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海女⑥
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一方幸太は一人暮らしするアパートの自室に帰ってスマートフォンに視線を落としながら想いを巡らせていた。
叶に自分が帰って来た事や男性の元を訪ねてどうだったか等を尋ねるメッセージを送ったが一向に返事がなかったのだ。時計の針はまもなく二十時を刺そうかという所まで迫っており、一時間以上前に送ったメッセージも既読にすらならず、幸太の不安はどんどんと募っていくばかりだった。
叶さん大丈夫か?何してるんだろう?――。
待つことしか出来ない自分に苛立ち、もどかしい想いばかりが募る幸太は、先日訪ねた隣街のサーフショップをネットで検索し始める。
幸いすぐにホームページが見つかりそこには代表の電話番号が掲載されていた。
幸太がすぐにスマートフォンを片手に電話をかけ始めると数コール鳴った後、電話はすぐに繋がる。
「もしもし?」
「もしもし、あのすいません。先日其方に鬼龍さんと一緒にお伺いした倉井幸太って言います。実は鬼龍さんと連絡が取れなくなってしまって、申し訳ないんですが鬼龍さんに紹介していただいた方の連絡先教えて頂けないでしょうか?」
「ああ、あの時一緒にいたお兄ちゃんか。連絡取れなくなったって言ってもまだ時間的にはそんなに経ってないんじゃないのかい?」
幸太は出来る限り低姿勢に尋ねたが、それでも相手の姿は見えないものの難色を示しているのが伝わってくる。
確かに相手の言う通り連絡が取れなくなってまだ数時間だ。叶が疲れからうっかり寝てしまってる可能性だってある。
だがそれでも幸太は妙な胸騒ぎがして焦燥感に苛まれていた。
もし気のせいで叶さんがにっこり笑って「気にし過ぎだって」そう言って呆れられても構わない。その時は皆に頭を下げて謝って回ればいい――。
「確かにおっしゃる通りなんですが、どうしても連絡を取りたいんです。どうか、どうかお願いします」
電話口で見えない相手に対して、幸太は必死に頭を下げていた。
「う~ん個人情報だしなぁ……まぁしかしそんなに頼まれたら仕方ないか。分かったよ、教えるからちょっと待ってくれ」
「本当ですか、ありがとうございます」
結局ひたすら低姿勢に頼み込む幸太を無下にも出来ず最後は男性が折れる形になった。
幸太は連絡先を教えてもらうと、すぐにその連絡先に電話をかける。
だが今回は繋がらず留守番電話に繋がるだけだった。それでも幸太は諦める事なく電話をかけ続けると、三回目にしてようやく相手が電話に出てくれた。
「あ、あのすいません、自分倉井幸太と言います」
「……誰だ?」
「あの、今日そちらにお伺いした鬼龍叶さんと付き合ってる者なんですが叶さんと連絡が取れなくてまだ其方にお邪魔してたりしませんか?」
幸太の問い掛けに相手は暫し沈黙した後、落ち着いた口調で話し出した。
「……あの子の彼氏か。あの子なら十八時頃にこっちを出たよ。疑うんならこっちまで来るかい?住所なら教えてやるから」
「あ、いや、疑ってる訳じゃないんですが……叶さん何処か行くとか話してなかったですか?」
「う~ん、いや特に何も言ってなかったかな。行方不明になった羽生蛇崇の話が終わったらそそくさと帰って行ったしな。そう言えば、あいつが行方不明になった海で手でも合わせてやってくれって話はしてたけど、こんな天気の中行くとも思えないしな」
「……そうですか、ありがとうございました」
そう言って礼を伝えると幸太は電話を切り思慮を巡らせる。
約二時間前には叶さんは向こうを出たんだ。普通に考えたらそこか、もう暫くして連絡くれる筈なのに何もなかった。
そもそも叶さんが連絡くれるのは当たり前なのか?俺が自意識過剰で自惚れてるだけなのか?
