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18 魔力付与の儀式
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今日は王宮から一番近いギルドに来ている。
今は受付前の広い空間の真ん中に石を置く場所が設置されて、そこに置かれた石に樹里が浄化を付与する儀式が執り行われている最中だ。
私はあんな大きな石には付与できないけど、ここでも人々の目に留まるように樹里の相棒として妖精を肩にのせて側近くに立っている。
白地に金の刺繍が施された衣装に身を包んだ樹里が、石に浄化の魔力を移していく。すると私の肩から妖精が飛び立ち石のまわりをくるりと一周回った。それに応えるように石が一瞬光輝いて付与が成功したことがわかった。
見守っていた魔法省関係者とギルド職員、遠巻きに見ていた冒険者達からも感嘆の声が上がる。この大きな浄化石は黒霧の影響が出やすいギルドに設置して、様子を見る事になっている。
「聖女様が浄化魔法を付与して下さったこの浄化石が黒霧を祓ってくれる! 冒険者は黒霧の脅威に最も晒されている職業だからと、どこよりも早くギルドに設置して下さったのだ!」
今回の儀式を取り仕切っている魔法省の次官が声をあげて付与の成功を宣言すると、周りから大きな歓声が上った。ギルド職員や冒険者達に浄化石の効果を説明してから儀式は終了した。
浄化石を作れるのは私と樹里のふたりだけなので、魔物と対峙する冒険者や兵士達に行き渡らせるのは時間がかかり過ぎる。そのため一番影響が出やすい場所であるギルド内に大きな浄化石を設置することになった。国中のギルドに設置するにはかなり時間がかかるけれど、一度設置してしまえば壊れるまでは樹里が通って浄化魔法を施さなくても良くなる。
そしてこの世界には転移魔法が存在していて、制限はあるけど魔力を使って魔法陣を設置してある場所に移動することが出来る。各ギルドには転移の魔法陣が必ずあるので、私達も遠方のギルドにはそれを使って浄化と治癒に赴く予定だった。けれど浄化石が作れることになったので、魔物の被害が酷い場所に近いギルドに先に浄化石を送るという話が出ている。
そういう計画やら色々は魔法省が主体となってスケジュールを決めていて、今回の儀式も彼等が仕切ってくれた。付与できる石の手配なんかもしてもらっていてとても助かっている。
帰りの馬車でも手配してもらった石に次々浄化魔法を付与していく。最近は樹里とは別の馬車で移動しているので馬車内には私1人だ。二人が同じ馬車に乗る事にファビアン殿下が不満をもらしてから別々の馬車になった。殿下の樹里への執着が凄いのは、やっぱり求婚者が増え続けているからだろうな。
持ってきた石の全てに付与が終わったとき、くらりと眩暈がして体が冷えている事に気付いた。寒いな、と思っていたら馬車が停まり扉が開いて私を見たレヴァンテが驚いた顔をして慌てて乗り込んできた。
「トモヒロ様、顔色が真っ青です。これは、浄化石…まさか、こんなにたくさん付与されたのですか?」
持ち込んでいた石の入った箱を見て険しい顔になったレヴァンテが「失礼します」と言ってから膝裏に手を通して私を抱き上げてしまった。その浮遊間にまた眩暈を感じて彼の服に縋りついてしまったが、まさかこのまま馬車から降りるつもりなのか?
