォード


この朝も異様に寒かった。
風の音もなく静かに雪が降っているが、少し先でも見えないほどの量が舞っている。

ガイとメイア、クロードの3人はアッシュの自室にいた。

相変わらず部屋は殺風景な色合い。
石造りということと、現在の天候が相まって薄暗く感じる。

部屋は正面の壁に四角く穴が空き、そこにガラス窓を嵌め込んでいる作り。
その前には大きめの机が置かれ、金髪の男が席に座る。
入り口の脇には大きな全身を写す"鏡"が置かれているが、恐らく前団長の物だと思われた。

「僕たちは出発するよ」

ブラック・ラビット壊滅から一週間ほど。
ようやくナイト・ガイのメンバーは最終目的地のちょうど南に位置するコーブライドを目指す。

「世話になった。俺はローゼルちゃんの回復を待ってから、ここを出るよ」

「王都に向かうのかい?」

「ああ。セリーナの護送もあるしな。この砦はヨルデアンの魔物も減ってるようだから大丈夫だろう」

「第三騎士団はどうなる?」

「さぁな。決めるのは俺じゃない。俺はただ上の意向に従うまでさ」

ため息混じりにアッシュが言った。
王宮騎士団は第一騎士団長であるアデルバート・アドルヴが実権を握っている。
全ての騎士の長であり憧れの存在だ。

「手紙は書いておいたよ。コーブライドの門番へとギルドマスター宛の二通だ」

「すまない」

「構わんさ。だが気をつけろよ。コーブライドは特に騎士団とギルドの仲が悪い。さらに治安の悪さも他の町と違って段違いだからな」

そう言いつつアッシュは手紙を机に並べた。
それをクロードが前に出て受け取る。
一方、ガイとメイアは眉を顰めていた。
今まで旅をしてきて警戒するほどの治安の悪い町に行くのは初めてだろう。

「それは聞いたことがある。だが、このパーティなら心配ないさ」

「確かにそうだな」

アッシュは笑みを浮かべた。
確かにブラック・ラビットのメンバーを倒しただけでなく、世界最強クラスの波動使いであるゾルア・ガウスまで倒してしまうほどなのだから心配などはいらない。

「では行くよ」

メイアはアッシュに深々と頭を下げる。
一方、ガイはすぐに眼を逸らした。
このアッシュという男のことは今でも嫌いだったからだ。
ヨルデアンでの共闘もあるが、それでも好きにはなれない。
素直に挨拶などできるはずもなかった。

ガイは入り口付近に立っていたため、ふと置かれた鏡に逸らした視線がいった。
そこには自分自身の姿が映っているが、凄まじい量の闘気が出ていることがわかる。

"こんなに自分は成長していたのか"

旅に出てから数ヶ月は経っているだろうが、この短期間で大きな力を手に入れている気がした。

さらにガイの横に立つメイアの姿も鏡に映った。
妹であるメイアの姿をまじまじと見ることなどなかったため、なぜか新鮮な気がした。

「え……?」

ガイが目を細めて鏡を凝視した瞬間、突然に声をかけられた。

「そういえば少年」

「あ……ああ、なんだよ」

すぐにアッシュの方を見た。
相変わらずのニヤけ顔かと思ったが、一転して深刻そうな表情を浮かべていた。

「仲間のことは残念だった。俺が引き止めたばっかりに」

「あ、ああ」

アッシュの言葉で一気に現実に引き戻された気がした。
まさかあのローラが死んだなんて思いたくもない。
だが組織長であるゾルア・ガウスが言ったとあれば事実なのだろう。

「気休めかもしれないが、何か困ったことがあればいつでも言ってくれ。俺は必ず、お前の力になる」

「……」

ガイは何も言い返さずに部屋を出た。

この件は誰のせいでもない。
それでも誰かのせいにしないと思いは晴れることはなかった。

外は雪が降り続く。

ガイとメイアは仲間を失った悲しみの中でコーブライドを目指すこととなった。



フレイム・ビースト編 完
__________________





コーブライド


雲が町全体を覆っていた。

月明かりが雲の切れ目から顔を出して、ある一点だけを照らす。

それは街の中央に位置する石造りの時計塔だ。
時計塔のてっぺんには鐘があり、定期的に時刻を知らせる。

鐘の下には2つの影があった。

ひとつは正座して時計塔の真下を見下ろす形だった。

「やめてくれ……頼む」

正座した男は涙を浮かべて懇願する。
その言葉は背後に立つ、もう一つの影に向けられたものだった。

「この街はこんなに綺麗なんだ。私のお気に入りはね。このちょうど真下の噴水の近くにある武具屋さ。店内の独特な匂いが好きなんだよ。なんて言うのかな?こう、鼻を刺激する鉄の香りがたまらないんだ」

「お願いです……」

「君はこの街が好きかい?」

「好きです……好きです」

「じゃあ、なんで逃げ出すような真似をしたのかな?」

「そ、それは……」

石畳に座する男の震えが強くなる。
このまま自分が迎える結末を知ってのことだ。

「なにか、やましいことでもあるのかな?」

背後にいる者が片膝をついてしゃがみ込み、男の両肩に優しく手をのせた。
男の着用する鎧が少しづつギシギシと音を立てはじめる。

「この街は生まれ変わったんだ。"秩序ある美しい街"にね。君にもわかるだろ?」

「わ、わかります」

「この秩序を乱す者は何人なんぴとたりとも許すことはできない」

「許し……」

その瞬間、男の体が宙を舞った。
空中で手足をバタつかせ、一気に急降下して地面に激突する。

波動なんて発動の余地もない。
ただ数度の呼吸だけで、その場所に到達してしまうからだ。

「この街にはね、秩序造物主オーダー・クリエイターたる私がいるんだ……好き勝手な真似はさせないよ」

時計は深夜を指した。
空を覆う雲は意志を持っているかのように月を隠す。

コーブライドの街は再び暗闇に包まれた。
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