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海女⑤
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一方叶は約束通り紹介された男性の元を訪れていた。
「すいません突然無理を言って」
そう言って深々と頭を下げる叶を男性は椅子に腰掛け、まるで品定めするかの様に静かに見つめていた。
「……いやまぁいいけどな。なんだ羽生蛇崇について聞きたいんだってな。十数年前の話だぜ、なんだい今更?」
ぶっきらぼうに応える男性からは、何処か警戒心の様なものが感じられた。それでも叶は男性の警戒心を解く様に、丁寧に優しく語り掛ける。
「はい、私はこの辺りの伝承や昔話、ひいては怪談話なんかも調べていたんです。その中で羽生蛇崇さんの話も聞いて、どうしても私は羽生蛇崇さんの行方不明がただの事故に思えなくて。もしよろしければ当時の状況を教えて頂きたいんです。例えば彼がどんな人だったのかとか付き合ってた方はいたのかとか」
「……そうだな、崇はサーフィンが大好きで四六時中海に行ってるような奴だったな。爽やかな奴で女の子からも人気はあったけど特定の付き合ってる子はいたのかな?あいつあんまりそういう事話してくれなかったけど、あっそう言えばなんか狙ってる子はいるって言ってたかな?」
「そうなんですか?その方に会った事は?」
「ないよ。言ったろ?あいつはそういう事あまり話してくれなかったって。あいつは何よりサーフィンが好きだったからな。だから波があるからって一人で夜の海に波に乗りに行ってそのまま行方不明になっちまったんだ。確かあの日も今日みたいに風が強くてどんどん天気が荒れてくる日だったな」
「そうなんですか。それでは海女の話について何か知ってる事は?」
「ああ、なんか崇が行方不明になってから広まった怪談話だよな?その辺は俺は全然詳しくないからな」
「なるほど、崇さんが行方不明になる以前にその話を聞いた事はありますか?」
「……いやないな。だから俺は崇が行方不明になったからそんな話を誰かが面白がって作ったんじゃねぇかって思ってるのさ」
「そうですか、なるほど。では――」
その後叶はいくつか質問していくが特に有力な話を聞く事は出来なかった。
「本日はお忙しい所ありがとうございました」
最後に叶が深々と頭を下げると男性も立ち上がり軽く頷いた。
「いや、こっちも久々にあいつの事話せて少しすっきりしたよ。また良かったら花でも手向けてやってくれないかな?」
「あっ、そうですねまたお墓参りにでも伺わせて頂きます」
「いや、墓にはあいつ入ってないからさ、あいつがよく行ってた海岸にでも行って手を合わせてやってくれ。あんたみたいな美人が行ったらあいつも喜ぶだろうから」
「ふふふ、なるほどありがとうございます。因みに崇さんがよく行ってた海岸とはこの街の海水浴場ですか?」
「ああ、そうさ。あそこに今も海の家があるだろ?あいつはあそこによく入り浸ってたんだ。あいつのサーフボードもあの辺で発見されたんだけどな……あいつだけが見つからないんだ」
そう言って悲しそうな顔をする男性だったが、その瞬間、叶は全身に悪寒が走った。
『あの黒いモヤの正体ってまさか――』
「すいません、今日は本当にありがとうございました」
叶は再び頭を下げると、すぐさま踵を返し足早に歩き出す。
時刻は既に十八時を回っており、台風並みの強風が吹き荒れる中、叶は歩きながら思慮を巡らせていた。
『……ちょっと待って、だとするとおかしくない?なんであんな事――』
叶が再び海岸に戻って来る頃には完全に陽は落ち、吹き荒れる風は強さを増しており、雨粒が空から落ち始めていた。
そんな中、叶は傘もささずに海を見つめて佇んでいた。
「すいません突然無理を言って」
そう言って深々と頭を下げる叶を男性は椅子に腰掛け、まるで品定めするかの様に静かに見つめていた。
「……いやまぁいいけどな。なんだ羽生蛇崇について聞きたいんだってな。十数年前の話だぜ、なんだい今更?」
ぶっきらぼうに応える男性からは、何処か警戒心の様なものが感じられた。それでも叶は男性の警戒心を解く様に、丁寧に優しく語り掛ける。
「はい、私はこの辺りの伝承や昔話、ひいては怪談話なんかも調べていたんです。その中で羽生蛇崇さんの話も聞いて、どうしても私は羽生蛇崇さんの行方不明がただの事故に思えなくて。もしよろしければ当時の状況を教えて頂きたいんです。例えば彼がどんな人だったのかとか付き合ってた方はいたのかとか」
「……そうだな、崇はサーフィンが大好きで四六時中海に行ってるような奴だったな。爽やかな奴で女の子からも人気はあったけど特定の付き合ってる子はいたのかな?あいつあんまりそういう事話してくれなかったけど、あっそう言えばなんか狙ってる子はいるって言ってたかな?」
「そうなんですか?その方に会った事は?」
「ないよ。言ったろ?あいつはそういう事あまり話してくれなかったって。あいつは何よりサーフィンが好きだったからな。だから波があるからって一人で夜の海に波に乗りに行ってそのまま行方不明になっちまったんだ。確かあの日も今日みたいに風が強くてどんどん天気が荒れてくる日だったな」
「そうなんですか。それでは海女の話について何か知ってる事は?」
「ああ、なんか崇が行方不明になってから広まった怪談話だよな?その辺は俺は全然詳しくないからな」
「なるほど、崇さんが行方不明になる以前にその話を聞いた事はありますか?」
「……いやないな。だから俺は崇が行方不明になったからそんな話を誰かが面白がって作ったんじゃねぇかって思ってるのさ」
「そうですか、なるほど。では――」
その後叶はいくつか質問していくが特に有力な話を聞く事は出来なかった。
「本日はお忙しい所ありがとうございました」
最後に叶が深々と頭を下げると男性も立ち上がり軽く頷いた。
「いや、こっちも久々にあいつの事話せて少しすっきりしたよ。また良かったら花でも手向けてやってくれないかな?」
「あっ、そうですねまたお墓参りにでも伺わせて頂きます」
「いや、墓にはあいつ入ってないからさ、あいつがよく行ってた海岸にでも行って手を合わせてやってくれ。あんたみたいな美人が行ったらあいつも喜ぶだろうから」
「ふふふ、なるほどありがとうございます。因みに崇さんがよく行ってた海岸とはこの街の海水浴場ですか?」
「ああ、そうさ。あそこに今も海の家があるだろ?あいつはあそこによく入り浸ってたんだ。あいつのサーフボードもあの辺で発見されたんだけどな……あいつだけが見つからないんだ」
そう言って悲しそうな顔をする男性だったが、その瞬間、叶は全身に悪寒が走った。
『あの黒いモヤの正体ってまさか――』
「すいません、今日は本当にありがとうございました」
叶は再び頭を下げると、すぐさま踵を返し足早に歩き出す。
時刻は既に十八時を回っており、台風並みの強風が吹き荒れる中、叶は歩きながら思慮を巡らせていた。
『……ちょっと待って、だとするとおかしくない?なんであんな事――』
叶が再び海岸に戻って来る頃には完全に陽は落ち、吹き荒れる風は強さを増しており、雨粒が空から落ち始めていた。
そんな中、叶は傘もささずに海を見つめて佇んでいた。
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