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第二十七話

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城内に入ると、城内の女中が胸を小刀で刺されて死んでいた。
この女中は以前宗古と浜松城に来た時に事情聴取をした女中だった。たしか月の小面が消失した前夜に来電に誘われて来電の部屋で情事を誘われたと言っていた女中だ。
宗古が言った。
「四人目の死体よ」
石山安兵衛が血を流して死んでいた。
石山安兵衛が倒れている死体のそばには血と微かに黒いしみのようなものが落ちていた。
「女中は誰が刺されたのですか。何故石山安兵衛は暴れて、ここで殺されたのですか」
吉川は勝吉に聞いた。
「遠江分器稲荷神社で黄金の狐の前で胸に刺し傷のある女を載せたからくりの乗り物を私が浜松城まで運んだのです。
すると石山安兵衛が近づいてきて、その椅子を見たいといったのでまかせようとすると椅子の所に手紙のようなものが挟まっていたのを私が見つけたのです。
石山安兵衛は手紙には興味がなさそうで頻りに椅子の下のほうを見ていました。
石山安兵衛は死んだ女の躯を城内のすぐ近くにおいて、浜松城の女中を呼んで棺桶の代用になる木箱を貰ってその中に躯を入れたのです。女を刺したと思われる細い小刀もその木箱の中にいれていました。
からくりの椅子には細い竹筒のようなものがありバネと金属のようなものがついていて木の車輪のどこかと繋がっているようでした。石山安兵衛は、今度はそのいすをひっくり返して椅子の底を見ると、木箱から小刀を取り出しました。
そのまま石山安兵衛は大声をあげて城内の女中に切りつけたのです」
「何故石山安兵衛は急に錯乱したかのように女中に襲い掛かったのですか」
吉川は勝吉に聞いた。
宗古はからくり椅子の細い竹筒をみて、椅子の底を見て、石山安兵衛の死体の近くでスマホのカメラでバシャバシャと写真を撮っていた。
「わかりません。
城内でこのような沙汰を職人がすることなどとんでもないことなので、丁度通りかかった大野修理様が刀を振りかざし、石山安兵衛を切って捨てました」

別の女中がきて、石山安兵衛の死体と女中の死体と木箱にはいった女の死体を城の外に片づけようとしていた。
宗古は引き続きバシャバシャと写真を取って勝吉に言った。
「椅子の下のあった手紙には何が書いてあったのですか」
「『そして椅子に座り、能面を被り、血を流すことで黄金の狐は月を持ってくるであろう。』と書いてあった。何のことかさっぱりわからない」

宗古は合点が言った顔で俺を見て言った。
「からくり椅子の底には、石山安兵衛作と書いてあったわ」
そして俺の耳元で囁いた。
「石山安兵衛は、この椅子に石山安兵衛と夫婦の約束をした貞さんが死んだ仕掛けがあることを発見して、この椅子を石山安兵衛に発注した人物が貞さんを殺したと思ったようね。
だからこの椅子を石山安兵衛に発注したのは、さっき石山安兵衛に刺殺された女中だと思うわ」
女中がからくり椅子を発注するわけがないか、女中に誰かが頼んだに違いないな、そいつが犯人か。
そう吉川が考えていると、宗古が頷いていた。
何でわかるのだ。
「それくらいわかるわよ。夫婦の以心伝心というものね。誰だと思う」

勝吉に連れられて城内に入ろうとすると、宗古が城内に小さな赤い鳥居と黄金の狐と神棚のようなものがあった。
「これは何ですか」
「これは淀君が、いちいち遠江分器稲荷神社でお参りに行くのも疲れるとおっしゃられたので、急遽堀尾吉晴殿が城内に小さな稲荷神社を作ったのだ。
先ほど遠江分器稲荷神社の宮司も来て祈念された。
小さな鳥居と小さな黄金の狐と神棚も宮司の倉庫にあったらしい。
淀君は全部で十回遠江の稲荷神社で祈念されるらしい。
しばらくこちらで滞在されるらしい。」
外ではまだ雷鳴が鳴っている。
宗古は急に吉川の手をつなぎ、この小さな祠に二礼二拍手一礼をした。
「抱き寄せて」
スマホが輝いた。
「ほら、レベル5よ。レベルが上がったのよ」
画面には、狐のような動物と5/10と書かれた数値とレベル5という文字が浮かび上がった。
それにスマホのアプリ画面で、また文字が追加された。
「宗古は武器を手に入れた。高感度集音機能を手に入れた」

「これで容疑者を盗聴できるわ。
それから本堂の横の文書とからくり椅子にあった文を繋げると、からくり椅子に座って能面とカラスの血を振りまいたのか、これでわかったわね。
誰かが、月の小面を餌にからくり椅子で月の小面を欲しがった人物を殺そうとしたのね。
からくり車いすはゼンマイ仕掛けである程度動くと自動的に竹筒から細い小刀が発射されて椅子に座っている人物の胸の辺りに届くように仕掛けたのよ」
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