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フレイム・ビースト編
スターブレイカー
しおりを挟む夕暮れの刻。
黒い建物を中心として広がる熱波によって、雪原の大地は蒸発して白い煙を巻き上げる。
炎が巨大な柱を作るように天まで伸び、そこから射出された5本の炎剣が等間隔に円を描くようにして地面に突き刺さった。
炎剣が作り出す円形のフィールド内で倒れるアッシュ、メイア、ローゼルの3人。
さらにゾルアが立つが、炎柱から凄まじいスピードで飛び出してきた赤い閃光の攻撃によって吹き飛ばされて地面を転がる。
ゾルアは受け身を取って片膝をついた。
サングラス越しの鋭い眼光は"赤い閃光"の正体を凝視した。
炎剣のフィールドは数十メートル先だが、赤い閃光の正体が"少年"であることはわかる。
「やはり……ワイルド・ナインだったか」
呟くゾルアは目を細めて少年を見る。
ガイと言ったか、この少年から放たれる熱量が空間を歪めていることはサングラス越しであっても伝わるほどだった。
さらにガイが前に構える短剣に視線を移す。
S字型の銀色の短剣だが、持ち手も刃のようになっているためか、ガイの手のひらから血が見える。
しかし、なぜか血は短剣に吸収されているようだった。
「ゼクスのロイヤル・フォース……」
自然に笑みを溢したゾルア。
ある意味、苦労して入手した武具ではあったが今はそんなことはどうでもいい。
ゾルアにとっては相手が強者であることに対しての高揚のほうが強かった。
まずは5本の地面に突き刺さった炎剣が一体どんな能力を持っているのか不明であるため、それを確かめる。
そして自分が本気を出すに値する相手なのかどうか見極める必要があった。
ゾルアは地面に手のひらを置く。
「まずは小手調べだ。焔魔三獣・"音姫ノ焔狼"」
熱波が広がり、炎がゾルアの正面に収束していく。
そして炎は狼の姿を形取った。
「"俺の炎"と"貴様の炎"……どちらが熱いか力比べといこう」
このゾルアの言葉に反応して炎狼は天を見上げて甲高く吠える。
炎狼の声は瞬く間に周囲に響き渡った。
"音"がガイに到着する寸前、地面に突き刺さった炎剣のフィールドにぶつかる。
すると凄まじい業火が見え、それがフィールドに当たった瞬間にV字に割れた。
割れた炎は数キロ先まで直線上を燃やし尽くす。
「ありえん……炎狼の攻撃を防ぐだと?」
驚愕するゾルア。
なにせこの炎狼の遠吠えは音が聞こえた者を燃やすという無差別攻撃。
さらに炎の実態を隠しているため、攻撃を受ける瞬間すら気づくことができないというもので、到底、回避することができない攻撃なのだ。
炎の勢いが止まる。
ゾルアは炎剣のフィールド内にいるガイや倒れた3人を見た。
みなが完全に無傷で燃えた者は1人としていない。
だが、それ以上に気になったのはメイアとローゼルだった。
「おいおい、冗談だろ……傷を癒しているのか?」
メイアとローゼルが負った火傷の跡が消えている。
ここでようやくガイが口を開いた。
「俺はパーティのみんなを守りたかったんだ。前に出て攻撃ばっかだとそれはできない。だから次はみんなを守れる力、そんな"炎"を願った」
「それがその炎の剣の能力か」
「"炎天五剣"のスキルは絶対防御フィールド。さらに相手の波動を吸収して癒しの力に変換する」
「面白い……だが、くだらんな」
「なんだと?」
「弱い人間なぞ放っておけ。なぜ手を差し伸べる?どうせ助けても早死にするだけだ」
「貴様……」
ガイが鋭い眼光がゾルアを捉える。
だがそんな瞳を見たとしてもゾルアは一歩も引かなかった。
「仲間なんてもを信用する方が馬鹿なのさ。どうせ最後は裏切る。自分の利益を優先してな」
「俺はそれでも最後まで仲間を守る」
「そうかい。だが……お前はこの先、必ず後悔することになる。なにせ、お前のパーティに"死神"が取り憑いてるからな」
「どういう意味だ?」
「俺に勝てたら教えてやるよ。と言っても、俺に勝つにはそのフィールドから出ないとダメなんじゃないか?」
ニヤリと笑うゾルアが腕を正面に翳すと炎狼の形が崩れて無くなる。
今度は炎がゾルアの腕に収束していき炎鳥に姿を変えた。
ガイは腰を落として短剣を逆手に持ち替える。
そして体勢を低く保ったまま地面に短剣を擦り付けるようにして斬り上げた。
「"サラマンダー"」
地面を伝って炎が一直線にゾルアへと向かった。
炎剣を越え、数秒経たずして炎は到達する。
しかしゾルアは地面を蹴って宙へと逃げた。
通り過ぎた炎は曲がって戻るとゾルアの着地を狙うようだ。
「無駄さ。見たところ、その炎は空中には来れないようだから、しばらく俺はここにいるよ」
腕に乗った炎鳥が羽ばたくと、さらにゾルアは空中へと昇る。
そして炎鳥は閉じられた目を開いた。
これでもしガイがゾルアを直視することがあれば、どこにいようとも炎が襲う。
遠距離攻撃のサラマンダーが無効だとするならゾルアを仕留めるにはフィールド外へ出る必要がある。
そうなれば炎剣の防御は無効だ。
炎狼や炎鳥の攻撃力は同じであるから、どちらにせよ炎剣のフィールドで防がれてしまう。
なら無理に攻めるのではなく、相手の行動を待てばいいだけの話だ。
空中にいるゾルアが地上を見る。
だがそこにはガイはいなかった。
「やはり動いたな」
笑みを浮かべるゾルアは自分より空中に気配を感じて見上げた。
ガイは炎鳥から放たれた業火を切り裂くようにして真っ直ぐに急行落下する。
「な、なぜ燃えない!!」
「"瞬炎空舞"」
驚愕したゾルアに対して渾身の一撃。
肩へ向けて一閃の斬撃だった。
空中にいたゾルアは勢いよく地面に叩きつけれる。
「なんということだ……傷を被るなど……何百年ぶりか」
なんとか体を起こしたゾルアは正面を見る。
数メートル先にはガイが立っているが、その体の周りを炎で作られた5本の剣がゆっくりと回転していた。
「舐めてたよ。まさかここまでやるとは」
「降参するなら今だ」
「冗談だろ?俺の炎にはまだ上がある。それを見せずして降参なぞありえんだろ」
「なんだと」
「俺は本当は殴り合うのが好きなんだ。だが、それを馬鹿正直に波動でやってしまったら相手は一瞬で灰になっちまうからな。ある程度は選別しないと可哀想だろ?」
そう言ってゆっくり立ち上がるゾルアの体から放たれる熱量は今までのものとは違った。
「ガイと言ったか。お前は俺の炎を見せるに値する強者。この炎を見せるのは、お前で三人目だ」
ゾルアを中心として凄まじい熱波が幾度となく展開した。
すると着ているローブが炎で包まれ、それを纏い始める。
「"焔魔三獣・極帝炎鬼"」
真紅の炎はゾルアを包み込んで燃え盛る。
形容するに"炎の鎧"といったところだが、それにしては禍々しすぎる姿だった。
これは"炎の悪魔"というのが相応しい。
全身を業火で武装したゾルア・ガウスはゆっくりとガイへの方へと歩みを進めた。
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