公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

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第二部

因縁の場所 001

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 魔導大会に出場するため休みをもらっていた僕は、ソリアに帰ってきて早々溜まった書類の山に埋もれていた。

 未踏ダンジョン探索係に回ってくる書類は全て僕が捌かなければならないので、予想していたことではあるが……もうここまでくると、三人いるという先輩はみんなお亡くなりになったと思う方が気が楽である。


「おい、お主。魔石の魔力が切れたぞ」


 集中して作業に取り組んでいると、机に立てかけている杖から声が聞こえてきた。


「あ、ああ。今取り換えるよ」


 僕は鞄をゴソゴソと探り、手頃な大きさの魔石を選んで付け替える。
 いつもなら「給料一ヶ月分が……」と悲壮感に塗れて交換するのだが、今の僕にそんな悲哀は微塵もない。

 もちろん、「魅惑の香スイートパルム」主催の魔導大会で優勝した副賞として、大量の魔石をゲットできたからだ。ざっと数えた限り、店売りで二、三百万Gの値は付きそうである。

 一気に大金持ちになった気分だ。

 ベスの魔力を全盛期に戻すにはこれでも全然足りないらしいが、少しは腹の足しになってくれるだろう。


「あ、そう言えばお主よ。話し忘れておったことがあるんじゃが」


「なんだよ、改まって」


「五百万Gはゲットできんかった」


 彼女にしては珍しく、少し申し訳なさそうな声色でそう言った。マルコさんとした賭けは結局有耶無耶になったし、仕方ないと言えば仕方ない。


「まあ、当面は困らないくらいの魔石が手に入ったし、問題ないだろ」


「すまんな、あの情けない男が出し渋りおっての……百万までしか回収できんかった」


「いや、百万は搾り取ったのかよ!」


「搾り取るとは人聞きが悪いの、正当な賭けの対価じゃ……身ぐるみ引っぺがして家も荒らしたが、五百万には遠く及ばんかった。無念じゃ」


「やってることが借金取りじゃねえか!」


 そこまでしてほしくないよ、お金。


「お主のボロボロの鞄の中に忍ばせてサプライズを目論んでおったのじゃが、全然気づかないんじゃもん」


「もんって言われてもな」


 こっちは乗り物酔いでそれどころではなかったし、魔石も入れていたから重量が増えたことに気づく余地はなかったのだ。


「あやつの泣き叫ぶ顔、お主にも見せてやりたかったわ。傑作じゃったのぉ!」


「お前の好感度も底を尽きそうだな」


「何を言うか。踏み倒されそうになった賭けを成立させ、しかも百万Gで許してやったのだから感謝してほしいくらいじゃ。全盛期の儂なら臓器を売ってでも不足分を補填させていたぞ」


「全盛期の魔力を取り戻してほしくない気持ちが高まったわ」


 魔石、取り上げようかな。
 力を持つ者は得てして傲慢になるというが、彼女もその例には漏れないらしい。


「ふざけるな、魔石は全て儂のものじゃ。賭けで得た金も、国からもらったという金も、全て儂のものじゃ。指一本触れるでない!」


「セリフが一々悪役過ぎるだろ」


 しかも序盤で死ぬタイプの。
 いかにも小物だ。


「まあ冗談はともかく、それじゃあ結構な現金と魔石が手に入ったわけだな……いよいよ、あそこに潜る日も近いか」


「そうじゃな。因縁の場所にの」


 幼馴染のシリーがギルドを抜け、闇ギルドに入るきっかけとなった事件が起きたダンジョン。

 喰魔のダンジョン。

 僕たちはあそこを攻略するために、せっせと魔石を集めていたのだ……充分な量が手元にある今こそ、行動を起こす時なのだろう。

 正直、気は進まない。僕は相変わらず安定を望んでいる一般人に過ぎず、SS級ダンジョンに挑みたいなんて気持ちは持ち合わせていないのだから。

 それでも――少しだけ。

 以前よりほんの少しだけ、冒険心を持つようになれたのは。
 きっと、ベスのお陰なのだろう。

 彼女が僕の中で大切な人物となっているのは、覆しようのない事実だった――誰にも必要とされていなかったクロス・レーバンを初めて認めてくれたベスは、僕の人生において掛け替えのない存在となっていた。

 死ぬまで一緒にいようと、共に約束し合った仲である……彼女が喰魔に挑むというのなら、僕は危険に身を晒すことを厭わない。

 けれど、やっぱり。

 どうしても、女々しいことを考えてしまうのだ。

 彼女の生きた千五百年、そしてこれから生きるであろう永遠に近い命の中で――僕は、重要な存在でいられるのだろうか。

 クロス・レーバンは、エリザベスの掛け替えのない一人になれるのだろうか。

 運命の人を待ち続けるのは馬鹿らしいと、大人になって気づく。

 でも。

 誰かの運命の人になりたいと願うのは、百年ぽっちしか生きられない僕ら人間の、当たり前と呼ぶべき欲求なのかもしれない。

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