シチューにカツいれるほう?

とき

文字の大きさ
31 / 41
7章 三人暮らし

31話

しおりを挟む
 気持ちの整理がつかず、志田との会話は最小限になってしまう。
 志田も志田で椎木を引き留められなかったことを気に病んでいるのか、いつも以上に口を開かなかった。

「リヒト、ご飯食べよー!」

 最近よく聞く声がして、とんでもなくびっくりした。
 家を勝手に飛び出していった椎木が教室に現れたのだ。

「ああ」

 いつも文句を言う志田だったが、今日ばかりは受け入れるしかない。
 真理子は胸がずきっと痛むのを感じた。

「アイザワさん、外で食べない?」

 そのとき、川上が声をかけてきた。
 いいよと、真理子はすぐに了承する。
 二人が一緒にいるところを見ていられなかったから。

「あたしも行く!」

 というのは美紀。
 どうぞと、川上はニコッと笑った。
 二人とも気を遣ってくれているのだった。




 学校内にくつろぐスポットは多く用意されている。人気のあるところは取り合いになってしまうが、なんとか一つを確保する。
 真理子たちはお弁当を広げる。
 実は真理子のは、志田お手製のお弁当。
 志田のお弁当と中身は同じなのだが、並びを変えて同じだとは思わせないように作ってある。

「リヒトがアイザワさんに何かした?」
「ぐほっ」

 川上がいきなり本題をぶつけてくるので、食べているものを吹き出してしまいそうになる。

「川上、唐突すぎ! ノンデリか!」

 すかさず美紀がツッコむ。

「遠回しに言ってもしょうがないかなと思って」

 川上はてへへと笑う。かっこいい顔して案外エグい。
 志田が話したので、川上はある程度、真理子たちの事情を知っている。

「ううん、志田くんは何も悪くないの」
「じゃあ、椎木さんのこと?」
「うーん……。それもあるけど、自分の問題かな……」
「そっか。俺が力になれることはない?」
「ありがと。こればかりは自分でなんとかしないといけないんだ」

 心配してくれるのはとてもうれしい。自分は一人じゃないって思えるから。
 でも、今ある問題はホントに自分の問題で、他の人に手伝ってもらえるものじゃなかった。
 志田が好きだからこその悩み。好きをやめるか、他の問題が片付くまでは長引きそう。

「そんなにリヒトのことが好きなんだね」
「ごふっ!?」

 ついに食べているものを吹き出してしまう。

「ご、ごめん!」
「真理ちゃん、なにやってんの!」

 美紀がすぐにティッシュで拭いてくれる。

「うらやましいな。リヒトはそんなに思われていて」

 以前、真理子に告白した川上。
 一皮むけて成長したのか、達観したようなしゃべり方をするので驚いてしまう。もともと大人びていたけれど、ずっと大人になった気がする。
 そして、めちゃくちゃ恥ずかしい。夏になったかのように暑く感じる。

「それならリヒトを信じてやって。あいつは絶対に裏切らないから」

 川上は真剣な面持ちで言う。

「……うん、知ってる」
「ゆっくり大きく構えていれば、いつかは落ち着くはずだよ」

 真理子は川上の言う通りだと思った。
 今、いろんなことが起きすぎて焦ってしまっている。物事があっちにいったりこっちにいったり定まらないことで、心もまったく落ち着かなかった。
 でも、一つ動かないものがある。
 志田の真理子を思う気持ち。
 自分でそう考えるのは恥ずかしいけれど、それが志田の中で揺らぐのはこれまで見たことがないし、これからもきっとないと思う。
 うぬぼれているわけじゃなくて、それが志田の本質だから。真理子が好きになったところだから。

「そうだね。ありがと!」

 志田は、他の誰かがじゃない、自分自身が選んだ人。
 なら、それを信じられない自分が悪いじゃないか。
 川上の言うように、大きく構えて自分が選んだ人を待たなきゃ。そうでなけりゃ、志田にも失礼だ!

(なんで忘れてたんだろ。私は一人じゃない。家族なんだからしっかりしなきゃ!)

 真理子はスマホの待ち受け画面を変える。
 それは古墳の公園で撮った写真。真理子と志田が写っている。
 恥ずかしいからと待ち受けにしていなかったけど、これが志田との大きなつながりだったことにようやく気づく。
 どうして志田を信じてあげられなかったのかホントに恥ずかしい。

(弱気な私、バイバイ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる―― その声の力に怯えながらも、歌うことをやめられない翠蓮(スイレン)に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているの――?声に導かれ、三人は王家が隠し続けた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり、ドロドロな重い話あり、身分違いの恋あり 旧題:翡翠の歌姫と2人の王子

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...