いやそんな訳ない。叶さんだって俺の事思ってくれてる筈だ……じゃあなんで連絡がない?――。
自問自答を繰り返し、考えれば考える程幸太の不安が募っていく。
叶に自分が帰って来た事や男性の元を訪ねてどうだったか等を尋ねるメッセージを送ったが一向に返事がなかったのだ。時計の針はまもなく二十時を刺そうかという所まで迫っており、一時間以上前に送ったメッセージも既読にすらならず、幸太の不安はどんどんと募っていくばかりだった。
叶さん大丈夫か?何してるんだろう?――。
待つことしか出来ない自分に苛立ち、もどかしい想いばかりが募る幸太は、先日訪ねた隣街のサーフショップをネットで検索し始める。
幸いすぐにホームページが見つかりそこには代表の電話番号が掲載されていた。
幸太がすぐにスマートフォンを片手に電話をかけ始めると数コール鳴った後、電話はすぐに繋がる。
「もしもし?」
「もしもし、あのすいません。先日其方に鬼龍さんと一緒にお伺いした倉井幸太って言います。実は鬼龍さんと連絡が取れなくなってしまって、申し訳ないんですが鬼龍さんに紹介していただいた方の連絡先教えて頂けないでしょうか?」
「ああ、あの時一緒にいたお兄ちゃんか。連絡取れなくなったって言ってもまだ時間的にはそんなに経ってないんじゃないのかい?」
幸太は出来る限り低姿勢に尋ねたが、それでも相手の姿は見えないものの難色を示しているのが伝わってくる。
確かに相手の言う通り連絡が取れなくなってまだ数時間だ。叶が疲れからうっかり寝てしまってる可能性だってある。
だがそれでも幸太は妙な胸騒ぎがして焦燥感に苛まれていた。
もし気のせいで叶さんがにっこり笑って「気にし過ぎだって」そう言って呆れられても構わない。その時は皆に頭を下げて謝って回ればいい――。
「確かにおっしゃる通りなんですが、どうしても連絡を取りたいんです。どうか、どうかお願いします」
電話口で見えない相手に対して、幸太は必死に頭を下げていた。
「う~ん個人情報だしなぁ……まぁしかしそんなに頼まれたら仕方ないか。分かったよ、教えるからちょっと待ってくれ」
「本当ですか、ありがとうございます」
結局ひたすら低姿勢に頼み込む幸太を無下にも出来ず最後は男性が折れる形になった。
幸太は連絡先を教えてもらうと、すぐにその連絡先に電話をかける。
だが今回は繋がらず留守番電話に繋がるだけだった。それでも幸太は諦める事なく電話をかけ続けると、三回目にしてようやく相手が電話に出てくれた。
「あ、あのすいません、自分倉井幸太と言います」
「……誰だ?」
「あの、今日そちらにお伺いした鬼龍叶さんと付き合ってる者なんですが叶さんと連絡が取れなくてまだ其方にお邪魔してたりしませんか?」
幸太の問い掛けに相手は暫し沈黙した後、落ち着いた口調で話し出した。
「……あの子の彼氏か。あの子なら十八時頃にこっちを出たよ。疑うんならこっちまで来るかい?住所なら教えてやるから」
「あ、いや、疑ってる訳じゃないんですが……叶さん何処か行くとか話してなかったですか?」
「う~ん、いや特に何も言ってなかったかな。行方不明になった羽生蛇崇の話が終わったらそそくさと帰って行ったしな。そう言えば、あいつが行方不明になった海で手でも合わせてやってくれって話はしてたけど、こんな天気の中行くとも思えないしな」
「……そうですか、ありがとうございました」
そう言って礼を伝えると幸太は電話を切り思慮を巡らせる。
約二時間前には叶さんは向こうを出たんだ。普通に考えたらそこか、もう暫くして連絡くれる筈なのに何もなかった。
そもそも叶さんが連絡くれるのは当たり前なのか?俺が自意識過剰で自惚れてるだけなのか?
いやそんな訳ない。叶さんだって俺の事思ってくれてる筈だ……じゃあなんで連絡がない?――。
自問自答を繰り返し、考えれば考える程幸太の不安が募っていく。
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