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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』
75.とある幽霊の記憶
しおりを挟む「画廊寄くん、元気にしてる?」
その家に行ったわたしは、しつこいくらい呼び鈴を押し続けて、ようやく玄関のドアを開けて顔を見せた彼に対し、けっこう勇気を振り絞ってそう言ったのだけれど。
「まあ、病気とかしてるわけじゃないので健康ではあるけれど……。えーと、何でしょう?」
結局、そんな素気の無い対応をされてしまった。
「あ、あの、画廊寄くん、最近学校来てないでしょ? だから、担任の髪永先生にプリント届けるように頼まれて……。ほら、わたし達って小学生からずっと同じクラスだったじゃない、そのよしみで」
わたしは照れと緊張で顔が火照っているのが恥ずかしくて、矢継ぎ早に言ったのだけれど……。
「え、ああそうなんだ。どうもご苦労様です」
そんなそっけない返事を返されてしまい、さらに恥ずかしくなってしまったわたしは、
「いいのいいの。忘れて忘れて! それじゃ」
と、久しぶりに出た昔の口癖を残して逃げるようにその場から立ち去っていた。
そんな帰り道……。
完全にわたしの存在を忘れていた相手の様子に、『それならわたしのことを覚えてくれるまで続けてやろうじゃないの!』と、なんだか妙な意地が湧きて、それからというもの週2~3回くらいのペースでプリントを届け続けたのだけれど……。
「ええと……どちら様でしょう?」
「ええ? えーと……」
と、毎回そんな感じで、いつも同じような会話を繰り返すだけだった……。
それでもめげずに足蹴く通い続けているとやがて、ようやくわたしの顔を見ても『この人誰だろう?』という顔をしなくなってくれるようにはなっていった。
それでも彼のそっけない態度は変わらなかったけど……。
「どなたかは存じあげませんがいつもありがとうございます」
今日はそうきたか……じゃあこっちもそれに合わせて……。
「いえいえ、礼を言われるようなことでは。こちらは名乗るほどのものではありませんし」
「いや、別に名前は聞いてないっすけど……」
いやなにそれ……という感じではあったけど、だんだんとコミュニケーションが図れるようになってきた、そんなある日。
わたしはたまたま見付けた雑誌に載っていた『イメチェンして、男子の気を引こう』なんて、そんな記事を真に受けてしまったわたしは、髪型を変えて彼の家に行ってみた……。
とはいえ、いきなり髪を切ってショートカットにするなんて度胸も無かったので、出来たのは髪の毛を結ぶくらいだったんだけど……。
で、その結果。
「……あれ? 今日は違う人なんだ」
そんな、残念な返答をされてしまった……。
どうやら、今まで彼は、わたしの顔を認識していたわけではなく、髪型で判別していたらしいという、残念な事実を突きつけられる結果となっていた……。
わたしはまた恥ずかしくなって、慌ててしまう。
「え? ああ、ちょっと気分を変えようと思って髪型変えただけだよ! 髪を縛ってみたんだけれど、に、似合ってない!?」
「え? あ! え、えーと……」
という感じで困っている彼に、わたしは……。
「あ、あはは、似合ってないよね! ごめん、今日の事は忘れて、はいこれ、いつもの!!」
と、手に持っていたプリントを押し付けるように渡しながら、さっさとその場を後にしていた。
その帰り道……、
「あれは怒ってよかったかも……。ってか女の子が髪型変えた時には普通ウソでも褒めるべきなんじゃないの?」
なんて、今更という感じで怒りを覚えかけたんだけど……。
『……あれ? 今日は違う人なんだ?』
と、なんだかちょっぴりガッカリしていたように見えた彼の態度を思い出して……。
それだけのことが、なんとなく嬉しく感じた……。
**
そんな帰り道わたしは思う。
そもそも、あの人を思い通りにする方法なんて、どの本のマニュアルにも無いのだ。
それこそ神様とかで有ったとしても、彼の行動を予測したり思い通りに操り続けたりなんていうは無理だろうと思う。というか、あの人の思考回路は一般男子どころか人とかですらなく、それとはまったく違う画廊寄武等という別の生き物なのだ。と。
――うん、彼のことを理解しようと思ったら、心で……いや、魂で感じ取らなきゃいけないんだ。
そう思い立った日から、わたしは彼のことが少しずつ理解できるようになっていく気がした。
まあ、それは、単なる思い込みだったのかもしれないけれど……。
「はい、どちらさんでしょう?」
と、明らかにわたしを認識していながらもそんなそっけない対応を返す彼に対して、怒りや戸惑いを感じることは無くなっていった。
**
そのあたりで、わたしの記憶は終わっていました。たぶん、その頃に……わたしは命を落としてしまったのでしょう。
あれ? これって恋のお話だったのでしょうか? なんだかちょっと違う気もしてならないのでした……。
「会話の途中で無言にならないでくれよ。えーと……『わたしだって……』の続きは何だい?」
そんな心配そうな声でふと我に返ると目の前にはその画廊寄くんの顔があって、わたしは思いっきり動揺してしまうのでした。
ああ今のわたしは幽霊なんだ……。
そんなことを思いながらわたしは彼に答えるのでした。
「あ……。すいません、少しばかり考え事をしてしまっていたようで……」
「そうか、何はともあれ大丈夫そうだな」
****
流れてきたその記憶を見ていた中で彼女の目に映っていたのは、昨日から着替えもせずに着続けている赤いシャツを着ていた僕の姿だった……。
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