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4章 思い
19話
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「ふー! 危なかったねー、真理ちゃん」
「あ、ありがと……」
美紀は大げさに額の汗を拭ってみせる。
二人は学校の人気のないところまで逃げてきた。美紀は何も悪くないので、真理子はとりあえず感謝を伝えておく。
「それにしても、ホント志田って嫌な奴だよね! 何考えてるかわからないし、強引すぎ! 女の子をなんだと思ってるんだ!」
さんざんに言う美紀。
「……ううん、志田くんは悪くないよ」
「なんで志田の肩を持つの? 真理ちゃんいい人すぎ!」
「あはは……そうじゃなくてね……」
あの騒動を見れば、誰だって志田が悪人だと思ってしまうはず。
でも、元はといえば真理子が根本の問題から逃げようとしていたから。志田は真理子と一緒に解決しようとしていただけ。
真理子は覚悟を決めて、真実を話そうと思った。
何度も体を張ってくれる志田を悪者にもできないし、ここまで自分のことを思ってくれる美紀にもウソをつき通せない。
「実はね……」
美紀にこれまでのことを話した。
無理していい人を演じていたこと。母が毒親で、家にいたくないこと。志田に助けてもらって、料理を教わっていたこと。
そして……昨日、母と志田の直接対決があったこと。
「そうだったんだ……」
いつも笑顔の美紀が厳しくまゆを寄せている。
思わぬカミングアウトに、美紀はショックを受けているようだった。
「信じられない! どうして、あたしに話してくれなかったの!!」
「ええっ!?」
急に自分が怒られ、真理子も戸惑ってしまう。
「あたしにウソつかなくてもいいじゃん! 親友でしょ!!」
これにはぐうの音も出ない。
自分の秘密は志田にも話すつもりはなかったのだけど、流れで志田を頼ることになってしまった。
でも結果的に、いつも自分の隣にいた美紀を後回しにしてしまっていたのだ。
「ごめん……」
話さなかった理由はもちろん、自分の暗い部分を知られて、誰にも嫌われたくなかったから。その中でも自分を手放しで信じてくれている美紀に嫌われたら終わり。
「あたし、どんな真理ちゃんでも好きだよ! 偽りだっていいじゃない! 変だっていいじゃない! 真理ちゃんは真理ちゃんでしょ!」
「美紀……」
純粋な思いをぶつけてくる美紀に、ホントに申し訳ないことしてしまったと思うばかり。
「ごめんね……」
「ごめんはもういいよ! 今、全部話してくれたんだから、あたしは気にしない!」
前に聞いたようなことを言われる。
志田も美紀も自分に対して優しすぎる。
「……そうだね。ありがと!」
「うん、それでよし! オール解決! 万事オーケー!」
笑顔で応えると、美紀も笑顔で返してくれる。
「それにしても、妬けるねえ」
「やける?」
やけるの漢字が思いつかない。
「志田のこと好きなんでしょ?」
「好き? 私が?」
「好きじゃなかったら何? 愛してるとか?」
「愛!?」
高校生らしからぬワード。頭が爆発しそうなほどの衝撃が走る。
「そ、そそそ、そんなことないと思うけど……」
「そそそ、そんなことあるよ!」
美紀がどもりをいじってくる。
「好きでなけりゃ、こんなことならないし、それで悩んだりしない!」
「うーん……どうなんだろ……」
「一緒にいたいんでしょ? 話したいんでしょ? 会いたいんでしょ?」
「う……」
連続攻撃に言葉に詰まる。
考えてみれば、全部思い当たる気がする。ごく当たり前の欲求な感じがして、それが恋だとは思わなかったけど、冷静に分析してみれば、それが男女における感情の場合、一般的に恋というのでは……?
