公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

文字の大きさ
上 下
75 / 108
第二部

因縁の場所 002

しおりを挟む


「いやー、ついにきましたねー」


 日と所は変わり、僕とニニ、そして杖の中のベスはとある森の中にいた。懐かしくもあり、また同時に思い出したくもない記憶が刺激される。


「……」


「おや、渋い顔ですね、クロスさん。苦虫でも噛み潰しましたか」


「気分的にはその通りだよ」


 なぜならこの森は、喰魔のダンジョンへと続く道中なのだから……自然と顔も強張ってしまうのだ。


「そう言えば、苦虫ってどんな虫なんですかね。虫なんて大抵苦そうですけれど」


「その話題を広げる気にはならないな……」


 ニニはいつもの調子で雑談をしてくれているが、僕の方が乗り切れていない。
 シリーとの一件が、未だに僕の中で後悔として残り続けている証拠だろう。


「つれないですね~。ま、幼馴染さんといろいろあった場所ということで仕方ないとは思いますが、しかし力が入り過ぎているとつまらないミスをしてしまいますよ」


 ガチガチの僕を心配してか、彼女は明るく笑ってそう言った……年下の女の子に気を遣わせてしまうなんて、我ながら不出来な男である。

 けれど、僕の気掛かりはシリーのことだけではなかった。
 むしろ、もう一つの懸念点の方が重要だと言ってもいい。


「……なあ、ベス」


「……なんじゃ、お主よ。儂はギリギリまで寝ていたいんじゃがの」


「本当に、喰魔のダンジョンはお前の魔力を探知しないのか?」


 もう一つの懸念点は、そこだった。

 ベスの考えた理論では、喰魔が参照するのはあくまでも生きて動いている魔力のみであり……例えば杖の中の魔力や、魔石にこもっている魔力には反応しないという。


「絶対、とまでは言い切れんが、ほぼ百パーセント大丈夫じゃと思うぞ。本来魔力探知というのは繊細な技術なのじゃ、一々魔道具に込められた魔力に反応することはせんじゃろ」


「そういうもんなのかなぁ……」


「そういうもんじゃ。まあ、万に一つ杖の中の儂に反応する可能性も考えて、慎重に進むというのは賛成じゃな」


「賛成なのか、珍しいな」


「儂だって無謀に特攻することを是とはせん。突撃するのがお主らならなおさらの……魔石も潤沢にあることだし、じっくり一階層を攻略するとしよう」


 いけいけどんどんなベスにしては、えらく慎重な意見である。それだけ彼女も喰魔のダンジョンを警戒しているということなのだろうか。


「だからお主も適度に緊張する分にはいいが、固くなりすぎるなよ。ニニも言っておったが、つまらないミスはそのまま命を落とすミスにつながりかねん」


 ベスの声が真剣なものに変わる。

 僕たちがこれから挑むのは、死の危険と隣り合わせの場所だ……開いたドラゴンの口に飛び込むのと何ら変わらない。一つの判断ミスでパーティーが崩壊するなんて、考えるまでもなく当然のことだった。

 それこそ――あの勇者たちのように。


「……わかってるよ。大丈夫だ」


 僕は気合を入れ直すように大きく息を吸い込む。

 例えどんな窮地に陥ったとしても、ベスとニニの二人だけは助けると、そう決意して。





 森を進むこと数時間――僕らは、喰魔のダンジョンに潜るための魔法陣に辿り着いた。


「準備はいいか、ニニ」


 魔法陣の前で一旦休憩を挟み、最終確認をする。


「いつでも行けますよ」


 彼女はいつも通り満面の笑みで頷いた……頼もしい限りだ。


「もし不測の事態が起こったとしても、私の防御魔法でお二人を守りますから。どーんと大船に乗ったつもりでいてください」


「……そいつはありがたいな。でも、一つだけ約束してほしいことがあるんだ」


 どんと胸を叩くニニに向かって、僕はあらかじめ考えていた約束を口にする。それは、喰魔のダンジョンを攻略すると決めた日から、ずっと頭の片隅にあったことだった。


「ニニには、自分の命を優先してほしい……僕やベスに何があっても、最終的には自分の命を守る行動をしてほしいんだ」


 彼女の役職は剛盾使いであり、その役目はパーティーメンバーを守ることである。

 ――ニニは僕らのために命を投げ捨てることも厭わないだろう。初めて彼女とダンジョンに潜った際、既にその片鱗を見せていた。

 とても頼もしいが、それ故に困る。


「何があっても、僕が二人を守る。ニニは、ベスと一緒に逃げてほしい。全力で、決して振り返らず、逃げてほしい」


 そうしてくれないと、全員が死ぬという最悪の事態が引き起こされる可能性が高まってしまうのだ。

 犠牲になるのは、僕一人で充分である。


「それは……」


「それはできんな、お主よ」


 杖の中から。
 ベスが否定してきた。


「お主のこともニニのことも、儂が守る……それがこのダンジョンに潜る上で、絶対不変の前提条件じゃ。じゃから、大船どころか豪華客船に乗ったつもりでいるがよい」


 思いがけない彼女の言葉は、しかしこの世のどんなヒーローよりも、頼もしいものだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...