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第三十四話

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吉川は明日の作戦を宗古に確認した。
「女中になってもいいと嘘をついて、将棋盤から月の小面を出させたら、何とかするわ」
「そうなる前に小那姫に情交をさそわれたらどうする?」
「とにかく小那姫から本物の月の小面を将棋盤から出させてからよ。
抱いてほしい人から逃げるのは得意でしょう」

やり取りしている間に、日が暮れた。
小那姫が淀君を接待している宴を宗古はスマホの高性能集音機能を駆使して聞いている。
「宴会はただ飲み食いしているだけみたいね。
家康や堀尾吉晴、それに大野修理も参加しているわ。
スマホの音を一緒に聞く?」

吉川の横に宗古がきて、うつ伏せに寝転がって二人並んで上体を起こしてスマホを聴いている。

「大野修理の声だわ。相手は家康ね」

『家康殿、先日の肥前名護屋城での勝吉殿の能楽は見事でございましたな』
『そうですな。金春太夫殿や金剛太夫の舞も見事でしたよ』
『あの月の小面の被った演技は本当に見事でございました。今でもあの月の小面はお持ちですか』
『家来が厳重に保管しております』
『何度でも見てみたものですな』
『また太閤殿下の祝い宴があればその時には』
『最近は商人や職人が偽物を作って転売する輩が横行しているそうですな。お気をつけて』

『大野!』
淀君が呼んでいるわ。
『はっ。ただいま参ります』
『大野。こちらの小那姫が私を何度も美しいと褒めてくれるのだ。
小那姫は気に入った人と近々逢引をするらしい。
私も応援したいので、私の小袖の中で小那姫に似合うものを与えようと思う。
あの肥前名護屋城で私が来ていた着物を小那姫に渡してやりなさい』
『承知しました。手配いたします。』

嫌な予感しかない。
吉川が宗古を見ると、胸元を開けてさらしを取っていつの間にかすり寄ってきた。
「明日の練習をする?」
胸元から双丘の先についている二つの鮮やかな桃色が少し見えるのだが。
吉川は、耳たぶの温度が上がっていることを自覚した。
宗古が唇を近づけ目を閉じて迫ってきた。
すごい音がした。
外を見ると雲行きが怪しくなってきた。
黒い雲が近づいてきている。
「雷鳴だ。
城内の階下にある小さな稲荷にスマホを持って行ってみよう。
何か変化があるかもしれないよ」
不承不承の顔をした宗古とほっとした吉川は、城内にある小さな祠に佇んだ。
スマホが輝いた。
「ほら、レベル6よ。レベルが上がったのよ」
画面には、狐のような動物と6/10と書かれた数値とレベル6という文字が浮かび上がった。
それにスマホのアプリ画面で、また文字が追加された。
「宗古は武器を手に入れた。風神雷神を手に入れた」
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