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第一章
産声は困惑と共に
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放たれた炎魔法が渦となり、こちらに向かって襲い来る。
翼を羽ばたかせ、空に避けようと試みるも、こちらの動きに合わせて精密に追尾してくるので逃げ切るのが難しそうだ。
だからと言って、諦めたら業火に焼き尽くされるだけで、逃げるのをやめるわけにはいかない。
炎との追いかけっこの最中、しまった勇者本人の動きを完全に忘れていた、と気付いて辺りを見回す。
「ここだ、魔王!」
声のする方を振り向く間もなく、俺の体に激痛が走った。
痛みがする箇所を触ると、血がべったりとついている。
どうやら炎の攻撃魔法は囮に過ぎず、本命は勇者が持つ剣による斬撃だったようだ。
そこまで頭で整理して、このレベルの炎魔法でさえ囮に過ぎないのか、と戦闘力の違いに気付いてしまって心底恐怖した。
何故だ。
俺は誇り高きドラゴン族の魔物だ。
圧倒的な戦闘力で魔王の座まで駆け上がり、魔界を統一した程の男だ。
魔物達が卑劣な人間に恐怖せずに安心して毎日を生きていける世界を夢見て、魔王にまでなったんだ。
後はこの勇者とかいう人間界代表気取りの糞野郎さえ殺してしまえば、魔物のための世界が確たるものになるはずだった。
それなのに、その勇者に圧倒され、俺の命は風前の灯火となってしまっている。
人間は邪悪で小賢しい生き物ではあるものの、直接的な戦闘力では魔物に劣るはずなのに。
そんな人間を相手に、ドラゴンであるこの俺が、一対一でねじ伏せられようとしている。
魔法で翻弄され、更には剣で切り刻まれた俺は、とうとう背中の翼も切り落とされ、無様に倒れこんでしまった。
体のあちこちが痛いのはもちろんなのだが、熱いのか寒いのかよくわからない、不思議な感覚に陥っていた。
恐らくだが……これは命が終わろうとしているんだろう。
俺は今、憎き人間である勇者に殺されようとしている。
今の魔界で一番強い俺がこれほどまでに圧倒されるとは。
恐らく俺が死のうとも、部下達は人間に対して抵抗を続けるであろうから、俺の死後すぐに魔界が人間に支配されることはないとは思う。
しかし結局、この勇者がいる限り、人間の支配する世界の実現も時間の問題でしかない。
俺達魔物は、卑劣な人間に虐殺されるしかないのだろうか。
「最期に言い残すことはないか?」
勝ちを確信したのか、勇者がそう言った。
上からの発言に怒りを覚えるも、この状況を見れば実際に相手が上と言わざるを得ないので、グッと我慢する。
とにかく、奴は俺の最後の言葉とやらを待っているので、捨て台詞のようになってしまうが、一つだけ言っておきたい事実を伝えた。
「これで終わりだと思うなよ、勇者。俺は生まれ変わっても再び魔王となり、次こそ人間の世を終わらせてやる……」
負け惜しみだと思われるかもしれないが、これは嘘ではない、ただただ真実を述べているだけだ。
ここだけの話、実は魔王となった魔物にだけ伝えられる秘術があるのだ。
それは転生魔法である。
俺も実際にやったことはないので詳しくはないのだが、なんでも、記憶と魔力を引き継いで生まれ変わることができるとか。
複雑で取得が難しい魔法であり、要は魔王にだけ伝えられるというより、魔王になれる程の実力者しか使えない魔法なんだと俺は解釈した。
恐らく、魔王に就ける程の強い魔物を簡単に絶やすわけにはいかない、と開発された魔法なんだと予想している。
本当に転生できるのか、なら何故歴代の魔王はやってないのか、やってるけど我々が気付いてないだけなのか、等々。
色々疑い始めたら、きりがない程の不安が溢れてくる。
生まれ変わる、ということは一回死ぬのが前提なんだし、魔王といえど怖いものは怖いんだ。
だが、このまま何もしなければ、それこそただ死ぬだけだ。
俺に他の選択肢はなく、一刻の猶予すらもない。
意を決して、倒れ込んでた体を起こしてから、俺は転生魔法を発動した。
すると、足元の方から俺の体が石化し始めた。
恐らくではあるが、これが転生魔法の効果なんだろう。
勇者の魔法による結果だという可能性も考えて、勇者の方を確認するも、奴は驚いている様子なので、転生魔法の結果だと断定していいだろう。
俺の体の異変に驚く勇者を見ながら、その姿が段々とかすれてきたので、俺の意識が遠退いているのだと理解した。
勇者……次こそは必ず殺す……そして今度こそ魔物のための世界を……。
やがて石化の進行は、俺の頭部を飲み込むまでに至り、そこで俺の意識は一旦幕を閉じた。
気が付くと、不思議な空間に俺は居た。
いや、居た、と言っていいのだろうか?
