シチューにカツいれるほう?

とき

文字の大きさ
19 / 41
4章 思い

19話

しおりを挟む
「ふー! 危なかったねー、真理ちゃん」
「あ、ありがと……」

 美紀は大げさに額の汗を拭ってみせる。
 二人は学校の人気のないところまで逃げてきた。美紀は何も悪くないので、真理子はとりあえず感謝を伝えておく。

「それにしても、ホント志田って嫌な奴だよね! 何考えてるかわからないし、強引すぎ! 女の子をなんだと思ってるんだ!」

 さんざんに言う美紀。

「……ううん、志田くんは悪くないよ」
「なんで志田の肩を持つの? 真理ちゃんいい人すぎ!」
「あはは……そうじゃなくてね……」

 あの騒動を見れば、誰だって志田が悪人だと思ってしまうはず。
 でも、元はといえば真理子が根本の問題から逃げようとしていたから。志田は真理子と一緒に解決しようとしていただけ。
 真理子は覚悟を決めて、真実を話そうと思った。
 何度も体を張ってくれる志田を悪者にもできないし、ここまで自分のことを思ってくれる美紀にもウソをつき通せない。

「実はね……」

 美紀にこれまでのことを話した。
 無理していい人を演じていたこと。母が毒親で、家にいたくないこと。志田に助けてもらって、料理を教わっていたこと。
 そして……昨日、母と志田の直接対決があったこと。

「そうだったんだ……」

 いつも笑顔の美紀が厳しくまゆを寄せている。
 思わぬカミングアウトに、美紀はショックを受けているようだった。

「信じられない! どうして、あたしに話してくれなかったの!!」
「ええっ!?」

 急に自分が怒られ、真理子も戸惑ってしまう。

「あたしにウソつかなくてもいいじゃん! 親友でしょ!!」

 これにはぐうの音も出ない。
 自分の秘密は志田にも話すつもりはなかったのだけど、流れで志田を頼ることになってしまった。
 でも結果的に、いつも自分の隣にいた美紀を後回しにしてしまっていたのだ。

「ごめん……」

 話さなかった理由はもちろん、自分の暗い部分を知られて、誰にも嫌われたくなかったから。その中でも自分を手放しで信じてくれている美紀に嫌われたら終わり。

「あたし、どんな真理ちゃんでも好きだよ! 偽りだっていいじゃない! 変だっていいじゃない! 真理ちゃんは真理ちゃんでしょ!」
「美紀……」

 純粋な思いをぶつけてくる美紀に、ホントに申し訳ないことしてしまったと思うばかり。

「ごめんね……」
「ごめんはもういいよ! 今、全部話してくれたんだから、あたしは気にしない!」

 前に聞いたようなことを言われる。
 志田も美紀も自分に対して優しすぎる。

「……そうだね。ありがと!」
「うん、それでよし! オール解決! 万事オーケー!」

 笑顔で応えると、美紀も笑顔で返してくれる。

「それにしても、妬けるねえ」
「やける?」

 やけるの漢字が思いつかない。

「志田のこと好きなんでしょ?」
「好き? 私が?」
「好きじゃなかったら何? 愛してるとか?」
「愛!?」

 高校生らしからぬワード。頭が爆発しそうなほどの衝撃が走る。

「そ、そそそ、そんなことないと思うけど……」
「そそそ、そんなことあるよ!」

 美紀がどもりをいじってくる。

「好きでなけりゃ、こんなことならないし、それで悩んだりしない!」
「うーん……どうなんだろ……」
「一緒にいたいんでしょ? 話したいんでしょ? 会いたいんでしょ?」
「う……」

 連続攻撃に言葉に詰まる。
 考えてみれば、全部思い当たる気がする。ごく当たり前の欲求な感じがして、それが恋だとは思わなかったけど、冷静に分析してみれば、それが男女における感情の場合、一般的に恋というのでは……?

「うん……」
「わあ! じゃあ決まりだね! 真理ちゃん、志田のこと好きなんだ!」

 大声で言われると恥ずかしい。
 でも、否定する気持ちにはならなかった。むしろ納得できて落ち着くというか。暖かいというか、むずがゆいというか。

(そっか、好きなんだ……)

 自分の気持ちにようやく気づけた気がする。

「ああ、恥ずかしい……」
「なんで? 人を好きになるのって普通でしょ?」
「普通、かあ……」

 変わり者の自分が普通のことをしている。これまで誰と関わるか母に選ばせてきた自分が、人を好きになった。
 そう思うと、悪くない気がしてきた。

「……うん。そうなのかも」
「ふふふー、真理ちゃんにも春が来たんだね!」

 恥ずかしいことには変わりない。
 でも、むずがゆさが妙に心地がいい気がした。
 恋を春に例えるのはそういうことなのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる―― その声の力に怯えながらも、歌うことをやめられない翠蓮(スイレン)に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているの――?声に導かれ、三人は王家が隠し続けた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり、ドロドロな重い話あり、身分違いの恋あり 旧題:翡翠の歌姫と2人の王子

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...