「うん……」
「わあ! じゃあ決まりだね! 真理ちゃん、志田のこと好きなんだ!」
大声で言われると恥ずかしい。
でも、否定する気持ちにはならなかった。むしろ納得できて落ち着くというか。暖かいというか、むずがゆいというか。
(そっか、好きなんだ……)
自分の気持ちにようやく気づけた気がする。
「ああ、恥ずかしい……」
「なんで? 人を好きになるのって普通でしょ?」
「普通、かあ……」
変わり者の自分が普通のことをしている。これまで誰と関わるか母に選ばせてきた自分が、人を好きになった。
そう思うと、悪くない気がしてきた。
「……うん。そうなのかも」
「ふふふー、真理ちゃんにも春が来たんだね!」
恥ずかしいことには変わりない。
でも、むずがゆさが妙に心地がいい気がした。
恋を春に例えるのはそういうことなのかもしれない。
「あ、ありがと……」
美紀は大げさに額の汗を拭ってみせる。
二人は学校の人気のないところまで逃げてきた。美紀は何も悪くないので、真理子はとりあえず感謝を伝えておく。
「それにしても、ホント志田って嫌な奴だよね! 何考えてるかわからないし、強引すぎ! 女の子をなんだと思ってるんだ!」
さんざんに言う美紀。
「……ううん、志田くんは悪くないよ」
「なんで志田の肩を持つの? 真理ちゃんいい人すぎ!」
「あはは……そうじゃなくてね……」
あの騒動を見れば、誰だって志田が悪人だと思ってしまうはず。
でも、元はといえば真理子が根本の問題から逃げようとしていたから。志田は真理子と一緒に解決しようとしていただけ。
真理子は覚悟を決めて、真実を話そうと思った。
何度も体を張ってくれる志田を悪者にもできないし、ここまで自分のことを思ってくれる美紀にもウソをつき通せない。
「実はね……」
美紀にこれまでのことを話した。
無理していい人を演じていたこと。母が毒親で、家にいたくないこと。志田に助けてもらって、料理を教わっていたこと。
そして……昨日、母と志田の直接対決があったこと。
「そうだったんだ……」
いつも笑顔の美紀が厳しくまゆを寄せている。
思わぬカミングアウトに、美紀はショックを受けているようだった。
「信じられない! どうして、あたしに話してくれなかったの!!」
「ええっ!?」
急に自分が怒られ、真理子も戸惑ってしまう。
「あたしにウソつかなくてもいいじゃん! 親友でしょ!!」
これにはぐうの音も出ない。
自分の秘密は志田にも話すつもりはなかったのだけど、流れで志田を頼ることになってしまった。
でも結果的に、いつも自分の隣にいた美紀を後回しにしてしまっていたのだ。
「ごめん……」
話さなかった理由はもちろん、自分の暗い部分を知られて、誰にも嫌われたくなかったから。その中でも自分を手放しで信じてくれている美紀に嫌われたら終わり。
「あたし、どんな真理ちゃんでも好きだよ! 偽りだっていいじゃない! 変だっていいじゃない! 真理ちゃんは真理ちゃんでしょ!」
「美紀……」
純粋な思いをぶつけてくる美紀に、ホントに申し訳ないことしてしまったと思うばかり。
「ごめんね……」
「ごめんはもういいよ! 今、全部話してくれたんだから、あたしは気にしない!」
前に聞いたようなことを言われる。
志田も美紀も自分に対して優しすぎる。
「……そうだね。ありがと!」
「うん、それでよし! オール解決! 万事オーケー!」
笑顔で応えると、美紀も笑顔で返してくれる。
「それにしても、妬けるねえ」
「やける?」
やけるの漢字が思いつかない。
「志田のこと好きなんでしょ?」
「好き? 私が?」
「好きじゃなかったら何? 愛してるとか?」
「愛!?」
高校生らしからぬワード。頭が爆発しそうなほどの衝撃が走る。
「そ、そそそ、そんなことないと思うけど……」
「そそそ、そんなことあるよ!」
美紀がどもりをいじってくる。
「好きでなけりゃ、こんなことならないし、それで悩んだりしない!」
「うーん……どうなんだろ……」
「一緒にいたいんでしょ? 話したいんでしょ? 会いたいんでしょ?」
「う……」
連続攻撃に言葉に詰まる。
考えてみれば、全部思い当たる気がする。ごく当たり前の欲求な感じがして、それが恋だとは思わなかったけど、冷静に分析してみれば、それが男女における感情の場合、一般的に恋というのでは……?
「うん……」
「わあ! じゃあ決まりだね! 真理ちゃん、志田のこと好きなんだ!」
大声で言われると恥ずかしい。
でも、否定する気持ちにはならなかった。むしろ納得できて落ち着くというか。暖かいというか、むずがゆいというか。
(そっか、好きなんだ……)
自分の気持ちにようやく気づけた気がする。
「ああ、恥ずかしい……」
「なんで? 人を好きになるのって普通でしょ?」
「普通、かあ……」
変わり者の自分が普通のことをしている。これまで誰と関わるか母に選ばせてきた自分が、人を好きになった。
そう思うと、悪くない気がしてきた。
「……うん。そうなのかも」
「ふふふー、真理ちゃんにも春が来たんだね!」
恥ずかしいことには変わりない。
でも、むずがゆさが妙に心地がいい気がした。
恋を春に例えるのはそういうことなのかもしれない。
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