説明するのは難しいが……意識だけの世界というか、不確定ながら言い切っていいなら、生まれ変わる前に意識が控える空間のような場所か。
そこに魂だけとなっている俺がふよふよと漂っている。
転生魔法の効果だろうか?
だとすれば、俺はこれから新たな体にこの命を宿すというわけか。
そこまで考えて、ふと、新たな疑問が浮かび上がった。
俺はドラゴン族だったのだが、次もまたドラゴン族に生まれることができるのか?
何の確証もないまま、そうだと思い込んでいたが、よくよく考えると生まれ変わった次に関しての情報は一切なかったことに気付いた。
もし違う種族に生まれ変わることもあるとすれば、まずいな……。
ドラゴン族は、魔物の中でも屈指の戦闘力を誇る。
単純に体が大きい分パワーも魔物の中でトップクラスであるし、巨躯ではあるが翼が生えてるおかげで機動力だってある。
頑丈な鱗に覆われているので並大抵の攻撃ではびくともしない。
まさに完璧な戦闘力を誇る、最強の種族なのだ!
……まあ、勇者には負けてしまったけど。
とにかく、そんなドラゴン族に生まれ変われると思い込んでいたので、気付いてしまった可能性に危機感を覚えた。
でも、仮にどんな魔物になったとしても、俺には引き継がれる強大な魔力がある。
確かにドラゴン族は強い種族だが、それだけで魔王になれるわけではない。
俺が魔王になった理由は、この強大な魔力にあるのだ。
魔法の源である魔力は、当然その身に多く宿すほど、強力な魔法が放てるようになる。
ドラゴン族は、先に挙げたような特徴で肉体的な戦闘力は屈指のレベルではあるが、魔法の扱いが上手くないという弱点もあった。
その弱点を克服する魔法の心得があったからこそ、俺は魔王の座まで成り上がったのだ。
……まあ、そんな魔法ですら勇者には負けてしまったけど。
屈強なドラゴンの体で負けてしまったので、この先どんな魔物に生まれ変わっても、厳しい戦況は変わらないかもしれない。
それでも、俺が生きている限り、人間を滅ぼすことは諦めない。
新しい命で、今度こそ勇者を倒してみせる!
改めて決意を強く抱いたところで、この謎の空間に光が差し込んだことに気付いた。
とうとう新しい俺が生まれるのだろうか。
その光に吸い込まれるように、俺の魂は動き出した。
そして目が覚めると、そこには人間がいた。
……え、人間?
どうして人間がいるんだ?
俺が生まれたこの集落は、たった今人間に攻められているのか?
だとすればまずい、さっそく新しいこの体で応戦せねば!
しかし、生まれたばかりの俺は、要するに赤子の状態であり、体を動かすことすらままならない。
喋ろうにも、出産直後の赤子だからか、泣き声のような物しか発せない。
ならば魔法を繰り出そう、そう考えたのだが、何故か魔法が出てこない。
体内にあるであろう強力な魔力を何となく感じることはできるから、転生の際に魔力の引き継ぎに失敗したということはなさそうだ。
記憶の方だって、今こうして色々考えている時点で、無事引き継いだと言い切ってもいいだろう。
ということは、魔法の知識も引き継いでるので、魔力さえあれば魔法は難なく放てるはずなのに……どういうことだ?
ふと、魔法を放とうと人間に向けて無意識に伸ばしていた自らの腕を見る。
今まで見たことない肌をしていた。
この肌は、何の魔物だ?
