最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

文字の大きさ
上 下
168 / 244
フレイム・ビースト編

極鬼降臨

しおりを挟む

''炎の悪魔"

そう形容しても差し支えのないような姿をしていた。
ゾルア・ガウスは全身に渦巻くような真紅の炎を纏い、立っているだけで熱波を広げる。
それが原因なのか北部特有の寒さは消え、それどころか凄まじい熱量によって空間を歪ませる。

対するガイの表情は硬直し、息すら呑んだ。
数十メートル離れていようとも感じる熱は異常なほど。
少しでも近づくだけで熱さで溶かされてしまいそうだ。

「さっきの威勢はどこへいった?この姿を見て怖気付いたのではあるまいな」

決してそうではないと思いたかった。
だがガイが見るゾルア・ガウスの炎、それ以上にあまりの闘気の禍々しさに足がすくんだ。

闘気の動きに全神経を集中させる。

「来ないなら、こちらから行く」 

そう言ってゾルアは炎に包まれた体ごと前へ倒れた。
炎の体は波打つように地面を伝い、一瞬にして数十メートルの距離を進みガイの目の前まで来る。

確実に闘気はゾルアが動くより先に動いていた。
ほんの数秒ほどのズレであるが反応はできる。
だがガイはこの動きを知ったところで対応の判断がしきれなかった。

ゾルアは炎を纏った両腕を腰に構えると、一気に前に突き出す。
動き自体は遅いが、ガイは"これを防御しなければならない"と瞬間的に感じた。

「これに耐えられるか?……"鬼焔拳きえんけん"」

ガイの体の周りに展開する炎の五剣は回転スピードを上げた。
そうでなければゾルアの放つ炎の熱量に耐えられないと思った。
さらに、この場所から動いてしまえば後方に倒れるアッシュ、メイア、ローゼルに被害が及ぶ。

スターブレイカーを逆手に構えてガード体勢。
しかしゾルアの放つ炎は止むことを知らず、ガイを徐々に押し下げていった。

「このまま仲間ごと灰になるのを選ぶか」

「く、くそ……」

ガイの腕は火傷を負うが炎天五剣のスキルによってゾルアの波動を吸収して治癒していた。
それでも悲痛の表情を浮かべるガイ。
ハイスピードで回復していると言っても高熱による激痛はある。

「この攻撃をここまで耐えるとは……やはり俺の目には狂いなかった」

その顔は炎に包まれているがニヤリと笑ったように思えた。
ゾルアは一度、両腕を引く。
その後の闘気の動きは異様なものだった。

鞭のように伸びる腕による高速連打。
これも先読みできたからといって対応できるかどうかとなれば、答えは否だ。

「"鬼焔連拳きえんれんけん"」

ゾルアの炎に包まれる腕は伸縮しながら連打を放つ。
それは空を切り裂き、地面を抉る縦横無尽の攻撃。
相変わらず防御しかできないガイはかろうじて踏みとどまっていた。

「波動の炎剣が無かったら貴様は灰すらも残っていないだろう。だが耐えられるのも時間の問題だ」

「く、攻撃できない」

炎の連打は続いた。
ガイの持つスターブレイカーと炎天五剣に当たるたびに火花を散らす。
永遠にも思えるような時間だった。
"打撃"と"波動"の波状攻撃によってガイの体の周りを回る炎の五剣には少しづつヒビが入りはじめる。
さらにガイの体の再生スピードも落ちてきた。

「こ、ここまでなのか……」

「さらばだ強者よ。やはり俺と対等に戦える人間なぞ、この世界には存在しないのだ」

炎の五剣は粉々に砕け散った。
剣は形のない炎となり、最後には空気中へと消えていく。
ガイの体は大きく仰け反った。

ゾルアは連打を止めて右拳を腰に構える。
左手を前に出してガイとの距離を測った。

闘気が見えようと見えまいと関係ない。
今から放たれる攻撃はガイの今の体勢からでは確実にガード不能。
仮にガードできたとしても数秒も耐えられないだろう。

「これで終わりだ!!」

無慈悲にも放たれるゾルアの右ストレート。
ガイの胸目掛けて高速で打たれた。


その瞬間、甲高い音が周囲に響き渡る。
明らかに骨と骨がぶつかった音ではない。

「諦めるなよ……少年」

ガイの目の前にいたのは自分が大嫌いな男だった。
白いノースリーブの拳法着、いつも丁寧に整えられていた髪型は崩れている。

「貴様、まだ生きていたのか?」

「勝手に殺してもらっちゃ困るねぇ。俺はこれでも騎士団最強って言われてるんだぜ」

アッシュ・アンスアイゼン第三騎士団長。
彼の銀色に輝く剣がゾルアの炎の右ストレートを止めていた。
少しだけ時間差があってからゾルアの体を包んでいた炎が一瞬にして消える。
封波剣の能力によってゾルアの炎を掻き消したのだ。

アッシュはスッと息を吐くと筋肉を引き締めて押し切るように剣を横へ振った。
衝撃で薙ぎ払われたゾルアは後方、数十メートル吹き飛ぶ。
地面を削るように着地したゾルアは片膝をつきつつ、ズレたサングラスをなおした。

アッシュは銀の剣を地面に突き刺すと胸ポケットから櫛を取り出して髪を整え始める。
その体の火傷はメイアとローゼルとは違って癒えてはいない。

「"波動使い"と"波動嫌い"が共闘できるとは思えんが」

「大丈夫さ。俺たちはこう見えてだからな」

"仲良し"という言葉に怪訝な表情を浮かべるガイ。
だが目の前に立つアッシュの凄まじい闘気を見るに、これほど頼りになる人物は他にいないだろうと心底感じた。

「前衛が二人……どう戦うか見ものではあるな。いいだろうまとめて相手してやる」

ゾルアは再び真紅の炎を全身に纏った。
夥しい量の熱波が何度も展開し、まるで威嚇しているようだ。

そんなゾルアの行動に構うことなくガイは全く躊躇ためらうことなく言った。

「俺はお前が嫌いだ」

それはアッシュに向けられた言葉だ。
背中越しで表情は見えないが笑みを溢しているようだった。

ガイはゆっくりと前に出てアッシュの横に並ぶ。

日が落ちる頃、"波動使いの冒険者"と"波動嫌いの騎士"の命を賭けた共闘が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...