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46,シナ、どんくさい
しおりを挟む「ごちそーさまでした! ありがとー、クロイツ。美味しかった!」
「ああ、感謝する。満足した」
あれほどあったクッキーの山は全て消え、クロイツも嬉しそうだ。
「いえいえ、全部食べていただけで嬉しいです。また作りますね。まあ、クッキーの前に、別のものを作る予定があるんですけどね」
そう言い、器用にアリスにだけ見えるようにウインクをした。
「そうだな」
アリスも何か返さねばと思い、ウインクをしようとしたがーー
「……お嬢様? 両目をギュッとつぶってどうしたんです?」
ウインクができなく、ただ眼をギュッとつぶっただけだった。それを見たシナが首を傾げた。
「……なんでもない」
アリスは目を開け、少しそっぽを向いた。
「それよりも、この後はどうする?」
話を変える必要があると判断し、シナに話を振る。
「え、そうですね……とりあえず武器のおかたずけです?」
「……そうだな。まずはそれから始めよう。馳走になった、クロイツ」
「ええ、お粗末様でした。では、私は夕食の仕込みに戻らさせていただきます」
にこやかに手を振り、クロイツは静かにクローシュを持って部屋から出た。
「では行くぞ。あの武器を見たら他のメイドが驚いてしまうからな」
「たしかに! それは大変です!」
今回襲撃がある(であろう)ということは、アリス、シナ(クリスティーナ)、レブナート、ケレナしか知らない。もちろん、当日になるまでには皆に伝えるつもりではあるが、『今』ではない。しっかりと準備を整え、落ち着きができてからだ。
「地下室への行き方、残念ながら私は思い出せないのだが、シナは知っているということで大丈夫か」
「はい! 私がたまにサボ……少しだけ人目につかないところで休憩するのに使ってますので、大丈夫です!」
明らかにサボりに使っていると言いかけていたが、アリスはそこを気にしなかった。
「ふん……ふぬっ……!」
中庭。シナの奮闘する声が聞こえる。
「あまり無理をするな。私が持つ」
アリスは数本の武器を抱えているが、シナは三本目で苦しそうだ。
「ク、クリスティーナー……助けてー」
シナがひぃひぃ言いながら、クリスティーナに助けを求めた。
「……仕方ないわね。非力すぎるのよシナは」
シナ……クリスティーナは大きくため息をつき、入れ替わる。
「あら、あと数本だけじゃない。戦斧と槍と剣と大剣と……」
クリスティーナは、シナがひぃひぃ言いながら持ち上げていた武器の数々を軽々と持ち上げる。
「……どうしてシナと同じ筋肉量のはずなのに、シナより多く、それも楽そうに持ち上げることが出来るのだ?」
アリスは素直に考えた事をクリスティーナに問いかける。
「え? 秘密♡」
クリスティーナに笑顔でそう言われ、少し口をとがらせて閉じた。アリスなりの抗議の印だろう。
「ちょ、冗談よ冗談。そんな顔するんじゃないの」
「冗談は苦手だ」
「あー、はいはい。えっと、どうしてシナより重いものが持てるか、ですっけ?」
「ああ、その通りだ」
実際考えると不思議である。シナとクリスティーナに『身体的な』差は無い。技術や経験の差はあれど、力の差は存在しない。
「簡単よ。シナは、体の正しい使い方を『理解してない』のよ」
「……ほう、詳しく教えてくれ」
「えー? 説明面倒……嘘嘘! また口を尖らせようとするんじゃないの」
慌ててクリスティーナが先程の抗議をさせないように止める。はたから見たら可愛らしいものではあるが、目の前で、無表情でそういうことをされると、得体の知れない圧を感じる(クリスティーナ談)。
「まあ、ちゃんと説明してあげるから、地下室行くわよ」
「ああ」
クリスティーナに負けず劣らず重そうな武器をいくつも抱えたアリスも表情一つ変えずに(もとから変わらないが)、歩き出した。
「まず、シナはどんくさいのよ。それはわかるでしょ」
「そうだな、よく何もないところで転んでいるのを見かけるな」
「そうそう。ま、ヤバそうだなーって転び方しそうな時は一瞬だけわたしが対応しているんだけどね。それで話を戻すけど、シナはどんくさい。だから、正しい筋肉の使い方がわかってない。もちろん、わたしも100%筋肉を使用しているわけじゃないけど、シナはだいたい25%くらいしか使ってないんじゃない?」
「なるほど……では、クリスティーナはどれくらい使用しているのだ?」
そう聞くと、クリスティーナは少し考える素振りを見せた。
「今は60%くらい? さっき戦斧を振り回したときは70%と75%を行ったり来たり」
「では、まだ余力を30%も残しているという事になるのだな」
「いいえ? 残りはあと5%くらい。わたしの最大は80%くらいよ」
「80%?」
「そう、というより、100%なんてありえないのよ」
「ありえない、とはどういうことだ?」
「簡単よ。ま、これを説明するにはもう一つ説明しなきゃいけないけどね。それは、脳の機能制限よ」
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