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第30話 宿でやらかしました。

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 道を間違えたのもあり歩く事約30分、ようやく目的の宿屋街が見えてきた。これまでの疲れが腰にこたえていたが、やっと一泊できる場所に着いたと思うとほっとする。
 何日山の中を彷徨ったかよくわからないが、ちゃんとしたベットで寝たいぞ!

「受付嬢さんに聞いた宿は何と言ったっけ?」

 俺は受付嬢に見惚れていたのもあり、宿の名前とかすっかり忘れていてエリスに尋ねた。

「あちらが高級宿で、中級宿は右手の方ですね」

 エリスは首を傾げつつも素直に教えてくれた。俺と違い、ちゃんとしてるよな!これで見た目が良ければ完璧なんだけど、天は2物を与えず!?こんな性格の良い子なんだから火傷を直してあげたいなと心の底から思う。

「ふーん、どっちがいい?」

 俺はどちらでも構わないので彼女に意見を求めた。エリスはどう思っているのだろうか?奴隷としてひどい目に遭ってきた?のだから、せめて宿くらいは快適なところに泊まって欲しいと思ったんだ。でもね、多分意見は出て来ないんだろうな。でも聞くだけはね。

「私はどちらでも良いと思いますが、タケル様はどう思われるのでしょうか?」

 やはりエリスは自身の意見を言わず、俺の意見を聞いてくる。彼女はいつも俺のことをタケル様と呼ぶが、彼女にタケルと呼んで欲しいと言ったがそれは命令がなければできないと言う。彼女は奴隷としての教育を受けてきたのと、首輪をしている以上それは仕方がないのかもしれない。でも、俺は彼女を平等に扱いたかった。

『高級宿は悪目立ちするよな?』

 高級宿は敷居が高いかなと思い、呟きながら少し思案した。
 俺はこの世界に来てからまだ日が浅い。俺は元々別の世界に住んでいたが、ある日突然この世界に飛ばされてしまったのだ。俺はこの世界のことをほとんど知らない。だから俺は目立たないように生きたかったが、いきなりギルドマスターに異世界人だと看板された。高級宿に泊まると俺の正体に気づかれるかもしれないし、今はこれ以上知られるのを避けたかった。

「んー、じゃあ、中級宿でいいかな。高級宿はちょっと敷居が高そうだし」

 俺はそう言って右手の宿に向かった。
 その宿の名前は『炎の獅子亭』と書かれているが、読めないのでエリスに読んでもらった。その宿は赤と黄色の看板に炎と獅子の絵が描かれており、中級宿としては立派な建物だ。俺はエリスの手を引いて宿の入り口に立ち、ドアを開けると中から暖かい空気が流れ出てきた。

「いらっしゃいませ、ようこそ炎の獅子亭へ」

 宿の中は暖かくて明るく、広々としたロビーにはテーブルや椅子が置かれており、壁には炎や獅子をモチーフにした絵や装飾品が飾られていた。ロビーの奥には受付があり、そこには宿の主人と思われる男性と従業員か娘と思われる若い女性がいた。二人は俺の方を向いて笑顔で声をかけてきた。

「こんにちは、この宿に泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」

 俺は受付の女性に尋ねた。俺はこの世界の通貨についてもあまり詳しくなかったが、幸いにもエリスが俺に教えてくれた。俺はこの世界に来た時にこの世界のお金は持っていなかったが、盗賊を倒した時に集めた金貨や銀貨があり、それで足りるはずだ。明日は盗賊討伐の報奨金だか懸賞金の手続きをする。受付嬢の感じだと期待が持てる。更に魔石をたくさん持っているから売りたい。売れるよね?

「お一人様でよろしかったでしょうか?」

 受付の女性はエリスを見てそう言った。エリスが首輪をしていることから奴隷だと判断したのだろう。俺はその言葉に少し怒りを覚えた。エリスは奴隷ではなく俺の仲間だ!