とりあえずドラゴン族ではないとは言い切れる。
今までずっとドラゴン族の魔物として生きてきたんだから、それだけは間違いない。
何の魔物になったか知らんが、慣れない体だから魔法も出ないのだろうか?
とにかく確実に言えることは、生まれたばかりの俺は人間と対峙しており、更にこっちはまともに戦闘もできない。
一言でまとめると絶体絶命である。
ああだこうだ考えているうちに、俺は目の前の人間に抱きかかえられた。
一応抵抗はしてみるものの、赤子の抵抗など高が知れている。
くそ、人間に復讐を誓ったけど、こんなに早く計画が失敗に終わってしまうのか。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
俺を抱きかかえた人間は、確かにそういった。
何だ、この人間?
魔物である俺の誕生を祝っているかのようではないか。
困惑し、状況を詳しく把握したくなった俺は、首がすわってないので視線だけ動かして周囲を確認した。
その結果、俺に待っていたのは更なる困惑だった。
見回すと、そこには人、人、人。
魔物は一切おらず、人間しかいない場所だった。
そんな中、横たわっている女の人間もいた。
出産があった状況で、女の人間が横たわっている。
どう考えても、彼女が赤子を産んだ瞬間と言えよう。
そしてその中で産まれたのは俺だ。
よくよく見返すと、俺の肌は、その体は、人間のそれに酷似していた。
……まさか、そんな馬鹿な。
あまりにも最悪のシナリオで、俺にとっては僅かにも予想することのできなかった展開。
それは間違いであってくれと切に祈っている俺に対し、俺を受け渡された母親と思われる人間がとどめを刺すのである。
「ああ可愛い、私の赤ちゃん……生まれてくれて、ありがとう……」
決定的である。
そう、魔界を統べし魔王だった俺が。
誇り高きドラゴン族の魔物だった俺が。
人間が憎くて憎くて仕方がない、この俺が。
「人間に生まれ変わってしまったあぁ!」
悲痛なその叫びは、おぎゃあ、という産声となって辺りにこだました。
翼を羽ばたかせ、空に避けようと試みるも、こちらの動きに合わせて精密に追尾してくるので逃げ切るのが難しそうだ。
だからと言って、諦めたら業火に焼き尽くされるだけで、逃げるのをやめるわけにはいかない。
炎との追いかけっこの最中、しまった勇者本人の動きを完全に忘れていた、と気付いて辺りを見回す。
「ここだ、魔王!」
声のする方を振り向く間もなく、俺の体に激痛が走った。
痛みがする箇所を触ると、血がべったりとついている。
どうやら炎の攻撃魔法は囮に過ぎず、本命は勇者が持つ剣による斬撃だったようだ。
そこまで頭で整理して、このレベルの炎魔法でさえ囮に過ぎないのか、と戦闘力の違いに気付いてしまって心底恐怖した。
何故だ。
俺は誇り高きドラゴン族の魔物だ。
圧倒的な戦闘力で魔王の座まで駆け上がり、魔界を統一した程の男だ。
魔物達が卑劣な人間に恐怖せずに安心して毎日を生きていける世界を夢見て、魔王にまでなったんだ。
後はこの勇者とかいう人間界代表気取りの糞野郎さえ殺してしまえば、魔物のための世界が確たるものになるはずだった。
それなのに、その勇者に圧倒され、俺の命は風前の灯火となってしまっている。
人間は邪悪で小賢しい生き物ではあるものの、直接的な戦闘力では魔物に劣るはずなのに。
そんな人間を相手に、ドラゴンであるこの俺が、一対一でねじ伏せられようとしている。
魔法で翻弄され、更には剣で切り刻まれた俺は、とうとう背中の翼も切り落とされ、無様に倒れこんでしまった。
体のあちこちが痛いのはもちろんなのだが、熱いのか寒いのかよくわからない、不思議な感覚に陥っていた。
恐らくだが……これは命が終わろうとしているんだろう。
