村に勇者が来た

negi

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 馬車で色々教えてもらいながらの移動は今までの俺の縮こまっていた気持ちをほぐしていってくれた。村ではいつも人目を気にして生活していたけれどそれから解放されて最近は笑うことも増えてきたと思う。

魔力紋が発現した以上俺が勇者であることは確定しているのでこれから学んでいかなければならないことは多い。クライド様から教わることは驚く内容ばかりだった。

 この世界に召喚される勇者は必ず2人、同じ国の人がやって来る。この世界の現状やこちらが求める事を伝えて帰るか残るかを選んでもらう。

聖女がもたらした宝玉は召喚の宝玉と帰還の宝玉の2つがあり望めば帰ることも出来る。残ることを決めると護衛2名と対応部隊がついて適正を見極めるための訓練が始まる。

「本にも宝玉は2つもたらされたとありましたが召喚の宝玉のことしか書かれていませんでした。帰還の宝玉はなぜ秘匿されているのですか?」

「過去に召喚した2人どちらも帰還した事があった時に、帰る手段がある事を無くしてしまおうと考えた人達が帰還の宝玉を破壊しようとしたんだよ」

 そもそもこちらの事情で呼んでいるのに選択の余地を奪うことは許されないこととして、それからは情報を最小限に留めるようになったそうだ。

その情報の中には勇者の振舞に人々が恐怖や嫌悪、失望を感じると帰還の宝玉はどんどん黒く染まっていき勇者の資格を失うということも入っている。勇者対応部隊の上層部はそのあたりの情報は知っていたからダグラス様とグレゴール様は元勇者の2人を何度も説得していたらしい。

「人って同調する仲間がいるとどんどん大胆になっていくだろう?あの2人はそれが良くない方に向いてしまった。あの村は彼らの能力に合った魔獣が多いことがわかっていたから行ってもらったんだけど…残念だよ」

 2人は出発前の言動に少し不安はあったが村で人のために魔獣を狩り頼られ感謝されたら気持ちも変わり魔力紋も育てることが出来ると思われていた。ヒュドラも2人と兵士達の連携で難なく倒せる魔獣のはずだったのにあれだけの犠牲を出してしまい最後は村人を見捨てて逃げようした。勇者の資格を失ったのは必然だった。

 俺には戻る体も無く今のこの体はこちらの世界で生まれたものだし宝玉はどう関係してくるんだろう。それに、勇者として何をすればいいか未だによくわからない。

「あまり深刻に考えなくても良いんだよ。君が得意なものが何かを探す手伝いをするために護衛や対応部隊が付くんだから何でも頼ってゆっくり見つけていけばいい」

クライド様が優しく諭すように言ってくれて気負っていた気持ちがほどけていく。今までこんな風に扱ってもらったことが無かったから人に頼るのはまだ慣れないけど村にいた時よりも気持ちはとても楽になった。


 道の脇に水場がある場所で馬たちに水を飲ませるついでに少し休憩することになった。その間に軽く食事も済ませてしまう。

食事の前には俺がみんなにクリーンの魔法をかけている。
清潔第一なのもあるけど食中毒を防ぐためでもある。俺の編み出した(でいいのかな?)クリーンの魔法は食事前以外でも希望者にはかけている。クライド様は特に気に入ったようで毎日お願いされるし兵士達にも好評だ。

魔法で清潔になっていても湧き水で洗うのは気持ちいいからみんな水場に集まって顔や手を洗っている。俺も顔を洗って戻ろうとしたら腕を引かれて木の陰に引き入れられて気が付いたらダグラス様の腕の中だった。すぐに唇が合わさってきて舌が絡まる。性急なキスに息が上がってしまい涙が滲んできた。

「はっん、ダぐ、ラスさまっんんっ」

「カイ、カイは私のだろう?はぁ、なのに…」

ダグラス様の声が苦しそうで、眉間にしわが寄っている。俺は必死にしがみついてキスを受け止めた。強く舌を吸われてふるりと体を震わすと唇は離れて行って胸にきつく抱きしめられた。体に力が入らず息も上がっていて言葉が出せない。ダグラス様はどうしてこんなに…

「すまない。ただの嫉妬だ。カイが笑顔を見せるようになったのは嬉しい。だが、それもクライド様のおかげなのかと思うと…」

「私が笑えているのはダグラス様のおかげです。もちろんクライド様やグレゴール様にも良くしてもらっています。でも、…す、好きな人の側に、いると笑顔になるんです!」

叫んでダグラス様の胸に顔を押し付けた。まさか嫉妬してもらっていたなんて思ってもいなかった。俺の顔は今きっと真っ赤になっているに違いない。ううう、恥ずかしい、顔を上げられない。

「カイ。…カイ? 顔を上げて? 戻る前にもう一度顔を見せてくれ」

…そんな甘い声で囁かないで欲しい。断れるわけのないお願いにゆっくり顔を上げると嬉しそうに微笑んだ美貌が見つめていてちょんと唇をついばんで離れていった。顔に熱が集まるのがわかる。頭から湯気が出ているかもしれない。
…しばらく馬車には戻れなかった。


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