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馬車での移動は日が沈む前までで夜は道から外れたところで野営する。兵士は入れ替えるため王都に戻してしまったので今は最低限の人数だけど、クライド様がいるので全く問題ないらしい。それだけ勇者は絶対的な存在だ。
旅の馬車が使う道には野営出来る場所が道沿いに自然に出来上がっていて今回も少し広めな空き地の様な場所で夜を過ごす事になった。
村を出てから7日目、俺は試したい事を実行に移すためクライド様に相談していた。
「お風呂? シャワーじゃなくて? 」
「温かいお湯に入れば疲れもとれると思うのです。私の魔法でどこまで出来るか試しても良いでしょうか?」
俺は村では出来なかった規模の魔法を使える機会を探していた。たくさんあると知った自分の魔力をどう使えばいいか考えていた時この空き地の近くに試すのにいい場所を見つけてしまった。
最初は首をかしげていたクライド様も俺の説明に興味を持ってくれて、俺は今、野営場所近くの林の中にいる。そして隣にはダグラス様。俺の護衛だからと着いて来てくれた。
この林は木々の合間に岩がところどころあって俺が立っているところは岩が多めで開けていてお湯があったらまさに露天風呂という場所なんだ。
まずは土魔法で湯船を作る。いい感じに岩が並んでいるのでその中心を掘ってお湯が濁らないように表面を固める。そこに水魔法で水を溜め、火魔法でお湯にすれば…
出来た!露天風呂!まわりの木に予備のテントの布を張って目隠しをすれば完成だ。
「出来ました! 先にクライド様、ダグラス様、グレゴール様が入ってください。タオルと着替えを準備しますね」
「カイ…色々と言いたいことはあるのだが、まずは2人を呼んでこよう」
ダグラス様と2人を呼んで来たんだけど、完成した露天風呂を見て大笑いしている。
「くくっ、君が1人で作ったのかい? 魔法の使い方が面白い事になっているね。それにしてもこの世界で温泉気分に浸ることが出来るとは思わなかったよ」
「外で風呂に入るのか⁈ 確かにこの辺りに魔獣はいないがその発想はなかったわ。カイは面白いことを思いつくな!」
最初のクライド様の言葉よりも次のグレゴール様に言われた事で俺は失敗に気付いた。この世界ではきっと貴族が外で入浴などしないのだろう。この3人には前世の事を話していたので羽目を外し過ぎてしまった。
「申し訳ありません! その、前世の私の国では風呂をこんな風に楽しむ文化があったので…。直ぐに片づけます」
「どうして? 気持ちよさそうだしこれだけ広いんだからみんなで一緒に入ろうよ」
クライド様のその一言でみんなで入ることになった。あれ?俺も一緒ですか⁈ お世話する気満々だったのですが…。
日没直後の木々の間から見える空に星が瞬いている。灯りの魔道具を置いてぼんやり浮かび上がった露天風呂に4人で浸かる。押し切られる形で入ってしまったけど、やっぱりお風呂は気持ちいい。
「カイくんは今まで魔法を攻撃に使ったことがないのかな?」
「そういえば…ないですね。」
クライド様に聞かれて自分でも不思議だが魔法を武器として使ったことも考えた事も無かった。考え込んでいたらクライド様が俺の右手を取って甲をするりと撫でた。驚いていたらダグラス様がすぐに取り上げて肩も抱き寄せて引き離してしまった。
「ダグラス、独占欲もあんまり強いのは嫌われるよ? カイくん、魔力紋が育ったみたいだよ」
ダグラス様がつかんでいる俺の右手の甲を見た。小さかった魔力紋は甲全体に広がっていた。
「このお風呂を作る時、私達の事を考えて魔法を使ったんだろう? 疲れを取ってもらいたいと願ってこんな大きな物を作った。違うかい?」
確かに願った。ここまでの道のりで自分は何もできていないからせめて疲れを癒すことが出来ればと思って作ったんだと思う。
誰かの事を強く思って使うと育つんだよとクライド様が言った。
その彼の魔力紋は両方の肩まである。その模様は甲に近い程濃い色で肩の辺りにかけて赤色の美しいグラデーションになっている。この人は今までどれくらい人のために魔法を使ってきたのだろうか。
「カイ、村でもこうやって風呂に入っていたのか?」
「いいえ、これは前世の文化です。皆さんには打ち明けているのでつい羽目を外してしまいました」
「ダグラスはカイくんの肌を見たやつがいるのか気にしてるんだよ。嫉妬深い彼氏は面倒だよねぇ?」
「カイを襲った兵士もひどい目に合わせてたもんな! 怖い怖い」
「えっ⁈」
「グレゴール、余計な事を…。殺したりしていないから大丈夫だ。王都に追い返しただけだよ」
ダグラス様が物騒な事を言っているけど追い返しただけなんだ。びっくりした。ほっとした俺に笑顔を向けるダグラス様を見てグレゴール様が爆笑していた。
後になって任務途中で部隊から追い返された貴族子息がどうなるかを知り戦慄することになるのだが無知だった俺は知る由もなかった。
お風呂は同行している兵士さんにも順番に使ってもらった。クリーンの魔法でお湯は都度綺麗にできるし、せっかく作ったから使って欲しい。
思った以上に喜んでもらえて嬉しかった。俺の魔力はこういう事に使っていきたい。
はじめて自分のやりたいことに気付いて手の甲の魔力紋に触れてみた。俺もクライド様のように多くの人のために魔法を使ってこの紋を育てていきたいと改めて思った。