「いや、彼女と二人だが」

 俺はそう言ってエリスを抱き寄せる形で示したが、エリスは驚いたように俺を見たが、すぐに目を伏せたので頭を撫でて安心させようとした。

「失礼しました。そちらの方は首輪をしておりますので奴隷かと思いましたので」

 受付の女性は驚いた様子で言い、俺の態度に戸惑っていた。この世界では奴隷は人間として扱われないのだろうか?俺はその現実に憤りを覚え有り体に言うとムカついたんだ。

「どういうこと?」

 つい俺は冷たく言い彼女の言葉に不快感を示した。
 俺はエリスのことを大切に思っているからだ。

「奴隷は夜伽の相手をする場合以外、干し草置き場か床で眠るのが一般的で、普通は人数に含みません。食事も別メニューになります・・・」

 受付の説明を受け、一気に怒りがこみ上げてきた。エリスが奴隷として見下される現実に内心に押さえきれない怒りが渦巻いていき、受付の言葉が終わった瞬間、俺の怒りはもう抑えられなくなった。カウンターにある花瓶にヒビが入るほどに怒気が出てしまい、町全体の空気が震えるほどだった。もろに俺の時に晒された受付の女性は『ヒィ』とうなり尻餅をついた。
 だけどエリスが俺の腕をそっと掴んで、その固くなった胸に引き寄せて何とか俺を落ち着かせようとした。

「私なら大丈夫ですから、どうか落ち着いてください」

 エリスに抱きしめられはっとして俺は怒りを抑え、深呼吸すると受付の女性に冷静に話した。

「俺は彼女を奴隷扱いするつもりはない。普通の客と同じ扱いをしてほしい。2人分のお金以外に追加料金が必要ならそれは俺が払うから、食事も俺と同じものを出してくれ」

 宿の人はビックリした表情をしたけど、俺の言う通りにした。
 元々金貨1枚の部屋代を一般客用の二人部屋とし、金貨1枚と銀貨8枚を支払った。
 それと割れた花瓶の分と、臭いから多分失禁したようなので、クリーニング代として悪かったなと一言言って金貨1枚を握らせた。
 その手は震えていたな。
 ごめんなさい。俺は女性にとんでもないことをしました。

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 俺達が泊まるのは三階の角部屋だったが、部屋に風呂はない。
 しかし、ここは小さいとはいえ風呂付きの宿で、一階にある浴場は入口に鍵をかけて貸し切りとして使うと説明された。

 部屋に入り荷物を置くと着替えを持って風呂場に向かう。ユニットバスよりは大きいが、湯船は二人が辛うじて入れるサイズで、お湯は魔道具で沸かすタイプだ。エリスは魔力が足りないって言ってたけど、俺が魔力チャージしたら、すぐに湯が沸いたんだ。エリスもそれにはビックリしていたな。

 湯船のお湯を桶で汲んで使うしかなくて、最初に体を洗ってから湯に浸かったがどうやら高級宿には大浴場があるらしい。
 この世界に慣れたら高級宿にも泊まりたいな。

 エリスが背中を流すと言っても聞かず、更に不安から離れたくないとポツリと漏らしたのもあって、結局一緒に入浴することになったんだ。

 風呂場に入った時、エリスの火傷の跡がちらりと見えてしまい心が痛んだ。恥ずかしさではなく、見苦しいものを見られまいと俺の背後に回ろうとするが、2人が裸で風呂に入れば、大して広くもないのでそりゃあ見えるさ。エリスの火傷は前側だけで、程度は酷いとしか言えない。よくこの火傷で生きているなと思うも、魔法や回復ポーションがある世界だからそう言うものなのかな?エリスの背中側には傷がなく、その姿はとても美しかった。お尻は小尻で引き締まった肢体だ。
 彼女は顔を見られたくないのもあり、この日は俺の提案で背中の洗いっこをした。

 お風呂を上がると次は食事だ!
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