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第29話 専属

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 夕暮れの空が赤く染まり始める頃、俺たちは扉を開けてギルドマスタの部屋の外に出た。この日、俺たちは受付嬢の名前を知ることはなかった。エリスはネームプレートに目もくれなかったし、俺はネームプレートに気が付いていたが、残念ながら文字が読めなかった。

 俺たちを受け持ってくれた受付嬢の名はサキ。18歳で人気の美人受付嬢だ。女性冒険者からの信頼はもちろん、男性冒険者からの人気も高かった。彼女の仕事ぶりは他の受付嬢とは比べ物にならないほど優秀で、細やかな気配りもできた。そして、彼女は決してその美貌を鼻にかけることはなかった。明るく気さくな性格で、女性からの妬みもなかった。
 ただ、以前の出来事により男性単独又は、男性のみのパーティーは彼女のところに並ぶことを許されていなかった。

 ギルドマスターは俺たちを見送るとき、さりげなくとんでもないことを言った。

「明日からこいつをお前の専属受付にしてやる。ここでこいつより使える受付嬢はおらんからな。ありがたく思え!」

 そう言うとギルドマスターは豪快に笑い、手をヒラヒラさせて下がらせてきた。サキの扱いが雑だが、ギルドマスターからの信頼は厚いようだ。
 確かさっき頭を叩いていたよな。

 サキは驚いていたが、ギルドマスターが自分を専属にすると言うのだから、彼女も拒むわけにはいかないようだ。

「マスター!そんな大事なことを勝手に決めるだなんて!もう、前もって相談してくださいよ!」

 彼女は抗議したが、せいぜいここはタバコ禁止の場所ですよ!外で吸って下さい!程度の抗議だ。

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 ギルドマスターは冷や汗をかいていた。これまでのタケルに対する態度は虚勢だったことに気がついたのはタケルだけだった。
 このギルドマスターはかつてS級にまで登り詰めた猛者であり、その猛者が直感からタケルの強に危機感を感じた。
 しかし、醜女の女を大事に扱っていることから単に美女をあてがうような手は通じないと感じたのだ。だからギルドとして誠意を見せることにした。

 サキは美人で、男には少々きつく当たるが、もしタケルが彼女に惚れたら、それはギルドにとっても儲けものだった。そしてサキはギルドマスターの懐刀であり、切り札だった。彼女を専属にすることでタケルの機嫌を取り、ギルド側に繋ぎ止める贄として使うつもりだった。彼女の真価はその高い知性と機転にあった。
 外見はあくまでおまけだ。

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 サキは抗議したが、ギルドマスターはすでに次の仕事の為に机に向かっていた。

「もう、勝手なんだから!タケルさんと言いましたね。今日はもう暗くなってきたので、続きは明日にしましょう。自己紹介とか冒険者登録も明日します。それで良いですよね?」

「ああ。俺たちも疲れたし、早く休みたいからそれで頼むよ。今詳しく話を聞いてまあたまに入りそうにないしな。それよりも良い宿はないか?」


「そうねぇ。タケル様は奴隷連れですから、トラブルを避けるために中級か上級宿がいいわね。中級宿は『炎の獅子亭』で、高級宿は『白銀の月宮』よ」

 サキはさらっと答えた。

「どちらに泊まるかは雰囲気を見て決めるよ。とりあえず、朝一番でここに来ればいいんだよな?」

「ええ、そうしてもらえるとありがたいです。明日お待ちしています。寝坊しないでくださいね。それではタケル様、今日はお疲れ様でした」

 サキの笑顔が眩しい。

 そうして別れの挨拶をして俺たちはギルドを出た。
 サキの笑顔に心を奪われそうになったが、エリスに引っ張られていたのだ。

「タケル様、暗くなってきましたから道に迷わないよう早く宿に行きましょう。私、疲れました」

 これまで見せなかった疲れを訴えた。

「ああ、そうだな。まずは宿屋街に向かおうか」

 そして俺たちはサキに教えられた方向に歩き始めた。
 夜の街は賑やかで、色とりどりの灯りが道を照らしていた。屋台や店が建ち並び、人々が食べたり飲んだり買い物をしている日常がそこにあった。

 俺たちは大勢の人にぶつからないように町の中心部を歩いたが、時々不審な目で見られていた。
 だがそれは俺の服装が浮いているからかもしれない。

「タケル様?あの人たち私たちを見ていませんか?」

 不安そうにエリスが尋ねてきた。

「気にしないで良いんじゃ?ここは人種が多様な街だから、珍しいものを見ると興味を持つだけだよ。多分俺は浮いているんだろ?」

 俺は周りの人々より背が高く、身長だけでも目立ちそうだった。

「でも・・・嫌な感じがします」

 不安そうにエリスは言った。

「大丈夫だって。俺が守ってやるから」

 俺はエリスの手を握ると笑顔で励ました。エリスは俺の優しさに心を和らげたが、周りの視線に感じる不安は和らがなかったようだ。
 確かにどこからともなく嫌な視線を感じていたが、特に彼女は奴隷だから、人の悪意に敏感だったようだが、振り向いても誰も見ていなかった。俺はそれを気のせいだと思い、先を急いだのだった。
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