*************************************
任務途中で追い返されることは無能の証で貴族失格なので家督を継ぐことは出来ず廃嫡や最悪毒杯で病死扱い…
旅の馬車が使う道には野営出来る場所が道沿いに自然に出来上がっていて今回も少し広めな空き地の様な場所で夜を過ごす事になった。
村を出てから7日目、俺は試したい事を実行に移すためクライド様に相談していた。
「お風呂? シャワーじゃなくて? 」
「温かいお湯に入れば疲れもとれると思うのです。私の魔法でどこまで出来るか試しても良いでしょうか?」
俺は村では出来なかった規模の魔法を使える機会を探していた。たくさんあると知った自分の魔力をどう使えばいいか考えていた時この空き地の近くに試すのにいい場所を見つけてしまった。
最初は首をかしげていたクライド様も俺の説明に興味を持ってくれて、俺は今、野営場所近くの林の中にいる。そして隣にはダグラス様。俺の護衛だからと着いて来てくれた。
この林は木々の合間に岩がところどころあって俺が立っているところは岩が多めで開けていてお湯があったらまさに露天風呂という場所なんだ。
まずは土魔法で湯船を作る。いい感じに岩が並んでいるのでその中心を掘ってお湯が濁らないように表面を固める。そこに水魔法で水を溜め、火魔法でお湯にすれば…
出来た!露天風呂!まわりの木に予備のテントの布を張って目隠しをすれば完成だ。
「出来ました! 先にクライド様、ダグラス様、グレゴール様が入ってください。タオルと着替えを準備しますね」
「カイ…色々と言いたいことはあるのだが、まずは2人を呼んでこよう」
ダグラス様と2人を呼んで来たんだけど、完成した露天風呂を見て大笑いしている。
「くくっ、君が1人で作ったのかい? 魔法の使い方が面白い事になっているね。それにしてもこの世界で温泉気分に浸ることが出来るとは思わなかったよ」
「外で風呂に入るのか⁈ 確かにこの辺りに魔獣はいないがその発想はなかったわ。カイは面白いことを思いつくな!」
最初のクライド様の言葉よりも次のグレゴール様に言われた事で俺は失敗に気付いた。この世界ではきっと貴族が外で入浴などしないのだろう。この3人には前世の事を話していたので羽目を外し過ぎてしまった。
「申し訳ありません! その、前世の私の国では風呂をこんな風に楽しむ文化があったので…。直ぐに片づけます」
「どうして? 気持ちよさそうだしこれだけ広いんだからみんなで一緒に入ろうよ」
クライド様のその一言でみんなで入ることになった。あれ?俺も一緒ですか⁈ お世話する気満々だったのですが…。
日没直後の木々の間から見える空に星が瞬いている。灯りの魔道具を置いてぼんやり浮かび上がった露天風呂に4人で浸かる。押し切られる形で入ってしまったけど、やっぱりお風呂は気持ちいい。
「カイくんは今まで魔法を攻撃に使ったことがないのかな?」
「そういえば…ないですね。」
クライド様に聞かれて自分でも不思議だが魔法を武器として使ったことも考えた事も無かった。考え込んでいたらクライド様が俺の右手を取って甲をするりと撫でた。驚いていたらダグラス様がすぐに取り上げて肩も抱き寄せて引き離してしまった。
「ダグラス、独占欲もあんまり強いのは嫌われるよ? カイくん、魔力紋が育ったみたいだよ」
ダグラス様がつかんでいる俺の右手の甲を見た。小さかった魔力紋は甲全体に広がっていた。
「このお風呂を作る時、私達の事を考えて魔法を使ったんだろう? 疲れを取ってもらいたいと願ってこんな大きな物を作った。違うかい?」
確かに願った。ここまでの道のりで自分は何もできていないからせめて疲れを癒すことが出来ればと思って作ったんだと思う。
誰かの事を強く思って使うと育つんだよとクライド様が言った。
その彼の魔力紋は両方の肩まである。その模様は甲に近い程濃い色で肩の辺りにかけて赤色の美しいグラデーションになっている。この人は今までどれくらい人のために魔法を使ってきたのだろうか。
「カイ、村でもこうやって風呂に入っていたのか?」
「いいえ、これは前世の文化です。皆さんには打ち明けているのでつい羽目を外してしまいました」
「ダグラスはカイくんの肌を見たやつがいるのか気にしてるんだよ。嫉妬深い彼氏は面倒だよねぇ?」
「カイを襲った兵士もひどい目に合わせてたもんな! 怖い怖い」
「えっ⁈」
「グレゴール、余計な事を…。殺したりしていないから大丈夫だ。王都に追い返しただけだよ」
ダグラス様が物騒な事を言っているけど追い返しただけなんだ。びっくりした。ほっとした俺に笑顔を向けるダグラス様を見てグレゴール様が爆笑していた。
後になって任務途中で部隊から追い返された貴族子息がどうなるかを知り戦慄することになるのだが無知だった俺は知る由もなかった。
お風呂は同行している兵士さんにも順番に使ってもらった。クリーンの魔法でお湯は都度綺麗にできるし、せっかく作ったから使って欲しい。
思った以上に喜んでもらえて嬉しかった。俺の魔力はこういう事に使っていきたい。
はじめて自分のやりたいことに気付いて手の甲の魔力紋に触れてみた。俺もクライド様のように多くの人のために魔法を使ってこの紋を育てていきたいと改めて思った。
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