快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

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流浪の如く

ナツの忌まわしき過去

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ナツのマンションは、ワンルームのオートロック式で建てられて間もない、新築の外観だった。

「どうぞ、入って」

ナツはスリッパを出し、中に入った。

「お邪魔しまーす」

リビングはエスニック風のじゅうたんが敷かれ、黒のソファーに赤のクッション。

少し大きめなテーブルには、アロマキャンドルが置いてあった。
そのせいか、部屋中が甘い香りに包まれている。

ソファーに座り、目の前にある寝室には大きめなベッドにタンス、空気清浄機が置いてある。

あれ?テレビが無い。

リビングに机があって、パソコンが設置されてる。
パソコンで動画観てるのかな。

「古賀くん、何飲む?コーヒーと紅茶とミネラルウォーター、あとは牛乳かな」

「水でいいよ」

「水?コーヒーとかじゃなくて、水でいいの?」

オレはいつも水しか飲まない。
たまにコーヒーを飲むぐらいで、冷蔵庫にはいつも水がストックされている。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがと」

マグカップに水…なんか不釣り合いだな。

「お腹空いたでしょ?何か食べる?」

出前でも取るつもりだと思っていた。

「いいよ、そんなに腹減ってないし」

どうも、女にご馳走してもらうというのが、オレにとっては少し情けないというか、恥ずかしい。

「えぇ、何か食べてってよ。あ、パスタがあるからペペロンチーノ作ろうか?」

「料理すんの?」

てっきり出前でピザでも頼むのかと思った。

「作れるよ~、だってひとり暮らししてるんだもん、自炊は高校の時からやってるし」

それなら、食べてみようか。

「じゃ、それ食べるよ」

「ちょっと待っててね」

ナツはエプロン姿になり、パスタを茹でている。

思ったより家庭的な女なんだな。

しかし、テレビが無いとシーンとして、間がもたない。

オレは不審者みたいに、部屋をキョロキョロしていた。

あ、洗濯物がある。
下着も干してあった。

オレは下着で興奮するつもりは無いが、どんな下着なのか見た。

赤の上下か…赤って興奮だとか気分を高揚させるとか言ってたな。

勝負下着というヤツか?


やがて、キッチンからジュージューとフライパンで炒めている音がした。
ニンニクの匂いがして、食欲を刺激する。

「もうちょっとで出来るから待ってて」

キッチンで料理する横顔を見たが、中々サマになってる。

「はい、出来たよ。食べてみて」

「いただきます」

ペペロンチーノを一口食べた。
とうがらしがピリッと効いて、ニンニクの香りが口一杯に広がり、かなり美味い。

「美味いじゃん、これ」

「そう、ありがと。料理は得意だから、ほとんどの料理は作れるんだよ」

実はかなり腹が減っていた。
女に奢ってもらうから遠慮したが、手料理なら話は別だ。

あっという間に平らげ、腹が満たされた。
「ご馳走さまでした。美味かったよ」

「じゃ、今度は別の料理作ってあげるね」

「あのさ」

「ん、何?」

話を本題に移した。

「オレの目がどうしたって?」

ナツはオレの目を見て、少し首を傾げながらやや伏し目がちにしていた。

「古賀くんてさぁ、私もそうなんだけど、冷めてるというか、目に表情が無いよね」

目に表情が無い…

随分と変わった表現だな。
隣に座っているナツの目を見た。
やっぱり、淋しげな哀しみに満ちた目をしている。

コイツも過去に、何かトラウマになるような事でもあったのだろうか?

「実は私、人を信用する事が出来ないの」

…オレと一緒だ。 と言う事は、以前騙されたとか、そんな過去があるのだろうか。

「人を信用しないって言いながら、オレを部屋に入れてるってのは矛盾してない?」

「うん、まぁ、そう言われればそうなんだけどね…」

コイツとは、これと言った会話すら交わしていない。
なのに、部屋に入れるってのは、何かあるんだろう。

「あ、言っとくけど、宗教とかマルチ商法の話だったら帰るから」

すると、ナツはゲラゲラと笑った。

「そんな事しないよ~っははは!もしかして古賀くん、私の事、勧誘する為に家に入れたと思ってたの?」

…怪しいだろ、普通。会ったと言っても、オレはコイツにウーロン茶ぶっかけたし、外で会っても挨拶ぐらいしかしてない。

まさか、ウーロン茶の件で仕返しするつもりなのか?

「何だ、この前の仕返ししようってのか?いいよ、ほらここに水があるからオレに掛ければいいじゃん」

マグカップに入った水を、ナツに渡した。

「えぇ、そんなんじゃないんだってば」

「悪いけど、オレも人を信用してないんだ」

ナツは少し驚いた表情をした。

「やっぱりそうなんだ…私と一緒だね。初めて居酒屋で会った時から、何か普通の人と違うような気がしたから」

「だから、時折オレのとこを見ていたのか?」

「知ってたの?」

「オレを観察するかのような目で見ていただろ?そんなもん、すぐに分かる」

ナツは過去を話始めた。

「実はね、私父親に犯されてたの」

近親相姦…オレと一緒だ。

「だから、初めての相手が実の父親…おかしいよね、こんなのって」

オレは黙って聞いていた。
迂闊な事は話せないし、話したくない。

「私は中三の時にお母さんをガンで亡くして、父親と二人で住んでいたの。最初の頃は何もなく、普通の親子だったんだけど…高二の時、いつもの様に夕飯の支度をしていた時に後ろから襲われて…」

「で、抵抗しなかったのか?」

「抵抗しなかったというか、出来なかったの…お母さんを亡くして、お父さん淋しかったんだろうなぁと思ったらつい…」

オレはそれがイヤで、中学を卒業後、母から離れた。


「だからすごいショックだった…それ以来、事ある毎にわたしを…」

「…」

「それでね、卒業間近にまた、いつものように私を求めてきたの。
その時、護身用にナイフを持ってたの…いつも枕元に置いて。
それで、父が私の布団に入ってきた時に揉み合って、私は持ってたナイフで刺してしまったの…
刺したというか、揉み合ってる最中に刺さってしまったっていう感じで…」

「それで、オヤジさんはどうなったの?」

「幸い命に別状は無かったけど、私は殺人未遂の容疑で…だけど、正当防衛だと認められた時は、少し経ってからだから…
卒業間近で高校を退学させられたの」

…悲惨な人生を歩んできたのか。

「私は北海道の出身で、正当防衛が認められた時、すぐに北海道を離れて上京したの。とにかく、父から離れたかった。
それに、近所の目もあったし」

それで、キャバ嬢やってるってワケか。

「それと、もう一つあって、私には年の離れたお姉ちゃんがいて、そのお姉ちゃんを探しに、上京したんだけどね」

「そのお姉ちゃんは、東京で何してたの?」

「その頃は、高校の教師をしてたんだけどね。実はお姉ちゃんが生まれた頃、今で言うデキ婚らしくて、お互い貧乏で育てられないって事で、児童養護施設って言うのかな?高校を卒業するまで、そこにいたらしいのよね」

(高校教師で、しかも施設で育てられた過去を持つ。…まさか鴨志田?いや、そんな偶然はないだろう)

ナツの話を黙って聞いていた。
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