俺は今、憎き人間である勇者に殺されようとしている。
今の魔界で一番強い俺がこれほどまでに圧倒されるとは。
恐らく俺が死のうとも、部下達は人間に対して抵抗を続けるであろうから、俺の死後すぐに魔界が人間に支配されることはないとは思う。
しかし結局、この勇者がいる限り、人間の支配する世界の実現も時間の問題でしかない。
俺達魔物は、卑劣な人間に虐殺されるしかないのだろうか。
「最期に言い残すことはないか?」
勝ちを確信したのか、勇者がそう言った。
上からの発言に怒りを覚えるも、この状況を見れば実際に相手が上と言わざるを得ないので、グッと我慢する。
とにかく、奴は俺の最後の言葉とやらを待っているので、捨て台詞のようになってしまうが、一つだけ言っておきたい事実を伝えた。
「これで終わりだと思うなよ、勇者。俺は生まれ変わっても再び魔王となり、次こそ人間の世を終わらせてやる……」
負け惜しみだと思われるかもしれないが、これは嘘ではない、ただただ真実を述べているだけだ。
ここだけの話、実は魔王となった魔物にだけ伝えられる秘術があるのだ。
それは転生魔法である。
俺も実際にやったことはないので詳しくはないのだが、なんでも、記憶と魔力を引き継いで生まれ変わることができるとか。
複雑で取得が難しい魔法であり、要は魔王にだけ伝えられるというより、魔王になれる程の実力者しか使えない魔法なんだと俺は解釈した。
恐らく、魔王に就ける程の強い魔物を簡単に絶やすわけにはいかない、と開発された魔法なんだと予想している。
本当に転生できるのか、なら何故歴代の魔王はやってないのか、やってるけど我々が気付いてないだけなのか、等々。
色々疑い始めたら、きりがない程の不安が溢れてくる。
生まれ変わる、ということは一回死ぬのが前提なんだし、魔王といえど怖いものは怖いんだ。
だが、このまま何もしなければ、それこそただ死ぬだけだ。
俺に他の選択肢はなく、一刻の猶予すらもない。
意を決して、倒れ込んでた体を起こしてから、俺は転生魔法を発動した。
すると、足元の方から俺の体が石化し始めた。
恐らくではあるが、これが転生魔法の効果なんだろう。
勇者の魔法による結果だという可能性も考えて、勇者の方を確認するも、奴は驚いている様子なので、転生魔法の結果だと断定していいだろう。
俺の体の異変に驚く勇者を見ながら、その姿が段々とかすれてきたので、俺の意識が遠退いているのだと理解した。
勇者……次こそは必ず殺す……そして今度こそ魔物のための世界を……。
やがて石化の進行は、俺の頭部を飲み込むまでに至り、そこで俺の意識は一旦幕を閉じた。
気が付くと、不思議な空間に俺は居た。
いや、居た、と言っていいのだろうか?
説明するのは難しいが……意識だけの世界というか、不確定ながら言い切っていいなら、生まれ変わる前に意識が控える空間のような場所か。
そこに魂だけとなっている俺がふよふよと漂っている。
転生魔法の効果だろうか?
だとすれば、俺はこれから新たな体にこの命を宿すというわけか。
そこまで考えて、ふと、新たな疑問が浮かび上がった。
俺はドラゴン族だったのだが、次もまたドラゴン族に生まれることができるのか?
何の確証もないまま、そうだと思い込んでいたが、よくよく考えると生まれ変わった次に関しての情報は一切なかったことに気付いた。
もし違う種族に生まれ変わることもあるとすれば、まずいな……。
ドラゴン族は、魔物の中でも屈指の戦闘力を誇る。
単純に体が大きい分パワーも魔物の中でトップクラスであるし、巨躯ではあるが翼が生えてるおかげで機動力だってある。
頑丈な鱗に覆われているので並大抵の攻撃ではびくともしない。
まさに完璧な戦闘力を誇る、最強の種族なのだ!