「ちょっと寒いだけで大丈夫だから。下ろしてくれ」
「聞けません。このまま部屋まで運びます」
聞き入れてもらえず、抱えられて馬車を降りたら他の護衛達が騒ぎ出した。
「レヴァンテ、トモヒロ様に何があった⁉ まさか、また聖女至上主義者か?」
「違う。おそらく魔力切れだ。中にトモヒロ様が付与された浄化石がある。一緒に部屋まで運びたい。警護を頼む」
レヴァンテの指示に護衛達がすぐ反応して、馬車から浄化石を運び出し周りを囲われて進む。抱えられて体が触れている場所以外の寒気がだんだん酷くなってきて、自分が震えているのがわかった。それが伝わったのか、レヴァンテの手に力が入り更に体が密着させられる。彼の体がとても温かく感じるのは、自分が冷えているからだろうか。
部屋に帰ると既に知らされていたのかハイムくんが心配そうな顔をして待っていて、先導して寝室の扉を開いて先に入って行く。そっとベッドに座らされて二人がかりで寝巻に着替えさせられて……そこから先の記憶は無い―――――
夢を見ていた。
元の世界で私はひとりだった。大学三年の終わりに両親を事故で亡くし、年の離れた二人の弟の世話をしながら生活していたけど、二人とも大学を卒業したら家を出て行ってしまった。
酷く寂しい気持ちになっていたら左手が温かくなって……
ゆっくりと目を開けると薄暗い部屋のベッドに寝かされていて、左側を見るとレヴァンテとハイムくんが心配そうにこちらを見ていた。私の左手をレヴァンテの手が包んでいて温かさの正体がわかった。二人の顔がほぼ同時に泣きそうに歪んで、レヴァンテが包んでいた手を持ち上げて自分の額に押し当てて「良かった」と小さく呟いた。
「心配かけて、ごめん…」
「本当に…、無理しすぎです。しばらくは安静にしていて下さい」
ハイムくんがほっとした顔になって私の状態を説明してくれた。魔力切れな上に蓄積した疲労も原因だったようで、二日経っても意識が戻らなかったようだ。私が倒れたと聞いて樹里やシリング公爵、国王陛下までが見舞いに来たらしい。部屋の中にたくさん花が飾られているのはそのせいかな。
「声を発していらっしゃるのがわかって、様子を伺っていたら意識が戻られて…、本当に安心しました。何かお腹に入れた方が良いと思いますが食べられそうですか?」
ハイムくんに言われたら急に空腹を感じてしまった。頷いたら嬉しそうに準備すると言って寝室を出て行った。二人きりになると、ベッド脇に膝をついていたレヴァンテが握った手を持ち上げて甲に唇をつけて、小さなリップ音がした。
「あんなに体が冷たくなって、意識も戻らなくて、どれ程心配したか…もっと自分を大事にして下さい」
苦しそうな顔と声音で言われた内容が全く頭に入って来ない。今、手にキスをされたような…。混乱していたらもう一度、ちゅっと音を立てて甲に触れた唇が離れていくと、大きな手に包まれてまた額に押し当てられた。
「貴方にもしもの事があったらと生きた心地がしなかった。目覚めて良かった…」
「う、ん。本当に、ごめん。気を付けるよ…」
どうしよう、言葉が出ない。
困っていたらハイムくんが戻って来てくれた。握られていた手が離され、ベッドの上で食事を取るための準備を二人がしてくれる。体を起こされて大きなクッションを背中にあててもらったんだけど、ベッドから抱き起こしてくれたレヴァンテの大きな手に心臓が煩くなって困った。
用意してもらったのはスープで、優しい味がしばらく食事を摂っていない体にしみこむようで美味しかった。二人に見守られての食事はいつもの事なんだけど……
駄目だ、今はレヴァンテの顔を見る事が出来ない。
今は受付前の広い空間の真ん中に石を置く場所が設置されて、そこに置かれた石に樹里が浄化を付与する儀式が執り行われている最中だ。
私はあんな大きな石には付与できないけど、ここでも人々の目に留まるように樹里の相棒として妖精を肩にのせて側近くに立っている。
白地に金の刺繍が施された衣装に身を包んだ樹里が、石に浄化の魔力を移していく。すると私の肩から妖精が飛び立ち石のまわりをくるりと一周回った。それに応えるように石が一瞬光輝いて付与が成功したことがわかった。
見守っていた魔法省関係者とギルド職員、遠巻きに見ていた冒険者達からも感嘆の声が上がる。この大きな浄化石は黒霧の影響が出やすいギルドに設置して、様子を見る事になっている。
「聖女様が浄化魔法を付与して下さったこの浄化石が黒霧を祓ってくれる! 冒険者は黒霧の脅威に最も晒されている職業だからと、どこよりも早くギルドに設置して下さったのだ!」
今回の儀式を取り仕切っている魔法省の次官が声をあげて付与の成功を宣言すると、周りから大きな歓声が上った。ギルド職員や冒険者達に浄化石の効果を説明してから儀式は終了した。
浄化石を作れるのは私と樹里のふたりだけなので、魔物と対峙する冒険者や兵士達に行き渡らせるのは時間がかかり過ぎる。そのため一番影響が出やすい場所であるギルド内に大きな浄化石を設置することになった。国中のギルドに設置するにはかなり時間がかかるけれど、一度設置してしまえば壊れるまでは樹里が通って浄化魔法を施さなくても良くなる。
そしてこの世界には転移魔法が存在していて、制限はあるけど魔力を使って魔法陣を設置してある場所に移動することが出来る。各ギルドには転移の魔法陣が必ずあるので、私達も遠方のギルドにはそれを使って浄化と治癒に赴く予定だった。けれど浄化石が作れることになったので、魔物の被害が酷い場所に近いギルドに先に浄化石を送るという話が出ている。
そういう計画やら色々は魔法省が主体となってスケジュールを決めていて、今回の儀式も彼等が仕切ってくれた。付与できる石の手配なんかもしてもらっていてとても助かっている。
帰りの馬車でも手配してもらった石に次々浄化魔法を付与していく。最近は樹里とは別の馬車で移動しているので馬車内には私1人だ。二人が同じ馬車に乗る事にファビアン殿下が不満をもらしてから別々の馬車になった。殿下の樹里への執着が凄いのは、やっぱり求婚者が増え続けているからだろうな。
持ってきた石の全てに付与が終わったとき、くらりと眩暈がして体が冷えている事に気付いた。寒いな、と思っていたら馬車が停まり扉が開いて私を見たレヴァンテが驚いた顔をして慌てて乗り込んできた。
「トモヒロ様、顔色が真っ青です。これは、浄化石…まさか、こんなにたくさん付与されたのですか?」
持ち込んでいた石の入った箱を見て険しい顔になったレヴァンテが「失礼します」と言ってから膝裏に手を通して私を抱き上げてしまった。その浮遊間にまた眩暈を感じて彼の服に縋りついてしまったが、まさかこのまま馬車から降りるつもりなのか?
