快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

sky-high

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新たな出発

覚悟

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学校が終わると、沢渡さんに連絡を入れた。
アパートに着いた頃には、既に沢渡さんが到着していた。

いつものように、ブランド物のスーツを着こなし、ダンディーな格好だ。

オレは沢渡さんにコーヒーを淹れ、テーブルの前に置いた。

「あぁすまないね。ところで、あのお金の件なんだが…一体どうやって全部使い果たしたんだ?」

オレが1000万全部使いきったという事が信じられないみたいだ。

鴨志田の墓を建てた事、兄の遺骨をドブ川に投げ捨てた事、兄の幻影に悩まされ続け、この金を全部使いきってやろうと毎晩風俗通いした事、そして凜の事を包み隠さずに話した。

沢渡さんはただジッとオレの話を聞いていた。

その後、沈黙が続いた。
オレはこの間が果てしなく長く続くんじゃないかと思う程、沢渡さんは黙ったままだった。

オレも話すことは全部話した。
だが、一向に口を開く気配は無い。

お互いにただ黙っているだけだった。

すると、沢渡さんは重い口を開いた。

「亮輔くん」

「はい…」

「どういう経緯であれ、あの金を全て使いきるとは言語道断!あれは君の将来の為にと思って渡した金なんだ。
それを君はそんな事に使うだなんて…」

「本当に申し訳ありませんでした。でも、あの金を持っている間、オレは兄の薄ら笑いをしている顔が離れなくて…金を持っているからいつまでも兄が付きまとうんだ、ならばいっそ全部使うしかない、と思ったんです。
これは本当です。信じてくださいと言っても信じてくれないでしょうが…」

確かにあの金を全部使いきった後、兄の幻影に悩まされる事は無かった。

となると、あの金は使いきって正解だと思っている。

「君は数奇な人生を歩んでいるね。私には計り知れない人生だ」

確かに。
オレはそういう星の下に生まれてきたのだろうか。

次から次へと災難が降りかかってくる。

「あの金を使ってしまった事は本当に申し訳ないと思ってます。でもオレ、そうでもしないと気が狂いそうだったんです」

人を信用しないと誓ったが、沢渡さんは別だ。
この人は信用する、しないという存在ではない。


「うん、わかった。君の目を見てウソか本当か見極めて見たが、どうやら君はウソをついてなさそうだ」

この人にウソは通用しない。
長年、裏の世界を渡り歩いた人だ、オレみたいなガキがウソをついてもすぐにバレてしまうからだ。

「あの金を君に渡したのが悪かったのかもしれない。悪いのは私の方かもしれん」

「そんな事ないです!沢渡さんはオレの事を思ってあんな大金を渡してくれた、言わば恩人です。悪いのはオレなんです」

オレはテーブルに額を擦り付ける程、頭を下げた。

「もういい、頭を上げなさい。それよりこれからの事だ」

そう、問題はこれからどうやって生活していこうか、その事も兼ねて沢渡さんとこうやって顔を合わせたのだから。

「君はレンタル倶楽部の一員になる、そう言ってたね?」

「はい、母の治療費を稼ぐにはそれしか無いと思ったので」

「本来ならば、社長になった私がバックアップしなきゃならんのだが…何せ会社は倒産寸前の状況だった。私も君のお兄さんにしてやられたようなもんだ」

「あの、本当にどうしようもないクズな兄で申し訳ありませんでした…」

「いや、君が謝る事はないんだ。君も私も被害者なんだよ。そして君の生みの母と育ての母も…」

本当に悪魔のような存在だった。
冷酷で、邪魔する者は即刻消し去る。
だからこそ、あんな不様な死に方をしたのだと。

「兄の事は忘れようとしても忘れる事はないでしょう。
ならばオレは一生兄に付きまとわれながら生きていくつもりです」

「そうか。もう一度聞くが…君はレンタル要員になる覚悟はあるのかね?」

沢渡さんは険しい表情で、オレの目を見据えながら聞いてきた。

こうなったら何でもやるしかない。
また母と一緒に暮らそう、今のオレにはその事しか頭に無い。

「君の言うレンタルというのは、キレイ事だけじゃない、時には汚い事までさせられるんだ。金持ちの道楽に付き合うのは生半可な気持ちじゃ無理だ。
あの連中は金をもて余して、気分次第では神にも悪魔にもなる。亮輔くん、決して楽な事ばかりじゃないんだ、むしろ嫌な事ばかりを強いられるんだ。
それでも途中で投げ出すワケにはいかない。
もし、途中で投げ出したら、君の命は保証されない。
それでもいいのかね?」

沢渡さんは一気に捲し立てるように話した。

そりゃ金持ちの道楽に付き合わなきゃならないのは分かってる。
気まぐれで何をやらされるのかは知らないが、オレはもうその道しか残ってない。

もう突き進む以外ないのだから。

「分かってます。それを覚悟で沢渡さんに聞いているのです」

沢渡さんの目を真っ直ぐに見て、ハッキリと答えた。

「…よし、わかった。ただこれだけは言っておく。この先、何があろうと私は立ち入り出来ないし、責任も負えない。
全て君自身が背負う事になる。
もう一度言うが、本当にいいんだね?」

「はい。やるしかありません」

「やるしかありません、か。やらなきゃならんのだよ。今ならまだ引き返す事は出来る、もう一度よく考えた方がいいかもしれんな」

「沢渡さん」

「どうした…」

「他に母の治療費を捻出する方法はありますか?オレが昼夜働き働いても、到底追い付かない金額です。
それにオレはまだ16才、夜の仕事は禁止されてます。
かと言って、金を借りる事も出来ない。
他に方法があれば、この道に入る事は無いでしょう。
でも他に方法は無いんです。
ましてや、母の身内はオレしかいないんです。
だから、どうかそこの連絡先を教えて貰えませんか?
お願いします!」

再度頭を擦り付け、沢渡さんに頼んだ。

「…じゃあ、明日にでもここへ行ってみるがいい。私の紹介だと言えば、すんなりと会員になれるだろう」

沢渡さんはポケットから名刺を取り出した。

【高級レンタルクラブ フェアリー】

名刺にはそう記されてあった。
だが、名刺なのに名前が載ってない。

「名前の無い名刺なんて名刺とは言わないんだが。
それだけ極秘で情報を漏らす事の出来ない非合法なクラブという事なんだろうな」

「ありがとうございます。明日、ここに行ってみます」

「亮輔くん、さっきも言った通り、ここから先は私が踏みいる事は出来ない。
それでもやり遂げなきゃならないんだ。逃げ出す事も出来ない。
…まぁ、そう言っても今の君にはここしか無いって顔をしている。とにかく無事を祈る!
では私はこれで失礼するよ。
コーヒーご馳走様。では身体には気を付けるんだよ」

「はい、ありがとうございました。沢渡さんもお元気で」

沢渡さんはドアを開け、出ていった。
オレは沢渡さんがいなくなった後も深々と頭を下げていた。

もう、逃げられない。だが、母を元のように戻すにはこれしか無いのだから…

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