……まあ、勇者には負けてしまったけど。
とにかく、そんなドラゴン族に生まれ変われると思い込んでいたので、気付いてしまった可能性に危機感を覚えた。
でも、仮にどんな魔物になったとしても、俺には引き継がれる強大な魔力がある。
確かにドラゴン族は強い種族だが、それだけで魔王になれるわけではない。
俺が魔王になった理由は、この強大な魔力にあるのだ。
魔法の源である魔力は、当然その身に多く宿すほど、強力な魔法が放てるようになる。
ドラゴン族は、先に挙げたような特徴で肉体的な戦闘力は屈指のレベルではあるが、魔法の扱いが上手くないという弱点もあった。
その弱点を克服する魔法の心得があったからこそ、俺は魔王の座まで成り上がったのだ。
……まあ、そんな魔法ですら勇者には負けてしまったけど。
屈強なドラゴンの体で負けてしまったので、この先どんな魔物に生まれ変わっても、厳しい戦況は変わらないかもしれない。
それでも、俺が生きている限り、人間を滅ぼすことは諦めない。
新しい命で、今度こそ勇者を倒してみせる!
改めて決意を強く抱いたところで、この謎の空間に光が差し込んだことに気付いた。
とうとう新しい俺が生まれるのだろうか。
その光に吸い込まれるように、俺の魂は動き出した。
そして目が覚めると、そこには人間がいた。
……え、人間?
どうして人間がいるんだ?
俺が生まれたこの集落は、たった今人間に攻められているのか?
だとすればまずい、さっそく新しいこの体で応戦せねば!
しかし、生まれたばかりの俺は、要するに赤子の状態であり、体を動かすことすらままならない。
喋ろうにも、出産直後の赤子だからか、泣き声のような物しか発せない。
ならば魔法を繰り出そう、そう考えたのだが、何故か魔法が出てこない。
体内にあるであろう強力な魔力を何となく感じることはできるから、転生の際に魔力の引き継ぎに失敗したということはなさそうだ。
記憶の方だって、今こうして色々考えている時点で、無事引き継いだと言い切ってもいいだろう。
ということは、魔法の知識も引き継いでるので、魔力さえあれば魔法は難なく放てるはずなのに……どういうことだ?
ふと、魔法を放とうと人間に向けて無意識に伸ばしていた自らの腕を見る。
今まで見たことない肌をしていた。
この肌は、何の魔物だ?
とりあえずドラゴン族ではないとは言い切れる。
今までずっとドラゴン族の魔物として生きてきたんだから、それだけは間違いない。
何の魔物になったか知らんが、慣れない体だから魔法も出ないのだろうか?
とにかく確実に言えることは、生まれたばかりの俺は人間と対峙しており、更にこっちはまともに戦闘もできない。
一言でまとめると絶体絶命である。
ああだこうだ考えているうちに、俺は目の前の人間に抱きかかえられた。
一応抵抗はしてみるものの、赤子の抵抗など高が知れている。
くそ、人間に復讐を誓ったけど、こんなに早く計画が失敗に終わってしまうのか。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
俺を抱きかかえた人間は、確かにそういった。
何だ、この人間?
魔物である俺の誕生を祝っているかのようではないか。
困惑し、状況を詳しく把握したくなった俺は、首がすわってないので視線だけ動かして周囲を確認した。
その結果、俺に待っていたのは更なる困惑だった。
見回すと、そこには人、人、人。
魔物は一切おらず、人間しかいない場所だった。
そんな中、横たわっている女の人間もいた。
出産があった状況で、女の人間が横たわっている。
どう考えても、彼女が赤子を産んだ瞬間と言えよう。
そしてその中で産まれたのは俺だ。
よくよく見返すと、俺の肌は、その体は、人間のそれに酷似していた。
……まさか、そんな馬鹿な。
あまりにも最悪のシナリオで、俺にとっては僅かにも予想することのできなかった展開。
それは間違いであってくれと切に祈っている俺に対し、俺を受け渡された母親と思われる人間がとどめを刺すのである。
「ああ可愛い、私の赤ちゃん……生まれてくれて、ありがとう……」
決定的である。
そう、魔界を統べし魔王だった俺が。
誇り高きドラゴン族の魔物だった俺が。
人間が憎くて憎くて仕方がない、この俺が。
「人間に生まれ変わってしまったあぁ!」
悲痛なその叫びは、おぎゃあ、という産声となって辺りにこだました。
応援ありがとうございます!
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