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第三十八話

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「待っていたぞ。未来の人」
宗桂のおっさんの部屋に戻るとおっさんは起きており、家康が座っていた。
「御用がありましたらいつでもお伺いしますのに」
宗古が恐縮して部屋に入った。

びっくりである。何故家康がここにいるのか。先ほどの続きなのか。
「先ほどの集音装置でしてほしいことがある。
私は世間で言われるほど太閤を嫌ってはいない。
太閤は信長と日本に革命をもたらす活動をしてきた気持ちを通じた同士である。
だから太閤も私に月の小面を与えたと思っている。
だから太閤の跡継ぎができれば支えてもいいと思っていた。
しかし、例の文書の最後の三行が気になる。
もし太閤の跡継ぎができたときに太閤の子ではないとすれば、日本の天下人で信長の考えを継げるのは私しかいない」
長い講釈だが何が言いたい?

家康は咳払いをして言葉を発した。
「淀君がここに子宝祈願に来た。
夢で遠江の神社を見たとのことだが、何か他に理由があるのではないか。
未来の人、淀君に集音装置使えないか」

「使えます。
家康様のためならやってみましょう」
宗古が間髪を入れず答えた。
スマホのアイコンで淀君を選択した。
歴史的は淀君の子は色々噂がある。吉川も興味本位で耳を澄ませた。

「大野」
「淀君」
女の嬌声が聴こえる。
「子が欲しい。私の中にそなたの物を注ぎ込んでくれ」
「承知しました」
激しく肉体がぶつかる音の後、静かになった。

「来電はどうした」
「遠江分器稲荷神社で始末しました。もう淀君を脅かす輩は生きておりません。ご安心を」
「秘密を守れぬだけではなく、私を脅そうとは不届き千万。
来電の子を宿さずに良かった。
大野は秘密を守れるな。太閤様は子種が無いようだ。
しかし私にはどうしても跡継ぎが必要」
「淀様は何もご心配不要でございます」
「大野は私の子を宿してくれるな。元はと言えば最初からそうすればよかったのじゃ。
大野が、強い精の持ち主がいて太閤の若い時に似ているというからじゃ」
「申し訳ございません。
わたくしが責任を持って切り捨てましたのでご安心ください。
必ず淀君のご期待に沿えるよう精進いたします」

「あれはどうした。来電が使っていた忍びの者」
「来電を始末する前に、来電に抹殺するように指示しました。
どこかで首を絞められた忍びの者が転がっているはずです。
生きていて家康を窮地に陥れるような品物でも持っていれば話は別ですが、そうでもない限り忍びの者は用済みです」
「そうか、大野のほうが体の相性が良い。大野の子種を宿したような気がする。
そろそろ太閤も伏見に戻る頃。
明日になれば浜松城を出発する手配をせよ」
「承知しました」
その後は静寂と寝息だけが聞こえる。

「うむ。私の推察通りだな。
これで決心がついた。
江戸に着いたら、今後について相談したい」
家康は満足そうな顔だった。

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