「ちょっと寒いだけで大丈夫だから。下ろしてくれ」
「聞けません。このまま部屋まで運びます」
聞き入れてもらえず、抱えられて馬車を降りたら他の護衛達が騒ぎ出した。
「レヴァンテ、トモヒロ様に何があった⁉ まさか、また聖女至上主義者か?」
「違う。おそらく魔力切れだ。中にトモヒロ様が付与された浄化石がある。一緒に部屋まで運びたい。警護を頼む」
レヴァンテの指示に護衛達がすぐ反応して、馬車から浄化石を運び出し周りを囲われて進む。抱えられて体が触れている場所以外の寒気がだんだん酷くなってきて、自分が震えているのがわかった。それが伝わったのか、レヴァンテの手に力が入り更に体が密着させられる。彼の体がとても温かく感じるのは、自分が冷えているからだろうか。
部屋に帰ると既に知らされていたのかハイムくんが心配そうな顔をして待っていて、先導して寝室の扉を開いて先に入って行く。そっとベッドに座らされて二人がかりで寝巻に着替えさせられて……そこから先の記憶は無い―――――
夢を見ていた。
元の世界で私はひとりだった。大学三年の終わりに両親を事故で亡くし、年の離れた二人の弟の世話をしながら生活していたけど、二人とも大学を卒業したら家を出て行ってしまった。
酷く寂しい気持ちになっていたら左手が温かくなって……
ゆっくりと目を開けると薄暗い部屋のベッドに寝かされていて、左側を見るとレヴァンテとハイムくんが心配そうにこちらを見ていた。私の左手をレヴァンテの手が包んでいて温かさの正体がわかった。二人の顔がほぼ同時に泣きそうに歪んで、レヴァンテが包んでいた手を持ち上げて自分の額に押し当てて「良かった」と小さく呟いた。
「心配かけて、ごめん…」
「本当に…、無理しすぎです。しばらくは安静にしていて下さい」
ハイムくんがほっとした顔になって私の状態を説明してくれた。魔力切れな上に蓄積した疲労も原因だったようで、二日経っても意識が戻らなかったようだ。私が倒れたと聞いて樹里やシリング公爵、国王陛下までが見舞いに来たらしい。部屋の中にたくさん花が飾られているのはそのせいかな。
「声を発していらっしゃるのがわかって、様子を伺っていたら意識が戻られて…、本当に安心しました。何かお腹に入れた方が良いと思いますが食べられそうですか?」
ハイムくんに言われたら急に空腹を感じてしまった。頷いたら嬉しそうに準備すると言って寝室を出て行った。二人きりになると、ベッド脇に膝をついていたレヴァンテが握った手を持ち上げて甲に唇をつけて、小さなリップ音がした。
「あんなに体が冷たくなって、意識も戻らなくて、どれ程心配したか…もっと自分を大事にして下さい」
苦しそうな顔と声音で言われた内容が全く頭に入って来ない。今、手にキスをされたような…。混乱していたらもう一度、ちゅっと音を立てて甲に触れた唇が離れていくと、大きな手に包まれてまた額に押し当てられた。
「貴方にもしもの事があったらと生きた心地がしなかった。目覚めて良かった…」
「う、ん。本当に、ごめん。気を付けるよ…」
どうしよう、言葉が出ない。
困っていたらハイムくんが戻って来てくれた。握られていた手が離され、ベッドの上で食事を取るための準備を二人がしてくれる。体を起こされて大きなクッションを背中にあててもらったんだけど、ベッドから抱き起こしてくれたレヴァンテの大きな手に心臓が煩くなって困った。
用意してもらったのはスープで、優しい味がしばらく食事を摂っていない体にしみこむようで美味しかった。二人に見守られての食事はいつもの事なんだけど……
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