上 下
48 / 48

47,リミッターが嫌いな男の子はいないでしょ(偏見)

しおりを挟む
「……なるほど、把握した」
 アリスは脳の機能制限と聞き、瞬時にクリスティーナの言いたいことを理解した。

「リミッターだな? 当機にも搭載されていた」
 リミッター。それは、機能を制限するセーフティーシステムであり、同時に枷でもある。これが存在することにより、フルスペックのおおよそ8割の力しか出すことが出来ない。だがもちろん、枷をつけることには意味がある。それは、限界を超えさせない事と、『本体』を破壊させないことだ。限界を超えると、担保されていた安全は消える。それに、本体への負荷が激しい。負荷をかけすぎると、それだけで本体の消耗を早める。

「リミッター? よくわかんないけど、アリスが理解できたならいいわ。要は、制限が無いと体が持たないの。仮に制限を破って100%で動けたとしても、体が壊れるわよ。だから80%が限界なの」

「理解した。それでもう一つ質問だ。私はこの体をどれくらいうまく使用できている?」

「……なんかその言い方、自分の体が自分のものじゃ無いみたいね」
 核心を突く一言に思わずアリスは固まる。

「そうねぇ、50%ってとこじゃない? それより、わたしが気になるのは、アリスの自信のほう」

「私の……自信?」

「そう、自信。アリスは凄く鍛えているのに、まだ自分を信用していない。というか、その体を信用しきっていない。だから、まだまだ戦い方が消極的だし、リスクを踏みにいかない」

「それは……」

「わたしにはわかる。要は自分の鍛えてきた過程に、そしてこの短時間で仕上げた力に、そして己の強さに自信が無いのよ」

「……」
 アリスはクリスティーナの言葉を吟味するように考え込む。

「というか、原因としてはその…… レブナートとケレナにもある」

「それはどういうことだ」

「簡単よ、あの二人は強すぎるのよ。今のアリスならヒラの兵士程度なら瞬殺できる。でも、思い出してみなさいよ。二人ともどこ出身?」

「出身? たしか、王国騎士団だったか」

「その通り。あの騎士団のいいところは、入隊するのに身分が関係ないところ。だから、入隊して成り上がろうと考える者も多いから、選び抜かれた猛者しかいない。それで、そこの元団長とその弟子、弱いわけがなくない?」

「……たしかに」
 王国騎士団。それは、王を守る最後の騎士であり、同時に王国最強の騎士を要する名実ともに最強の騎士団である。入隊には身分、性別は一切関係なく、ただ剣の腕が求められる。また、求められる力として『どれだけ護れるか』も重要になる。国と王を護るのが最大の仕事であるため、最強の矛であることと、最強の盾であることの両方が求められる。そのため、毎年入隊希望者が殺到するが、入隊できる人間は一年に1人いたらいい方だと言われている。

「というか、わたしも強いの。そこのところ理解してる?」

「もちろんだ。だが、私の方が上だと判断する」

「……なんでわたしにだけはそんなに強気なのかしら。一度勝ったから? それにしてもムカつくわね」

「事実だ。仕方あるまい」
 
「ぐぬぬ……また寝首を掻くわよ」

「上等だ、やってみせるといい」

「……とりあえずどちらが強いかは置いておいて。わたしが言いたいのは、アリスの周りには強い人しかいないから自信を失いかけてるのよ。一度でもレブナートに勝った事ある?」

「……一度もない。いいところまで行ったことは何度か」
 その言葉を聞き、クリスティーナは少し溜息をつく。

「でしょうね。だって彼、手加減とか苦手そうだもの」
 でも、そこが素敵なのよねと付け加える。

「本当なら、同じくらいの実力の相手がいるといいんだけどね……なによその指は。私が同じくらいの実力ですって? いやいや、圧倒的に私の方が上よ」
 ナイナイと首を振りつつ、歩みは止めない。

「あ、止まって。ここから入るから」
 屋敷の中をこっそり(とはいってもガシャガシャ音は鳴っているが)進んでいたクリスティーナが止まった。

「ここか? 何もないが」
 止まったのは、アリスの、厳密にいえばアレフルルの父(今は別の屋敷に住んでいる)の書斎の近くの壁の前であった。ここは、屋敷の端であり、アリスもほとんど通った事が無い。他のメイドも滅多にここに立ち寄ることは無い。

「いいのよ。そこにわかりずらいかもしれないけど、スイッチがあるのよ。ほら、その煉瓦」
 クリスティーナに言われた所を見ると、確かに煉瓦の色が他の煉瓦と少し違う。

「ここを押すと、壁が動くの。押してみて」
 言われるがまま、スイッチを押す。

「おお」
 少し力を入れて押すと、ズズズという振動が伝わってきた。

「ここが隠し部屋。セーフルームのつもりで作ったのかは知らないけど、シナがサボってここで寄りかかってなかったらわたしも気が付かなかったわよ」
 壁が扉のように開き、中から少しかび臭いような、それでいて古めかしい空気が流れ出てきた。

「さ、行くわよ」
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?

真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

処理中です...